「……将軍は?」
「お怪我はあるものの、ご無事でいらっしゃいます」
玉蓮の答えに、一瞬ほっとしたものの、すぐに新たな気づきが波のように押し寄せる。
(——この子は、僕のために、あの死地に飛び込んできたのか)
その事実が、脇腹の傷よりもなお深く、灼けつくような痛みとなって、心の内側を貫いた。呼吸が一つ、浅くなる。劉永は、繋がれたままの玉蓮の手を、ありったけの力を込めて、ゆっくりと、己の頬へと運んだ。
ざらついた自分の頬に触れる、彼女の滑らかな手の甲の感触。瞳に熱が溜まり、視界が歪む。瞬き一つでこぼれ落ちそうなそれを、ただ玉蓮の手に隠すように、さらに寄せた。
「本当に……馬鹿だよ、君は……」
自分の手を握りしめる玉蓮の指先が、微かに震えているのが伝わってくる。
「あんな場所で……君を失っていたら、僕は……」
そこまで言って、こみ上げてきた感情が咳となって、言葉を遮った。
「永兄様が、ご無事であれば良いのです」
玉蓮のまっすぐな瞳に見つめられ、劉永は小さく息を吐いた。
「父上に、怒られるね……僕も、玉蓮も」
「はい、一緒に怒られましょう」
劉永の言葉に、玉蓮はふわりと微笑んだ。その笑顔は、戦場の喧騒を忘れさせるような、穏やかな光を放っていた。
玉蓮は静かに立ち上がり、振り返らずに天幕の入り口へ歩み出た。けれど布を捲る手前で、ほんの一瞬だけ足を止める。
「……温泰、永兄様を頼みます」
それだけを残して、静かに外へ出ていった。
「お怪我はあるものの、ご無事でいらっしゃいます」
玉蓮の答えに、一瞬ほっとしたものの、すぐに新たな気づきが波のように押し寄せる。
(——この子は、僕のために、あの死地に飛び込んできたのか)
その事実が、脇腹の傷よりもなお深く、灼けつくような痛みとなって、心の内側を貫いた。呼吸が一つ、浅くなる。劉永は、繋がれたままの玉蓮の手を、ありったけの力を込めて、ゆっくりと、己の頬へと運んだ。
ざらついた自分の頬に触れる、彼女の滑らかな手の甲の感触。瞳に熱が溜まり、視界が歪む。瞬き一つでこぼれ落ちそうなそれを、ただ玉蓮の手に隠すように、さらに寄せた。
「本当に……馬鹿だよ、君は……」
自分の手を握りしめる玉蓮の指先が、微かに震えているのが伝わってくる。
「あんな場所で……君を失っていたら、僕は……」
そこまで言って、こみ上げてきた感情が咳となって、言葉を遮った。
「永兄様が、ご無事であれば良いのです」
玉蓮のまっすぐな瞳に見つめられ、劉永は小さく息を吐いた。
「父上に、怒られるね……僕も、玉蓮も」
「はい、一緒に怒られましょう」
劉永の言葉に、玉蓮はふわりと微笑んだ。その笑顔は、戦場の喧騒を忘れさせるような、穏やかな光を放っていた。
玉蓮は静かに立ち上がり、振り返らずに天幕の入り口へ歩み出た。けれど布を捲る手前で、ほんの一瞬だけ足を止める。
「……温泰、永兄様を頼みます」
それだけを残して、静かに外へ出ていった。

