闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇

 その日、赫燕(かくえん)の天幕には、重なる軍議のために幹部たちが全員集まっていた。真剣な軍議の中でも時折、笑い声や軽口が飛び交う。

「ですから牙門(がもん)さん、そこは(せつ)さんにお任せください。刹さんの方がこういうのは得意じゃないですか」

 子睿が扇で口元を隠しながら、仕方ないとでもいいたげに片眉をあげる。

「ほらな、お前のとこじゃ、こんなに器用なことできないだろ」

 刹が勝ち誇ったように言い放ち、牙門が顔を(しか)める。

「うるせえ、刹。おい、(じん)、お前のところが動けばいいじゃねえか」

「いや、俺んとこはお頭の周り固めなきゃだし」

「朱飛、本隊がこの進路で行くなら、こちらを押さえましょうか」

「ああ、そうだな玉蓮」

 次の戦の軍議の最中、天幕の外から、普段とは違う緊迫した声が聞こえた。

「お頭、あの、なんか……王の勅命(ちょくめい)だと使者が」

 その言葉が耳に届いた瞬間、それまで赫燕の唇に浮かんでいた薄い笑みは、一瞬で掻き消えた。視線が、獲物を狙う猛禽(もうきん)のそれのように鋭く研ぎ澄まされる。深い闇を湛えたその瞳は、一切の冗談めいた色を失い、有無を言わせぬ圧力をもって入り口へと向けられた。

 それまで天幕の中を満たしていた豪快な笑い声が、ぴたりと止み、油灯の光が息を殺したかのように、その揺らめきを止める。

「入れ」

 低い唸り。重く響き渡った赫燕の命令に応えるように、重厚な布の擦れる音が耳に届く。

 王の勅命(ちょくめい)を携えた使者が、(おごそ)かな様子で入ってくる。さっきまで冗談を飛ばしていた刹が、唇を噛んで目を伏せた。歩を進める足音さえ、不快なほどに大きく響く。誰かが喉を鳴らす音が聞こえる。

 赫燕の瞳は、何の感情もなく、そこを見ていた。全員がその使者の前に膝をついた。

 使者が、巻物を広げ、その内容を朗々と読み上げ始める。一つひとつの言葉が、意味をなさずに鼓膜の上を滑っていく。

「——玄済(げんさい)国との和睦(わぼく)の証として、公主・玉蓮を玄済(げんさい)王の後宮へ遣わすべし」

 玉蓮の喉の奥で、微かに空気が漏れる音がした。

(父上——!)

 父が、いや、王が下した決定。姉の時と同じように、まるで牛や馬を売るかのように、大臣たちと密かに、しかし、あっさりと決められたであろうことが容易に想像できた。玉蓮の脳裏には、かつて姉の血のように赤い婚礼衣装が蘇る。玉蓮の手のひらに爪が食い込んでいく。