◆
全員が席に着くと、早速、子睿が弁舌を振るい始めた。
「崔瑾殿。此度の捕虜交換、我が方は、貴殿らの兵千人に対し、こちらの兵五百が妥当と考えております。なにせ、貴殿らの兵は、我が方の兵に比べ、いささか……いえ、随分と士気が低いように見受けられますのでな」
扇子を揺らしながら挑発的な言葉選びをする子睿から目を離さず、崔瑾は、ゆっくりと口を開く。
「子睿殿。兵の価値は、数や一時的な士気で測るものではありません。一人ひとりが、国を思う心、家族を思う心を持っている。その命の重さに、白楊と玄済で違いがありましょうか」
「いやはや、噂に違わぬお方だ。命の重さ、ですか。実に美しい響きです。ですが、その重い命を我らが捕虜としたのは、どこの軍でしたかな? 重い命ならば、なおのこと、失わぬよう戦うのが将の役目では?」
嘲笑うかのように響く子睿の言葉に、微笑みながら頷き、崔瑾はただ言葉を紡ぐ。
「おっしゃる通りです。兵を失うは、将の不徳。その責は全てこの崔瑾にありましょう。ですが、それは、兵の価値が下がることを意味しません。私が責を負うからこそ、彼らの命は一つでも多く、故郷へ帰すべきだと考えます。貴殿がもし私の立場であったなら、自らの兵の価値を値切るような交渉をされますか?」
「……これは、一本取られましたね」
子睿は、潔くそう言うと、扇子で口元を隠し、再び愉しげに笑った。
お互いに腹の底を見せぬような笑顔を交わす中、そのやり取りを低い声が断ち切った。
「——くだらねえな」
その声に一斉に視線がそちらに向く。
「じゃあ、あいつらはどうだ?」
赫燕が嘲るように口元を歪め、顎で示した先、天幕の外に縄で繋がれた玄済の村人たちがいた。彼らの顔には恐怖と絶望が貼り付き、今にも崩れ落ちそうなほどだった。赫燕は、指で卓を、とん、と一度だけ叩くと、まるで心底どうでもいいというように、深く椅子に背を預ける。
全員が席に着くと、早速、子睿が弁舌を振るい始めた。
「崔瑾殿。此度の捕虜交換、我が方は、貴殿らの兵千人に対し、こちらの兵五百が妥当と考えております。なにせ、貴殿らの兵は、我が方の兵に比べ、いささか……いえ、随分と士気が低いように見受けられますのでな」
扇子を揺らしながら挑発的な言葉選びをする子睿から目を離さず、崔瑾は、ゆっくりと口を開く。
「子睿殿。兵の価値は、数や一時的な士気で測るものではありません。一人ひとりが、国を思う心、家族を思う心を持っている。その命の重さに、白楊と玄済で違いがありましょうか」
「いやはや、噂に違わぬお方だ。命の重さ、ですか。実に美しい響きです。ですが、その重い命を我らが捕虜としたのは、どこの軍でしたかな? 重い命ならば、なおのこと、失わぬよう戦うのが将の役目では?」
嘲笑うかのように響く子睿の言葉に、微笑みながら頷き、崔瑾はただ言葉を紡ぐ。
「おっしゃる通りです。兵を失うは、将の不徳。その責は全てこの崔瑾にありましょう。ですが、それは、兵の価値が下がることを意味しません。私が責を負うからこそ、彼らの命は一つでも多く、故郷へ帰すべきだと考えます。貴殿がもし私の立場であったなら、自らの兵の価値を値切るような交渉をされますか?」
「……これは、一本取られましたね」
子睿は、潔くそう言うと、扇子で口元を隠し、再び愉しげに笑った。
お互いに腹の底を見せぬような笑顔を交わす中、そのやり取りを低い声が断ち切った。
「——くだらねえな」
その声に一斉に視線がそちらに向く。
「じゃあ、あいつらはどうだ?」
赫燕が嘲るように口元を歪め、顎で示した先、天幕の外に縄で繋がれた玄済の村人たちがいた。彼らの顔には恐怖と絶望が貼り付き、今にも崩れ落ちそうなほどだった。赫燕は、指で卓を、とん、と一度だけ叩くと、まるで心底どうでもいいというように、深く椅子に背を預ける。

