闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇

 戦が始まると、玉蓮の隣で牙門(がもん)が雄叫びを上げた。

「うおおおおおっ! 押し返すぞ、てめえら!」

 彼は、城壁に取り付く敵兵を、巨大な(ほこ)で文字通り叩き潰していた。人間の肉が奇妙な音を立てて弾けていく。圧倒的な武の力が、周囲の兵士たちの士気を奮い立たせ、異様な熱に包まれる。

 そして、その牙門の頭上を、一本の矢が風を切る音と共に通り過ぎていく。矢は、遥か眼下で攻城兵器の指揮を()っていた、敵の将の眉間を正確に射抜く。

「……ちっ、次のが来る!」

 望楼(ぼうろう)の下段に陣取る(せつ)が、忌々(いまいま)しげに吐き捨て、再び長弓を構える。 別の区画では、子睿(しえい)が、(じん)に悪態をつかれながらも、煮えたぎる湯や油を城壁から注ぎ落とす準備を進めている。

「ったく、子睿(しえい)! 俺は奇襲・必殺部隊だぞ!」

「文句を言わない、迅さん。あなたの騎馬隊は最強ですが、城壁では役立たずです」

「だからって、油に(まみ)れる役かよ!」

「……迅さんがお持ちのものは、金汁(きんじゅう)なのでご注意を。苦しみ抜いて死にますぞ」

 迅の顔が一気に青ざめる。

「——てめ、まじかよ! なんか変な匂いすると思った! そーゆーのは先に言え! 覚えてろよ!」 

(あそこは、いつも通りだな……)

 玉蓮は、敵の刃をかわしながら小さくため息をつく。