闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。



 全員が席に着くと、早速、子睿(しえい)弁舌(べんぜつ)を振るい始めた。

崔瑾(さいきん)殿。此度(こたび)の捕虜交換、我が方は、貴殿らの兵千人に対し、こちらの兵五百が妥当と考えております。なにせ、貴殿らの兵は、我が方の兵に比べ、いささか……いえ、随分と士気が低いように見受けられますのでな」

 扇子を揺らしながら挑発的な言葉選びをする子睿(しえい)から目を離さず、崔瑾(さいきん)は、ゆっくりと口を開く。

子睿(しえい)殿。兵の価値は、数や一時的な士気で測るものではありません。一人ひとりが、国を思う心、家族を思う心を持っている。その命の重さに、白楊(はくよう)玄済(げんさい)で違いがありましょうか」

「いやはや、噂に違わぬお方だ。命の重さ、ですか。実に美しい響きです。ですが、その重い命を我らが捕虜としたのは、どこの軍でしたかな? 重い命ならば、なおのこと、失わぬよう戦うのが将の役目では?」

 (あざ)笑うかのように響く子睿(しえい)の言葉に、微笑みながら頷き、崔瑾(さいきん)はただ言葉を紡ぐ。

「おっしゃる通りです。兵を失うは、将の不徳。その責は全てこの崔瑾(さいきん)にありましょう。ですが、それは、兵の価値が下がることを意味しません。私が責を負うからこそ、彼らの命は一つでも多く、故郷へ帰すべきだと考えます。貴殿がもし私の立場であったなら、自らの兵の価値を値切るような交渉をされますか?」

「……これは、一本取られましたね」

 子睿(しえい)は、(いさぎよ)くそう言うと、扇子で口元を隠し、再び愉しげに笑った。

 お互いに腹の底を見せぬような笑顔を交わす中、そのやり取りを低い声が断ち切った。

「——くだらねえな」

 その声に一斉に視線がそちらに向く。

「じゃあ、あいつらはどうだ?」

 赫燕(かくえん)(あざけ)るように口元を歪め、顎で示した先、天幕の外に縄で繋がれた玄済(げんさい)の村人たちがいた。彼らの顔には恐怖と絶望が貼り付き、今にも崩れ落ちそうなほどだった。赫燕(かくえん)は、指で卓を、とん、と一度だけ叩くと、まるで心底どうでもいいというように、深く椅子に背を預ける。