復讐姫と二人の英雄 —殺戮将軍と天才軍師の執着。その天命の盤で美しく狂い咲く—

玉蓮(ぎょくれん)。私が言いたいことは理解していると思うが……」

 ぴくりと玉蓮の肩が動いた。昼間の己の行いが、脳裏を掠める。

「お前が磨く才は、国のため、民のため、そして己の正義のために振るわれるべきだ。決して、無辜(むこ)の民を蹂躙(じゅうりん)する道具であってはならぬ」

「……はい」

 玉蓮は、そう答えることしかできなかった。

「私的な感情で力を振るってはならぬ。それは、ただの暴力だ。お前のその小さな拳では、まだ何も守れはしないのだから」

 劉義(りゅうぎ)の視線がその身に突き刺さり、玉蓮は思わず顔を伏せた。「申し訳ありません」と言わなければならないとわかっていても、それを口にすることがどうしてもできない。

 下唇を噛み締めていると、目の前の師の眼差しが、ふと、玉蓮を通り越して、どこか遠くを見るような色を帯びた。その双眸(そうぼう)に映るのは、ここにいない誰かの影。玉蓮は、思わず息を殺して、その視線の先にあるはずの幻影を探った。

「先生?」

「……お前のその才は本物だ。だがな、才というものは時に持ち主を、そして周りの人間をも破滅させる諸刃(もろは)の剣にもなる。力と憎しみが分かち難く結びついた時、人は道を誤るのだ」

「……道」

「……お前のその打ち方は……まるであやつのようだ」

 劉義が、苦いものを噛み潰したように呟いた。

「あやつ、ですか?」

「私の、愚かな弟弟子だ。……名を、赫燕(かくえん)という」

 その名が口にされた瞬間、玉蓮の心の臓が、一拍、強く脈打つ。赫燕(かくえん)将軍。白楊(はくよう)国最強の怪物。

 塾でも奇異な天才として彼の名は噂に上っていた。赫燕(かくえん)将軍は、白楊(はくよう)軍を駆け上がるようにして出世し、若くして将軍となった麒麟児。

 八尺五寸とも言われる体躯(たいく)と、美しい風采(ふうさい)に加えて、その聡明さ。そして何よりも、王が自ら(えい)じた詩が、その名をさらに特別なものにしていた。


 ◇◇◇◇

 魁偉(かいい) 龍姿(りゅうし)  鳳貌(ほうぼう) 赫然(かくぜん)

 鬼才(きさい) 天授(てんじゅ)  兵道(へいどう) 莫測(ばくそく)

 ◇◇◇◇

 雄々(おお)しく威風堂々(いふうどうどう)たる龍の姿、鳳凰(ほうおう)のごとき容貌(ようぼう)が際立ち輝いている。その才は鬼神(きじん)の如く、天に授けられしもの。兵法(へいほう)の奥深さは測り知れず——。

 兄弟弟子たちは、赫燕(かくえん)の軍略とともに、この詩を何度も口にした。