闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 子睿は、再び指を動かし始めた。(しゅん)という名の染みを、他の無数の染みと同じただの記号へと、意識的に戻していく。

 国威(こくい)は高まり、英雄も生まれた。結構なことだ。しかし、子睿の目には、そのきらびやかな勝利の裏で、静かに、しかし確実に国家という巨人が流している血が見えている。失われた兵士、空になりそうな国庫。この「勝利」という名の巨大な借金の形を、子睿は頭の中でなぞる。

 論功行賞(ろんこうこうしょう)で揉めるか、増税で民が離反(りはん)するか。あるいは、この勝利に怯えた王都の古狸たちが、我らを英雄として祭り上げ、その首に静かに毒を盛るか。どの道を選ぶにせよ、いつだって《《何か》》を支払わされるのは、前線で血を流した者たちだ。

「見ものですな」

 子睿は、王都・鄒許(すうきょ)の方角の空を見上げた。ぱちり、と乾いた音を立てて、手に持った扇を閉じる。まるで、一つの計算を終えた合図のように。