闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 玉蓮(ぎょくれん) ◇◇◇

 戦場の只中。玉蓮たちは、迫りくる玄済(げんさい)兵の猛攻を相手に、必死の防戦を繰り広げていた。

 剣と剣がぶつかり合う音が耳を打ち、兵士たちの叫び声が、あたりに反響する。血が一面に飛び散り、肉を断つ鈍い湿った音が響く中、味方が一人、また一人と無残に倒れていく。辺りは、敵味方の区別もつかぬ死体で埋め尽くされようとしていた。

「おい、玉蓮」

「俺たち、本当にそろそろ終わりかもな」

 ぶつかりあった背中同士を支えにしながら、大地をなんとか踏みしめる。

 肌を伝っていく、汗と血。迫りくる玄済(げんさい)兵の波。満身創痍(まんしんそうい)の体。もう、何人斬ったのかわからない。

「みんな、悪い」

 玉蓮の口から、掠れた声が漏れる。

「謝んな。お前の勝手な性格は、お頭と朱飛さん譲りだ」

 目を見合わせる玉蓮と隊の面々の顔に、笑みが浮かぶ。

(必ず戻ると言ったのに——)

 玉蓮は、己が踏みしめる大地に視線を落として再び前を見据えると、更に笑みを深めた。

「確かに。では——」

「あ?」

「——みんな、私と一緒に死んでくれるか」

 自分の声があり得ないほどに明るく、澄んでいる。腹の底から歓喜にも似た何かが込み上げてくる。この地獄の盤面すらも、ただの遊戯盤(ゆうぎばん)として不遜に嘲笑(あざわら)う、あの昏く、そしてあまりにも自由な光が、今、確かに己の胸に宿っている。

「クソが! 当たり前だ!」

「最後に、お頭と朱飛さんに会いたかったけどな」

「……私もだ」

 誰かが、自らの剣の柄頭(つかがしら)で胸の甲冑(かっちゅう)を力強く、一度だけ叩いた。カーン、と、乾いた音が響く。それに呼応するように、次々と同じ音が続く。

「行こう」

 玉蓮もまた、自らの胸を強く叩いた。


 獰猛(どうもう)な笑みを浮かべて、ゆらりと剣を構え直した。腕をぬるりと返り血が伝っていく。疲労で(なまり)のように重いはずの体が、最後の炎を燃やすように動く。

 玄済(げんさい)兵の容赦ない猛攻を紙一重で捌きながら、敵を(ほふ)る。少しずつ手足の感覚は麻痺し始め、剣を握る手は意思に反して小刻みに震える。額からは冷たい汗がとめどなく流れ落ち、視界は(かす)み、思考は鈍る。

 もはや自分の意思で動いているという感覚さえ希薄になり、本能と鍛えた肉体が、自動的に動き続けているかのようだった。


 次の瞬間。夜風を裂く鋭い音と共に、一本の矢が音もなく忍び寄り、玉蓮の胸元へ吸い込まれるように飛来した。矢を切ろうとした剣が空を切る。

「くっ!」

「玉蓮!!!」

(当たる——!)


——ゴンッ