棒の先端を兄弟子に向けながらそう告げると、目の前の顔が一瞬怯えたように歪んだ。だが、すぐに口元が弧を描く。

「お姫様が俺に剣で勝てると?」

そう言いながら、彼も同じように樫の木の棒を握って玉蓮に向ける。

「ええ。あなたのような猪武者には」

言葉が終わるか、終わらないか。玉蓮は地面を蹴った。

兄弟子が力任せに振り下ろす棒を、わずかに逸らして懐に入り込むと、玉蓮の棒が、がら空きになった兄弟子の(すね)を打ち据える。

乾いた鈍い音が響き渡り、続いて木霊するのは情けない悲鳴。

「いってぇえええ!」

彼はその場に倒れ込み、膝を抱えて(うずくま)るが、玉蓮は、痛みにもがく兄弟子の背中を見下ろすと、さらに棒をぎゅうと握り締めて振り上げる——しかし、


「——そこまでだ、玉蓮」


静かで全てを見通すような声に、玉蓮は、はっとして振り返った。

「先生……」

いつの間にか、そこに師である劉義(りゅうぎ)が立っていたのだ。

玉蓮はまっすぐに劉義(りゅうぎ)を見返すことができず、唇を尖らせながら樫の木の棒を背中に隠した。小さく劉義(りゅうぎ)がため息をつく。

「玉蓮、今は剣ではなく、軍略の時間だ。暴力に頼るは、軍師にあるまじき行為だとわかっているな」

その言葉は、他の弟子たちの耳にも届き、彼女を嘲笑う声が起こった。

「そうだ、そうだ」「女のくせに」といった揶揄(やゆ)が耳に届き、玉連は、即座に彼らを睨みつけて黙らせる。だが——

「玉蓮」

再びの劉義(りゅうぎ)の声に、玉蓮が一瞬、体をこわばらせた、その時——。

「——見事な一手だったね、玉蓮」