◇◇◇ 玉蓮 ◇◇◇
白楊国の北東に位置する、臨万城の城壁の上で、玉蓮は息を呑んだ。地平線の果てまでを埋め尽くす、黒い蠢き。それはもはや、軍勢と呼べるものではない。
大地そのものが、津波となってこちらへ押し寄せてくるかのように、彼らの足音が大地を揺らし、武器や甲冑のぶつかり合う音が、不気味な合唱となって空に響き渡る。
城壁の縁にかけた玉蓮の指先に、ビリビリと、石が悲鳴を上げるような微細な振動が伝わってくる。
(——あれが、五十万)
風が、敵の匂いを運んでくる。数えきれない男たちの汗と、馬の糞尿、そして、もうもうと立ち上る土埃が混じり合った匂い。玉蓮は、城壁の冷たい石に爪を立て、その不快な感触で己の心を現実に繋ぎ止めた。
玄済国と大孤国、その二つの大国を同時に睨みつける、この臨万城が抜かれれば、王都・雛許までは、遮るものが一つもない平原が続いている。
「喉元に迫られる、か」
ここが落ちれば、白楊は全てを失う。その事実が、玉蓮の、そして白楊国の急所に、冷たい刃となって突きつけられている。
危急存亡の秋。明日、生きているかさえもわからないこの時に、手元に届く文は、劉家からのものだけ。
(一枚の文さえも、届かないとは)
玉座に座る父の姿を思い出して、玉蓮は笑みを浮かべた。娘が死地にあるというのに、沈黙を守る父。いや——何も関心がないと言うべきか。
城壁を見渡せば、見たこともない数の旗が、乾いた風に不気味な音を立てて、荒々しく翻っていた。
白楊国の北東に位置する、臨万城の城壁の上で、玉蓮は息を呑んだ。地平線の果てまでを埋め尽くす、黒い蠢き。それはもはや、軍勢と呼べるものではない。
大地そのものが、津波となってこちらへ押し寄せてくるかのように、彼らの足音が大地を揺らし、武器や甲冑のぶつかり合う音が、不気味な合唱となって空に響き渡る。
城壁の縁にかけた玉蓮の指先に、ビリビリと、石が悲鳴を上げるような微細な振動が伝わってくる。
(——あれが、五十万)
風が、敵の匂いを運んでくる。数えきれない男たちの汗と、馬の糞尿、そして、もうもうと立ち上る土埃が混じり合った匂い。玉蓮は、城壁の冷たい石に爪を立て、その不快な感触で己の心を現実に繋ぎ止めた。
玄済国と大孤国、その二つの大国を同時に睨みつける、この臨万城が抜かれれば、王都・雛許までは、遮るものが一つもない平原が続いている。
「喉元に迫られる、か」
ここが落ちれば、白楊は全てを失う。その事実が、玉蓮の、そして白楊国の急所に、冷たい刃となって突きつけられている。
危急存亡の秋。明日、生きているかさえもわからないこの時に、手元に届く文は、劉家からのものだけ。
(一枚の文さえも、届かないとは)
玉座に座る父の姿を思い出して、玉蓮は笑みを浮かべた。娘が死地にあるというのに、沈黙を守る父。いや——何も関心がないと言うべきか。
城壁を見渡せば、見たこともない数の旗が、乾いた風に不気味な音を立てて、荒々しく翻っていた。

