闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 荒々しく腕を掴まれ、馬上に引き上げられる。その体を包み込む熱と硬い甲冑(かっちゅう)の感触。彼の胸元で揺れる首飾りの紫水晶が、カツン、と玉蓮の額に当たる。

「行くぞ」

 その声は、戦場の喧騒を打ち破るかのように響き渡った。しかし、その時、将を討たれ、逃げ惑う玄済兵の中から、鬼の形相をした一人の兵士が、玉蓮めがけて斬りかかってきた。

「白楊の犬め、死ねぇ!」

 振り下ろされる白刃。赫燕は舌打ちすると同時に、玉蓮を(かば)うように自らの体を盾にした。

「——ッ!」

 甲冑(かっちゅう)を貫き、肉を断つ鈍く生々しい音が響く。鮮血が甲冑(かっちゅう)を伝っていく。

「お頭っ!!」

 玉蓮の絶叫がこだました。しかし、次の瞬間、赫燕は一振りでその兵士を(ほふ)る。

「ッ黙れ。問題ない」

 一瞬だけ苦痛に顔を歪ませた赫燕はすぐに表情を元に戻すと、むしろ玉蓮を睨みつけた。その眼差しには、不敵な光が宿っている。

「手間かけやがって」

「おか……」

「死ぬ覚悟なんか、してんじゃねえぞ」

 玉蓮を抱く腕は、折れそうなほど力強い。背中を撫でる指先は、ひどく、優しい。

「——ッ」

 その、あまりにも矛盾した温もりに、玉蓮は、たまらず彼の首にしがみついた。玉蓮の鼻先をあの伽羅の香がかすめ、熱い汗と血の匂いが混じり合い、玉蓮の全身を包み込む。

「落ちるなよ」

 馬を()りながら、低い声で命じる。風を切り裂く音と共に、景色が背後へと流れていく。

「——はい」

 玉蓮はしっかりと彼の体に己を預け力強く頷いた。彼の胸に顔を押し付け、目を閉じた。遠くで聞こえる、追っ手の叫び声が少しずつ遠ざかっていく。