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白楊(はくよう)国・最高峰の学び舎。大都督(だいととく)劉義(りゅうぎ)が主催する私塾とその隣にある、土埃舞う練兵場。

そこで漂うのは、男たちの汗と武器を磨く油の匂い、そして古い竹簡(ちくかん)に染み付いた墨の香り。

野心と才能が渦巻く男たちの世界で、来る日も来る日も、玉蓮は剣を振るい、軍略を学んだ。知略も武勇も、ただ高みだけを目指して。

稽古着の袖は汗で常に重く、腕には絶えず(あざ)が浮かぶが、それでも胸の奥で、轟々(ごうごう)と唸る炎が、玉蓮をただ前に進ませる。


その日、行われていたのは、兵の動きを駒に見立てた盤上の模擬戦。

玉蓮の対戦相手は、体格も良く声も大きい、いかにも武人といった風情の年上の兄弟子。十になり少し背の伸びた玉蓮よりも、はるかに上背がある。

彼は、自らの武勇を誇るかのように、力押しの戦法で玉蓮の陣を攻め立てていた。

だが、玉蓮は、その一切に呼吸を乱さず、視線も揺らさず、ただ静かに盤面全体を見渡した。

相手の僅かな駒の動きで明るくなったその隙間。風に揺れる柳の如く自然にそこに駒を進めれば、盤を挟んだ向こうから、「ぐっ」と息が漏れたような音が聞こえる。

「あ、ちょ、待っ」

「——勝者、玉蓮」

教官の感嘆とも呆れともつかない声が響いた。だが、周りから上がるのは称賛の声ではなく、ひそひそとした囁きと、あからさまな舌打ちだけ。それは、目の前にいる兄弟子も同様だった。

「ちっ、女の小賢しいやり口だ」

その言葉を聞いた瞬間、玉蓮は盤面から視線を上げた。立ち上がり、傍らに置いてあった、軍略囲碁に用いられる樫の木の固く重い棒を一本、手にする。

「……今の言葉、取り消してください」