劉永は、胸の奥から込み上げてくる温かい何かを持て余すように、思わずその濡れ羽色の黒髪に手を伸ばした。

手が髪に届く寸前——

「劉永様! 姫君にまたそのような不埒なものを! このじいの首が百あっても足りませぬぞ!」

けたたましい叫び声とともに、扉が弾け飛ぶ勢いで開き、劉永の世話役である温泰(おんたい)が飛び込んできた。その顔は蒼白で、よほど慌てたのだろう、額には脂汗が滲んでいる。

「姫様はまだ(とお)なのですぞ!」

温泰は一目散に劉永と玉蓮の間に割って入り、玉蓮を背中に庇うように立つ。

「あ、じい。そこにいたの」

悪びれもせず、けろりとした顔で笑い、頭を抱えて深いため息をつく温泰を横目に流す。視線の先では、玉蓮が彼の背中からひょっこりと顔を覗かせ、心配そうにこちらを見上げていた。

劉永の口の端が、勝手に緩む。困ったものだと、自分でも思いながら。