◇◇◇ 劉永 ◇◇◇

膨大な図書を収めた荘厳(そうごん)な堂。先ほどまで父に叱られて肩を落としていたはずの玉蓮が、今は隣で熱心に書物を読み耽っている。

午後の柔らかな光が、彼女の長い睫毛(まつげ)をきらきらと照らしている。この静かな時間も、彼女のこの表情も、全てが光を(まと)っているようだった。

静かな横顔を眺めているうち、劉永はふと、この澄んだ空気を少しだけかき混ぜてみたくなった。口の端が、自然とつり上がる。

「玉蓮、これがどういうことか分かる?」

劉永は、わざと男女が寄り添う(つや)っぽい絵が描かれた書物を広げてみせた。

流れる筆致(ひっち)の先には、白き肌、重なる影、交わる呼吸が柔らかく描かれている。

——白き肌にかぶさるは、その深淵(しんえん)を覗くが如し

きっと、意味も分からず首を傾げるに違いない。その困った顔が見たくて、口元が緩むのを抑えきれない。

案の定、玉蓮は数度、瞬きを繰り返すと、こてんと首を傾げた。一点の曇りもない、澄み切った瞳が、真っ直ぐに自分を見上げてくる。

「永兄様、玉蓮には難しいです……これも軍略に必要なのですか?」

その真剣な問いに、劉永はとうとう堪えきれずに吹き出した。玉蓮はさらに不思議そうな顔で小首を傾げる。