復讐姫と二人の英雄 —殺戮将軍と天才軍師の執着。その天命の盤で美しく狂い咲く—

◇◇◇ 玉蓮(ぎょくれん) ◇◇◇

 その時——

「そうだぞ、崔瑾(さいきん)。私の楽しみを奪う気か」

 声が響いた瞬間、場の空気が凍りついた。まるで劇の幕が切って落とされるように、玄済(げんさい)国王が、その豪華な装束(しょうぞく)(ひるがえ)して姿を現した。彼の隣には、華美な装飾と衣に身を包んだ太后(たいこう)が、背筋を一本の鋼のように伸ばし、静かに立っている。

 その場の空気が一瞬にして張り詰め、一同が慌ただしく膝をつき、頭を下げる。

「大王」

 王が扇を前に出して、その先を少しだけ上げる。

「立て」

 玉蓮の心の臓が、微かに音を立てる。

「母上、ご覧ください。あれが白楊(はくよう)の華と(うた)われる白菊です。なんと……美しい。あれを我が後宮に……!」

 玄済(げんさい)国王の視線は、熱烈な欲望を帯びて玉蓮に注がれていた。

「そなたが……白楊(はくよう)国、公主か」

 王の隣で、太后(たいこう)が無機質な声で玉蓮に問いかける。

「はい、わたくしめが白楊(はくよう)国・公主、玉蓮にございます」

 玉蓮は視線を下げたまま、もう一度、膝をつき、手を前で合わせると、静かに少しだけ体を倒す。周囲からは小さく、ほう、と息が漏れる音が聞こえる。

「ふむ、詩歌(うた)に違わぬな」

 太后(たいこう)の口元に、微かな笑みが浮かんだ。それは慈愛に満ちたものではなく、むしろ獲物を見定めたかのような、冷たい光を宿している。極上の伽羅(きゃら)の香りが漂ったかと思うと、彼女の指が玉蓮の肌に触れ、その顎を持ち上げる。


(この香りは——)


 ふと、舌の奥を刺すような苦味がないか、玉蓮は無意識に息を詰める。苦味はない。だが、その氷のような指先が思い出させるのは、肌を粟立たせるほどの冷酷な気配。

「顔をあげよ」

 静かな声に、下げていた視線をゆっくりと上げる。玉蓮は、その深淵のような瞳の奥を見た。この全てを見下し、全てを値踏みする、絶対的な眼差し。圧倒的な存在感が、息を詰める。

「この美しさ。月貌(げつぼう)とはよく言ったものだ」

「恐れ多きことにございます。わたくしめなどは、小さな灯り。太后(たいこう)様の輝かしい光の前では、沈んだ月も同様です」

 彼女の瞳が、静かに細められた。

「ふ、口も頭もよく回る娘だ。立つが良い」

「ありがとうございます、太后(たいこう)様」

 玉蓮は、ゆっくりと立ち上がり、視線を上げることなく、(わず)かに下がる。そこに、王がゆっくりと近づき、玉蓮の肌を舐めるように視線を動かした。