闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。


「手間ぁかけやがって」

「おか……」

「死ぬ覚悟なんか、してんじゃねえぞ」

 玉蓮を抱く腕は、折れそうなほど力強い。背中を撫でる指先は、ひどく、優しい。

「——っ」

 その、あまりにも矛盾した温もりに、玉蓮は、たまらず彼の首にしがみついた。玉蓮の鼻先をあの伽羅の香がかすめ、熱い汗と血の匂いが混じり合い、玉蓮の全身を包み込む。

「落ちるなよ」

 馬を()りながら、赫燕が低い声で命じる。乱れる馬の(たてがみ)が風を切り裂く音が響く。

「——はい」

 玉蓮はしっかりと彼の体に己を預け力強く頷いた。彼の胸に顔を押し付け、目を閉じた。遠くで聞こえる、追っ手の叫び声が少しずつ遠ざかっていく。