復讐姫と二人の英雄 —殺戮将軍と天才軍師の執着。その天命の盤で美しく狂い咲く—



 謁見(えっけん)の間を出ると、側近の馬斗琉(ばとる)阿扇(あせん)がゆっくりと歩み寄る。三人で回廊(かいろう)を進み、しばらくしたところで崔瑾(さいきん)はひんやりとした石造りの壁に背を預け、静かに目を閉じる。

 玉座の残り香が、まだ鼻腔(びこう)にまとわりつくようだった。甘く濃い——後宮の最奥の香。

「崔瑾様? 大王へのご報告で何かございましたか」

 そばに控えていた阿扇(あせん)が、崔瑾の異変を察してか、控えめに声をかける。

「いえ……」

 崔瑾は一度目を閉じるとゆっくりと開き、謁見の間の方角を見やった。

(この国に巣食うは、蜘蛛か)

 指で顎先を数度さする。

馬斗琉(ばとる)阿扇(あせん)……王の誕生から数年後に発生した当時の王后(おうこう)……崔王后(さいおうこう)の宮での火災の詳細をより深く調べましょう」

 阿扇(あせん)は、その緑色の大きな瞳を動かして馬斗琉(ばとる)に視線を向ける。

「父上が言い遺したのです。闇が深まる前に、それを探るように、と」

 馬斗琉(ばとる)は一瞬、戸惑ったような表情を見せたが、すぐに記憶を探るように視線を落とした。

「……崔瑾様の叔母君にあたる、崔王后(さいおうこう)様が命を落とされた件ですな」

 一つ、頷きを返す。

「あの日、現・太后様……(ふう)貴妃(きひ)が駆けつけ、火に飲み込まれた宮から、身を(てい)して幼い王だけを救った。この国で知らぬ者はいない、太后様の『英雄譚(えいゆうたん)』でございましょう」

「……その英雄譚を調べるのです」

 崔瑾の唇が、皮肉に歪んだ。

「かつて戦の際に太后様は、火災で実子の王子を亡くしておられる。だからこそ、燃え盛る火の中へ飛び込み崔王后の王子を救ったのだ、と太后様の慈悲深さを称える逸話として語り継がれています」

「そうです。ですが、結果だけ見れば、王后を排除し、国母である太后(たいこう)の座を手にした」

 馬斗琉(ばとる)が息を呑む。