闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。


「お前が口移しで飲ませれば、一瞬で終わるものを」

 布で口元を拭っていた玉蓮の手を掴んだ彼が、これまた不満そうに呟く。

「そんなことをしたら、治るものも治りません」

「褒美がないとやってられねえ」

 彼は掴んだ手にぐっと力を込め、玉蓮を自身の元へと引き寄せた。鍛えられた胸の筋肉が隆起し、その熱が薄い衣越しにも伝わる。

「あ、いけません!」

「なんだ」

「傷口が開きます」

 巻かれた布の端をそっと辿る玉蓮の指に、熱い手が絡められていく。

「開いてもいい」

「……良く、ありません」

 赫燕に捉えられた手をそのままに、玉蓮はもう片方の手を動かして指先で彼の頬に触れる。同じように彼の分厚い手のひらが玉蓮の頬を包み引き寄せると、吐息がかかるほどの距離で、二人の視線が絡み合った。

「……褒美は、わたくしですか?」

「そうだ。お前は白楊(はくよう)の華、どうやら月貌華(げつぼうか)らしいからな」

 眉を上げ、目を細めて、不敵に笑う赫燕。

「まあ。龍か鳳凰(ほうおう)かと(うた)われる将軍様にそうおっしゃっていただけるとは、光栄ですわ」

「英雄にふさわしい褒美だろう」

「英雄?」

 お互いの言葉遊びに、耐えきれずに二人の唇から笑みが溢れていく。

「くだらねえ。言わせておけ。俺は、お前が欲しいだけだ」

 そして、ゆっくりと唇が重なっていく。食まれるように何度も何度も繰り返される柔らかな感触。

 最初はそっと触れるだけだった唇が、次第に熱を帯び、深く絡み合っていく。やがて、もどかしさに耐えきれなくなり、形のいい唇を舌でつつけば、赫燕の唇の端が釣り上がる。次の瞬間には、空いた隙間から熱い舌がそこに入り込み、湿った音が漏れ、舌が合わさる感触が全身を駆け巡った。

「んん……」

 力強い腕が玉蓮の腰に回され、ぐっと抱き寄せられる。玉蓮の腕もまた、赫燕の首に回され、その力強い身体に吸い寄せられるようにしがみついた。

「玉蓮……限界だ」

 無骨な指の背が玉蓮の頬を優しく撫で、深く昏い瞳が玉蓮を真っ直ぐに見つめる。彼の指が玉蓮の髪を()き、耳元で囁く。

「動き方は、教えただろ」

 吐息と声が耳に触れて、玉蓮の身体を震わせた。厚い胸元に手を当てれば、その熱が伝わってくる。美しい唇が弧を描き、耳に声が届く。

「玉蓮」

 貫く熱が容赦無く体温を上げていくから、それに浮かされるように、頭の中も徐々に白くなっていく。思考が溶けて、目の前の男の熱で満たされていく。二人の胸元で、紫の石が灯りを弾き、その影が仄暗い部屋の壁で揺れた。