闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

「確かに……そういえば、燃え盛る宮からは『悲鳴一つ聞こえなかった』とか。それほどに炎の勢いが凄まじいものだったとされていますな」

「悲鳴がなかったのは、火が回る前に全員が意識を失っていたからだとしたら?」

「謀略、だったということですか」

「……あの日、何が火元となったのかを父は調べていました。当時、体調が芳しくなかった王后のために、馮貴妃(ふうきひ)から多くの贈り物があったそうです。安眠のために、香や香炉(こうろ)などが何度も贈られています」

 阿扇(あせん)の瞳が揺れて、「ですが」と声を発する。

「王后様がご使用されるのであれば、太医局の検査があったのでは?」

「確かに検査があったと。ですが、父が怪しんでいた点は、もう一つあるのです。当夜、王后宮では、暖を取るための火鉢に香り豊かな松炭(しょうたん)が使われていたそうです」

「松炭……油が多く、貴人は使わないものですね。それが、猛火を招く火種だったと?」

「その日まで、叔母上はずっと白炭を使用していたと記録にある。なぜ、その日に限って松炭(しょうたん)を使用したのか。王は、火元は、その松炭(しょうたん)だとされ、現場にいた宦官たちを『不始末』の名目で即座に処刑しました。そして、そんな地獄の中から幼い王子だけを救い出した馮貴妃は、英雄となり、新王后となりました」

「できすぎた英雄譚(えいゆうたん)に仕上げたわけですな」

「さらには、元々、馮貴妃付きだった奴婢が、火災よりも少し前に崔王后の宮に贈られている。その者が手先となった……そう考えるのが、最も筋が通る。芳梅(ほうばい)……宮女の名前には辿り着いたのですが、その者はその火災で死んでいる。結局、現段階では全て推測です。より多くの証拠が必要なのです」

 馬斗琉(ばとる)が、険しい顔で周囲を警戒し、さらに声を低くする。

「……崔瑾様、どうか慎重に。これは太后派に攻撃を仕掛けるのと同義です。崔家(さいけ)は、王后(おうこう)を輩出すると同時に、代々王族が降嫁する名門。崔瑾様にも、王家の血が流れております」

 馬斗琉(ばとる)は、主の顔を真っ直ぐに見据えた。

「大王にとって、優秀すぎる貴方様は『目の上の(こぶ)』。太后様の入れ知恵もありましょうが、大王ご自身も、貴方様を恐れ、排除しようとなされています……」

 崔瑾は、行き場のない拳を強く握りしめた。一族に刃を向けるなど、王座を巡る歴史の中では珍しいことではない。