闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 玉蓮 ◇◇◇

◇◇◇

 激戦の傷跡が生々しく残る中、赫燕(かくえん)たちはようやく屋敷に戻っていた。兵士たちの多くも疲れた体を休め、わずかな休息を貪っている。赫燕の屋敷の一室では、医師たちが額に汗を滲ませていた。震える手で差し出された椀の中で、茶色い液体がゆらゆらと揺れている。

「玉蓮様、どうか、こ、こちらを……」

 玉蓮は、差し出された椀を受け取り、ため息をつく。医師たちの視線は、豪奢(ごうしゃ)な寝台で半身を起き上がらせて、こちらを睨んでいる赫燕(かくえん)へと向けられている。

「あとは、わたくしがお世話をします。あなたたちは下がりなさい」

 玉蓮の言葉に、医師たちは安堵の表情を浮かべ、深々と頭を下げると、その部屋から足早に去っていく。静寂が戻った部屋の中、玉蓮は赫燕(かくえん)の傍らにそっと腰かけた。

「そんなに睨んでも、煎じ薬がなくなるわけではないのですよ」

「俺には毒だ」

 毎度のやり取りに、玉蓮の唇から、ふふ、と笑みが溢れるが、赫燕は眉根を寄せて顔を背けた。

「そんなもんがなくても治る。俺は」

「数日前にも熱を出されたでしょう。傷の治りに関わります」

 湯匙(ゆさじ)に煎じ薬を(すく)い、ふうと息を吹きかければ、湯気がふわりとたちのぼり、消えていく。形の良い唇にそれを差し出せば、さらに目の前の眉根が(しか)められた。

「どうぞ」

 (さじ)を睨みつけながらも、唇を近づけた赫燕が一瞬動きを止めて、玉蓮を見つめる。

「……熱い」

「ふふ、まるで幼子のようですね」