闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。


 腹の底から、じりじりと何かが込み上げてきて、自然と眉間に力が入っていく。

「そんな訳ないっすよねえ。心なんて最初から持ってるわけ——」

「——おい」

 喉の奥から、唸るような声が出る。迅は「うお、やっぱ黙るっす」と声を上げて、口を閉ざしたが、子睿は飽きもせずさらに言葉を続けた。

「……でも、本当はわかっていますよ。ふふ。玉蓮を抱えるお頭の手。あんなに優しいお頭を見たのは、初めてですから。まさに英雄——」

「うるせえ。黙って出ていけ、クソども」

「へいへい。今日くらいは、寝台に優しく抱かれてくださいな」

 迅は軽口を叩きながら、子睿と共に部屋を出て行こうとする。好き勝手に言い合う側近たちの背中に向けて、赫燕は呟いた。

「……たく。俺の軍は、いつからこんなにうるさくなった」

 悪態をつきながら、赫燕はほんのわずかに、口の端が緩むのを自分でも止められなかった。だがその直後、傷口が引きつって痛みが走る。

「くそ、いてえな」

 そう呟いて、赫燕はそっと目を閉じた。