遅咲きのラブレター




休日の瀬ヶ崎悠人は自堕落な人間であることを、世の中のファンは全く想像できないだろう。日頃の仕事の疲れもあるのか、1人で起きられない、ご飯も食べられない、風呂に入ることもできない脱力人間になる。



『休日は本を読んだり料理を作ったりしてます。これがまた結構楽しいんですよねぇ』


嘘つけ。本を読んでるのも料理を作ってるのも、俺なんですけど、と聞こえもしない愚痴を吉川仁奈(ヨシカワニナ)は胸中で呟く。そもそもお前は活字が嫌いで自分が書いた小説すら読んでくれないじゃないか。


思わずテレビに突っ込みそうになってしまうが、1人でそんなことをやっていたらただの痛い人間なのでその衝動を抑える。


そんな悠人の嘘八百を聞き呆れつつも、その顔面に絆されるのもわからなくはない始末。気がついたら自分は、テレビの向こう側にいる悠人だけを目で追ってしまうのだ。


『お料理されるんですね。ちなみに得意料理は何ですか?』

『定番なんですけど味噌汁とからあげ、美味しく作れますよ。そんなこと話してたら食べたくなってきちゃったなぁ〜』


はいはい。なるほど。今日の晩飯は唐揚げと味噌汁をご所望であることをテレビづてに訴えて来てるんですね。自分が悠人の番組を欠かさず見ていることも理解した上での発言だと捉えられる。


わかりました、作ればいいんでしょう。そんな独り言を心の中で繰り返してスーパーに行く支度をする。画面の右上に表記された“生放送”の文字に気づかないふりをすることなんて、不可能に等しかった。