闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 崔瑾(さいきん)は、赫燕(かくえん)と劉永の激しいやり取りを静かに観察した。だが、最終的に崔瑾(さいきん)の視線はそのどちらにも留まらず、ただ玉蓮に注がれる。

 間者(かんじゃ)からの報告にあった通り、彼女の瞳の奥には、底知れぬ復讐と憎悪の炎が確かに(くら)く燃えている。

 ——だが、なぜだ。

 同時に、その炎の奥に、決して焼き尽くされることのない、痛ましいほどの純粋な光が見える。それはまるで、汚泥(おでい)の中であっても、(けが)れを知らぬままに清らかに咲き誇る白菊のように。

 玉蓮の存在そのものが、その矛盾を内包している。憎悪と純粋さ、復讐と清らかさ。この姫の真実は——?

「——貴女(あなた)は、なぜこのような場にいらっしゃるのですか」

 崔瑾(さいきん)が問いを口にした、その瞬間。赫燕(かくえん)の口元が、ほんの微かに、しかし確かに、愉悦の形に歪んだ。

「……わたくしは」

 一瞬だけ赫燕(かくえん)に向けられた意識が、玉蓮の声に再び引き戻される。そして、彼女が小さく息を吸い込む音が、やけに大きく響いた。

「わたくしは、ただ、一つの道のためにここにおります」

 相手を圧倒するでも、(おび)える様子でもない、凛とした声が天幕に響く。

「道、ですか……」

 そう小さく呟き、崔瑾(さいきん)が顎に手を置く。

「道」

 その一言が、崔瑾(さいきん)の頭の中でいくつもの意味に枝分かれしていく。目の前を見つめれば、燃えるような眼差しが返ってくる。崔瑾(さいきん)は静かに頷いた。