そこにゆったりとした足取りで歩み寄ってきたのは、劉永だった。師であり父である劉義さえも認める、塾で最も優れた兄弟子。彼が動いただけで、道場の空気が変わる。

劉永(りゅうえい)が冷たい視線でちらりと兄弟子を一瞥(いちべつ)すると、彼は苦虫を潰したような顔をして、そのまま部屋の隅に視線を向けた。

玉蓮の隣に立った劉永(りゅうえい)は、彼女の髪を優しく撫でる。劉永が微笑んだ瞬間、ざわめきが波のように引いていく。

(えい)兄様……」

「父、じゃなかった、先生。玉蓮は努力を惜しまないからつい、強くなってしまったのです。知略も武勇も」

「それはそうだが……」

「玉蓮の才は特別なのです。何より、先生の教えの賜物ではありませんか」

そして、彼は劉義(りゅうぎ)の言葉から玉蓮を救い出すかのように、手を差し伸べて、また柔らかく微笑む。

「行こう、玉蓮。面白い書があるんだ」

玉蓮は、差し出された手に半ば無意識で手を伸ばす。彼は、玉蓮の手を引いて歩き出したかと思うと、「あ」と声を小さく上げて立ち止まり、にっこりと笑って振り返る。

「先生、私たちは勉学に励みます。それでは」

劉義(りゅうぎ)に頭を下げると、玉蓮を伴って駆け出した。

「わ! 永兄様」

そして、廊下に出た途端、劉永がくすくすと笑い出す。

「あの顔、見たかい。父上は、君にだけは甘いんだ」

その軽やかな声に、張り詰めていた玉蓮の肩からふっと力が抜け、唇からは小さな笑みが漏れた。