悠と恋人になった翌日。
「凪おはよう」
「お、おはよう悠!き、今日もいい天気だね」
「だな。てかなんか緊張してる?」
「し、してない!」
「ふ〜ん」
イタズラに笑った悠の顔が徐々に近づいてきて反射的に目を閉じてしまった。
「別に何もしねぇよ。それともして欲しかった?」
「....揶揄わないでよ、悠の意地悪!」
僕は人生で初めての恋人に慣れず緊張したり、ぎこちなかったり。
「凪!おはよう!」
「啓太おはよう」
朝一番元気な挨拶で肩を組んできた啓太。その瞬間急に悠の方へと引き寄せられた。
「あんま近づかないで」
「なんでだよ!俺も友達なのに。てか別に凪はお前の物じゃ...」
「俺のだよ」
そう食い気味に即答で答えていた。それにさっきよりも強い力で抱き寄せられ倍で恥ずかしく俯いてしまった。そんな僕を見て
「凪、もしかして照れてる?」
「え!照れてないし!」
「顔真っ赤で言われても説得力ない。そういうとこほんと可愛いし好き」
「は、悠...!」
「あの〜、目の前でイチャつかないでもらえます?」
「あ、ごめん」
『遠慮しない』と宣言した悠はというと、こんな風に僕が誰かと話してたり距離が近いと悠の方に抱き寄せて牽制してきたり、人の目も気にせず「可愛い」も「好き」も今まで以上にたくさん伝えてきていた。
(近々誰かにバレるのでは!)
そう思うような言動に僕としてはキャパオーバーだったがそれでも幸せであることに変わりはなかった。それに悠の『俺のだよ』という言葉で夢みたいだった悠と恋人になった事も現実なんだと実感出来て嬉しかった。
「やっと付き合ったのね。お前ら長い!」
「ごめん。啓太にはたくさん迷惑かけちゃったね。でもずっと応援してくれてありがとう」
「いいよ!もうすれ違うなよ」
「うん」
こんな調子で幸せを噛み締めながら気づけば数ヶ月が経過していた。
「凪」
「あ、悠!」
「今日うちくる?」
「え!いいの!行きたい!」
「じゃあまた放課後な」
「うん!」
「桐谷の家行くの?」
「うん。受験とかもあって最近行けてなかったから」
「あ〜、確かにな。最近みんな落ち着いてきてピリピリした空気無くなったもんな」
「ね〜。でももうすぐ卒業だね」
「だな。桐谷もあっち行っちゃうんだろ?」
「うん...」
もう2月になった。あと1週間で卒業だ。ようやく受験に就活が落ち着いてきたかと思えばあっという間に卒業の時期になっていた。
(卒業式が終わったら当分悠とは一緒に居られなくなるのか...)
「ただいま」
「お邪魔します」
「あら!凪くん久しぶり。入って入って!」
「あー!凪兄だ!」
「久しぶり!」
「遊ぼう!」
「ちょ!引っ張らないで〜!」
放課後、悠が暮らす施設に遊びに来ていた。受験シーズンまではよく遊びに来ていたが最近はなかなかタイミングがなく来れなかった。
(相変わらず元気だな〜)
施設の子供たちにいつもながらたくさん癒されていた。
少し遠くから子供たちとじゃれ合って楽しそうに笑う凪を見ていると咲希さんに声をかけられた。
「凪くん相変わらず元気そうで安心した」
「凪はいつもあんな感じですよ」
「そうね。ところで悠くん。何かいい事あった?いつもより表情が明るい気がする」
「そんな違います?まぁ凪と付き合う事になりました」
「え!ほんとに!」
「そんなびっくりします?」
「するよ!だって悠くんずっと凪くんの事好きだったでしょ?何度も諦めるって言ってその度悲しそうな顔してたし、凪くんの事になると目の色変わるから」
「そんな事もありましたね」
「とにかくおめでとう!私すごい嬉しい。どんな時でも悠くんを笑顔にできるのは凪くんだけね」
「ふっ。そうですね」
俺は元々喜怒哀楽が豊かな方ではなかった。でも凪のそばにいる時は全部の感情が忙しい。世界中を探しても俺をこんな気持ちにさせてくれるのは凪だけだった。
「絶対幸せにします。俺が」
「うん。末永くお幸せにね」
そう咲希さんに宣言して凪の元に駆け寄った。
「じゃあね凪くん。また来てね!」
「はい!」
暗くなった夜道を悠と話しながら歩いていた。
「あ〜、楽しかったなぁ」
「お前ほんと子供にも好かれるよな」
「好かれてるのかな?みんな良い子だから好かれてたら嬉しいなぁ」
「好かれてなきゃあんなに集まってこねぇよ。でもちょっと嫉妬する...」
「子供にまで!別に取られないから大丈夫だよ」
「まぁ、誰にも渡す気ないけど」
「ふふっ」
(こうして一緒に歩いていられるのも卒業式の日までなんだよな)
「どうした?」
急に黙りこくった僕を心配したのか悠が声をかけてきた。
「え?あ、もうすぐ卒業だなぁって」
「だな。寂しい?」
「まぁ卒業も寂しいけど、それ以上に...」
この先を言うと悠を困らせるかな?
