赫燕は、ただ無表情に鋭い視線で玉蓮を見つめていた。長い沈黙。その無言の時間が、玉蓮の決意を試すかのように、じりじりと場を締めつけていく。やがて、それを破るように、赫燕が口を開く。
「……死ぬぞ」
ぽつりと、抑揚もなく、感情も乗せられていないような声で、しかしはっきりとそう告げた。玉蓮は微かに微笑み、首を横に振る。
「いえ、必ず戻ります。お頭の元へ」
その答えを聞いても、赫燕は眉根を寄せるでもなく、いつものように笑うでもなく、ただその瞳に玉蓮を映している。赫燕の指が紫水晶を握る。
「……三十騎やる。行け」
「お頭っ」
「お頭、本気ですか! あの戦場は、玄済・大孤の中でも勇猛な部隊がいる戦場なのです! そこはすでに死地同然、玉蓮が死にますぞ!」
子睿らしからぬ声が、低い呻きとなって漏れる。しかし、赫燕は彼らの感情の揺れを全く意に介さず、微動だにしない。
「今夜中に戻れ。戻れなければ、見捨てる」
「……ありがたく」
玉蓮は、その言葉に深く、深く、頭を下げた。赫燕の瞳を見れば、そこにあるのは嵐の夜に見た、あの深く昏い色。彼女は一度、強く目を閉じると、風のように駆けだした。

