闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 最も激しい攻防が繰り広げられる城壁の()け際。そこでは、玉蓮が朱飛(しゅひ)と背中を合わせるようにして、なだれ込んでくる敵兵の波を押し返していた。

 朱飛の剣は一切の無駄なく最短距離で敵を(ほふ)っていくが、その背中は、常に玉蓮を庇う位置を保っている。玉蓮の剣もまた、舞うように、確実に敵を貫いていく。返り血でぬるつく剣の(つか)を、何度も握りしめる。敵の鎧を断ち切るたびに、腕に響く鈍い衝撃が、自分がまだ生きていることを教えてくれる。

「——朱飛!」

 その声に応じるように朱飛の体が反転し、三人の敵兵の喉を一瞬で切り裂く。その間、わずか数瞬。背中合わせの朱飛の体温が伝わるたび、荒れ狂う剣筋(けんすじ)から、不思議と力みが抜けていく。

 仕掛け、援護し、指揮を執り、側面を突く。一人じゃない、彼らがいる。だから、玉蓮は、ただ目の前の敵の首を、ただ()ねていった。血飛沫(ちしぶき)が宙を舞い、玉蓮に熱い雫となってかかる。

 血が頬を伝うその刹那、口元に浮かんだものに彼女は気づき——そして次の瞬間、わずかに目を見開いた。


(これは、笑っている……? 自分が?)

 耳朶(じだ)を打つのは、敵の断末魔と、止むことのない戦の轟音(ごうおん)。それらの音が、彼女の鼓動と共鳴している。五感が、あり得ぬほどに研ぎ澄まされていく。敵の剣閃(けんせん)が、血煙(ちけむり)の一粒一粒が、時の流れが引き伸ばされたかのように、ゆっくりと、そして(きら)めいている。

剣の重みが腕に馴染むたび、足元に転がる命の気配が、心の臓の動きを静かに速めていく。息が乱れず、心がざわめかず。ただ、確かに満ちていく。玉蓮の瞳は、目の前で崩れ落ちる敵兵たちを映しながら、さらに深く、そして冷酷な輝きを増していくのだ。