「それ以上に?」
僕の気持ちとは裏腹にその先を促すように悠は顔を覗き込みながら聞いてきた。そんな悠の顔を見たら想いが溢れてきた。
「それ以上に...悠と離れるのがやっぱり寂しい。こうして一緒にいられるのも卒業式の日までなんだって思うと余計に...」
「それは俺も寂しいよ。凪が隣にいなくて生きてけるか不安すぎる」
「大袈裟だなぁ」
「大袈裟なんかじゃないよ。俺は凪がいるから生きてられてる。でも離れても俺の気持ちは変わらないし、離れていてもずっと一緒だ」
「そうだね。ねぇ悠、確か東京行くの卒業式の次の日だよね?」
「うん、そうだけど」
「じゃあ卒業式の日は一日時間くれない?少しでも長い時間悠と一緒にいたい!」
そう言うと悠は驚いた様子で、それでも嬉しそうに「うん、いいよ」と笑ってくれた。
こうして卒業式の日は一緒に過ごすことになった。
そして迎えた卒業式の日。
「卒業おめでとう悠!」
「卒業おめでとう凪」
「二人とも並んで!写真撮ってあげる!」
そう母さんに言われて二人で写真を撮った。今まで悠とはたくさん写真を撮ってきたが付き合って初めての写真はなんだかすごく特別に思えた。
「えっとこの後は二人で出かけてくるんだよね?」
「うん!」
「じゃあお母さん先帰ってるから。二人とも気をつけてね!」
「ありがとうございます」
「じゃあ悠行こ!」
卒業式は午前で終わるため、その後は悠と思い出の地巡りをする事にしていた。
(今日は悠ととびきり楽しい思い出を作る!)
そう意気込み目的の場所まで向かった。
最初に訪れたのは昔悠が住んでいたマンション。あの日はおばさんの家に行った帰り、屋上で飛び降りそうになっている悠を見かけて焦ったっけ。
「ここ僕たちが初めて会った場所だよね」
「俺にとってはあんま良い思い出ねぇけど、この日凪が俺を見つけてくれたから今の俺がいると思う」
「あの時は焦ったんだよ!ほんとに飛び降りようとしてるんじゃないかって!」
「そんなつもりはなかったんだけどな」
そうぎこちなく笑う悠。やっぱり悠の笑顔大好きだなぁ。
「ここはよく遊びに来てたよね」
「あ〜。凪が木登りして降りれなくなった公園か」
「それは忘れて!」
近所にある小さな公園。仲良くなってからは家よりここに集まって遊ぶことが多かった。
「てか、なんで木登りなんかしたんだっけ?」
「えーっと。僕一度でいいから木の上からの景色見てみたくって、悠に教えてもらいながら登ったはいいものの、想像以上に高くて...」
「そういえばそんな事言ってたな。木の上で震えてる凪が可愛くて、愛おしすぎたって事ばかり思ってたから忘れてた」
「もぉ〜。そんな事思ってたの」
「うん。四六時中、凪が愛おしすぎて困ってたくらいだから」
「....悠!」
なんでそんな事サラッと言えるの?ニヤニヤしてる悠の腕を照れ隠しで軽く叩いた。
「やっぱり一番の思い出ってなるとここかな?」
「うん。俺も」
最後に訪れた場所は僕たちの通っていた中学校。ここで僕たちが改めて出会って仲良くなった場所だ。校門前にいると「あれ?桐谷くんと砂山くん?」と声をかけられた。
「「先生!」」
声をかけてきたのは中学の担任の先生だった。3年間同じ先生だったから僕たちの恩師だ。
「久しぶりね。ってそれ卒業証書?もうそんな時期!」
先生は僕たちが持っていた卒業証書を見てびっくりしていた。
「はい!僕たち無事高校卒業です!」
「あら、おめでとう!」
「「ありがとうございます」」
「それにしても二人とも今でも仲良いのね。私の思った通りだわ〜」
「どういう事ですか?」
「私ねずっと桐谷くんの事が気がかりだったの。中学入学してから誰とも話そうとしなくてずっと一人だったから」
「先生よく俺に声かけてくれてましたもんね」
「でも全然話してくれないし、ずっと無表情だったじゃない!」
「そ、それは...」
「でもね、そんな時に砂山くんが転校してきてくれて。初めて誰かに反応してる桐谷くんを見て、あ、この子なら桐谷くんの心を開いてくれそう!って思って案内係を任せたのよ」
「そうだったんですか?」
初耳だ。てっきり席が近いからかと思ってた。
「それで思った通り二人とも仲良くなってくれて。砂山くんと仲良くなった後の桐谷くん見違えるほど表情が柔らかくなって嬉しかったわ」
「先生って案外過保護ですよね」
「だって大事な教え子だもの!これから大人になって大変な事もあると思うけどいつまでも仲良くいてね」
「「はい!」」
元気よく返事をして先生と別れた。確かにあの日先生が悠を案内係にしてくれなかったらもっと仲良くなるのが遅くなってたかもしれない。そう思うと先生には感謝してもしたりなかった。
「そういえば悠はいつから僕を好きでいてくれたの?」
「ん?中学の時から。それこそ凪が母親からも暗闇の人生からも俺を解放してくれた日。あの日クラスの奴との話も聞いてた」
「クラスの?それっていつの話?」
クラスの人との話って僕どんな話してたんだろう?
