闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。


「……先生、ここでは勝てません。すぐに囲まれてしまいます」

 どう思考を巡らせても、中央の一手は悪手にしか思えない。

「そうだな。この手は決して勝つための手ではない。領土を広げるなら、隅や辺を取るのが定石だ」

 劉義は、白く滑らかな石を指に挟み、盤上にかざした。

——パチン。

 それまでとは違う、鋭く澄み渡る音が鼓膜を震わせた。盤の中央——天元(てんげん)。たった一つ、強烈な白い星が灯る。

「だが、この一点」

 劉義の声は穏やかだが、腹の底に響くような重みがあった。

「四方すべてを敵に囲まれ、逃げ場を失い、絶望の淵に立たされたとしても——この『中心』さえ残っていれば、お前の魂は死なぬ」

 中心さえ残れば死なない。その一言が玉蓮の頭を巡っていく。

「そうだ。どれほど深い闇に呑まれようとも、お前の『色』だけは誰にも奪わせるな。……たとえ、それが私であってもだ」

「わたくしの、色を」

 玉蓮はゆっくりと顔を上げて、劉義の顔を見つめた。盤に向けられた彼の瞳は、まるで何もかもを見透かしているかのようだ。彼の視線の先を追うようにして、もう一度、盤の中央に目を戻した。

「……玉蓮には……まだよくわかりません」

 その言葉が口をついて出た。劉義は優しく微笑(ほほえ)んで、深く頷いた。

「ああ、まだそれで良い。いつかわかる時が来るだろう」

 やがて、白石が盤を満たし、黒は消えていく。玉蓮が操る黒石は、敵を食い殺そうと突出しすぎたが故に分断され、劉義の白石に完全に包囲されていた。盤面を埋め尽くす白の壁。その圧迫感に、息が詰まる。

 盤上から黒い死に石が取り除かれていく。あとに残ったのは、無残な敗北の跡と——中央で孤高に輝く、あの一手。

「……ありません。わたくしの、負けです」

 絞り出すように告げ、深く頭を垂れた。目蓋(まぶた)を閉じてもなお、その光が網膜に焼き付いて離れない。その清らかな輝きが、今の玉蓮には恐ろしいほどに眩しく、目を背けることしかできなかった。