闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 劉永 ◇◇◇

 劉永はゆっくりと意識を取り戻した。喉の奥に残る、血の鉄錆(てつさ)びた味。薬草の苦みのある匂い。土ではない、背中で感じる寝台の感触にふと息を漏らす。

 全身を襲う倦怠感と激しい痛みに眉をひそめながら、重い(まぶた)を開くと、ぼんやりとした視界の先に、この世のものとは思えぬほどの美しい顔が(かす)んで見えた。

「あれ……天国かな」

 自身の唇から漏れる、その声のか細さに思わず笑いがこぼれる。朦朧(もうろう)とした意識の中、そこに向かって手を差し出せば、目の前の人が急いでそれを包み込んでくれる。まるで、壊れ物を扱うかのように優しく。ひんやりと冷たい、小さな手。だが、その指先は戦で豆が潰れたのか、少し硬くなっていた。

「永兄様!」

 震えるその呼び声に、劉永はゆっくりと目を凝らす。視界がようやく明瞭になり、目の前にいる玉蓮の顔がはっきりと見えた。

「天女が、見え、る……」

 ただ少しだけ笑ったつもりが、喉がぜいぜいと鳴り出して、呼吸がままなら無くなる。脇腹から胸にかけて、燃えるように傷が(きし)んだ。その痛みから逃れるように、玉蓮と繋ぐ手に力を込める。