闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

「……わかっている。大王は私の従兄弟だが、同時に、私の首を誰よりも欲しているのだろう。私が息をしているだけで、玉座が脅かされるとお考えだ」

「ならば、なおのこと慎重に動く必要があります。いつ敵側の手が——」

「だが、真実を知らぬまま殺されるつもりはない。叔母上の死の真相、そしてこの国を腐らせている毒の正体を暴くまでは」

 崔瑾の瞳に冷たい光が宿る。

阿扇(あせん)、調査を頼みます。王后(おうこう)宮の火災記録、太医(たいい)局の診簿(しんぼ)。そして、香の入手経路を。当時、誰が出世したか誰が排除されたか、記録を追うために人事記録も手に入れてください」

「はっ、必ず。ですが崔瑾様、侍女たちの検死を行った診簿(しんぼ)は……(すす)を吸い込んだ量が少なかったという結果を太后側が残すはずが……」

 阿扇が何かに気づいたように、ハッと息を漏らした。

「そうです、阿扇。そんな記録は、ないはずです」

「……承知いたしました。『書き換えられた記録』がないか、徹底的に探します」

「お願いします。崔王后(さいおうこう)が亡くなった前年・当年・翌年だけ写しを。名は伏せ、決して気づかれぬように」

「はっ」

 崔瑾は、ふと視線をめぐらせて口元に手を置いた。

「阿扇、最後にもう一つ。北厳寺(ほくがんじ)への寄進記録を洗ってください」

北厳寺(ほくがんじ)……。崔王后様が眠っておられるという、あの河伯(かはく)の水源近くにある寺ですか?」

「はい。太后は毎年、そこへ目を疑うような額の黄金を納めている。……だが、あの合理主義者が、目に見えぬ功徳のためにこれほどの私財を投じるとは思えない。過剰な信仰心は、祈りのためではなく……」

「——何かを隠し通すための代価、ですね。即刻動きます」

 そう答えて、阿扇(あせん)は音もなく回廊の奥へ消えた。崔瑾は再び目を閉じ、噂を心の中で並べる。

——崔王后(さいおうこう)が亡くなった、宮の火災。

——(ふう)貴妃(きひ)から贈られた香と消えた悲鳴。

——そして、真相を知る者たちの、不自然な栄転。

「崔瑾様」

「もはや、あちらは隠すこともしなくなってきた。早々に止めねば、我が国は沈みゆく船も同様です」

 崔瑾は、その深緋(こきひ)の衣を(ひるがえ)し、回廊(かいろう)の深い闇へと歩を進めた。