玉蓮が、その石を、震える手で天幕の灯りにかざした、その瞬間。石の中に何かが揺らめいた。
「……龍?」
紫水晶の、その深い闇の奥。光がある一定の角度で差し込んだ時だけ、一体の、玉を掴む四本角の龍が天に昇る姿が、浮かび上がる。玉蓮の声に、赫燕が一瞬だけ目を伏せ、そして、ふ、と笑う。
「……ただの、印だ。古の国のな」
吐き捨てるように、彼は、ひどく掠れた声でそう呟いた。
赫燕の血と汗が染み込んだ、あまりにも生々しい魂の欠片。玉蓮は、その滑らかで、どこか無機質な石の重みを手のひらで感じながら、視界が滲む中で、なお目の前の男を見つめ返した。赫燕の呼吸は荒く、縫合されたばかりの傷口からは、まだ止まらない血が布に赤い染みを作っていく。
——違う。この男は、駒のためになど、決して傷を負う男ではない。命すらも、勝利のための道具として、弄ぶ男のはずだ。なのに、なぜ。手のひらの上の、石の重み。背中の傷。その事実にただ、涙が溢れていく。
「泣くな」
どこか面倒くさそうに、呆れたような声で告げるその声が、胸の中まで響いて苦しい。赫燕が常に肌身離さず身につけていた紫水晶。その片方が、今、玉蓮の手に握られている。玉蓮は、それを己の命そのものであるかのように、強く、強く握りしめた。