「俺の根も葉もない噂を聞いて『悠はそんな奴じゃない』ってクラスのやつに怒ってくれた時」
「あ〜、あったねそんな事。ごめんね、あの時はまた分かったような事言って」
悠に言われて思い出した。あの時は悠の事悪く言われて黙ってられなかったんだよね。でもあの日は聞かれてたらまた悠に嫌われちゃうかななんて思ってたんだよね。
「いや、おかげでやっと自分の気持ちに素直になれる人を見つけた。びっくりするくらい俺の事を見ててくれて、認めてくれて。あの日の凪の言葉全部が嬉しかった。その日から俺は凪しか見えてないし、初めて誰かをこんなに愛したいと思ったよ」
だから悠が嬉しいと思ってくれてる事が僕にとっては何より嬉しかった。
「ふふっ。なんか改めてこんな話すると照れくさいね。でもほんと出会えて良かった!」
「俺も。俺の人生にとって凪に出会えたことが一番の宝物」
「悠って意外に重いタイプ?」
「多分な...。でもそんな俺でも好きでいてくれる?」
「もちろん!」
そんな所も全部大好きなんだよ。だから友達としては見られなかった悠のいろんな顔をこれからたくさん見られると良いなぁ。
「もうこんな時間か。そろそろ帰ろっか!」
「うん」
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうものでもう外は薄暗くなっていた。他愛もない話をしながら僕の家に向かった。
「ただいま!」
「お邪魔します」
「二人ともおかえり!ご飯もう少しで出来るからゆっくり休んでて!」
「はーい!」
返事をして僕の部屋に向かった。
「どうぞ!」
悠とお泊まりなんて一体いつぶりだろう?ちょっとワクワクする!
「悠!ゲームしよ」
「うん。前に凪がやりたいって言ってたゲーム持ってきたけどやる?」
「やりたい!」
最近新しく発売された格闘ゲーム。テレビで広告を見て気になってるって前に話したっけ。
「でもこれ1人プレイだよね?二人で出来る方がいいんじゃ...」
「いいよ俺は。見てるから凪がやって」
「いいの?」
「うん。俺ゲームとかあんましないし見てるほうが良いから」
「じゃあお言葉に甘えて」
実際やってみると意外と難しくてつい時間を忘れて没頭してしまった。
「ねぇ、悠。これどうやったら勝てるかな?って何...」
悠にアドバイスをもらおうと思って悠の方を見ると何故か悠はゲームではなく僕を見ていた。
「別になんでもない。ただ凪の事見てただけ」
「...僕の事見ても楽しくないよ」
「そんなことないよ。負けたり勝ったり、そういう感情が全部表情に出てたから見てて飽きない」
「そんなに顔に出てた!集中しすぎて気づかなかった...」
「だろうね。可愛くて愛おしかったよ」
「....またそんな事言って!」
なんでそんな恥ずかしい事サラッと言えちゃうんだよ、なんてつくづく思ってしまう。付き合う前も今も全然慣れなくて毎回ドキドキして顔を赤くしてしまう。恥ずかしさから悠から視線を逸らすと悠は目を合わせてきた。
「凪、顔真っ赤。可愛い」
「悠のせいでしょ?」
そう言って二人で笑いあった。
ご飯もお風呂も済み部屋で二人今日の思い出の地巡りを思い返していた。
「悠、今日の思い出の地巡り楽しかった?」
「うん。二人で数え切れないくらい思い出作ってたんだなぁって。だからこそやっぱ凪と離れたくないなって思っちゃった」
「え?」
「凪と一緒にいると離れがたくなる。離れたら思い出作るのも難しそうだし...。何よりやっと俺のものに出来たのに、捕まえられたのに。離れた分だけ凪が遠くに行っちゃいそうで」
「大丈夫だよ。僕が悠から離れるなんてありえないよ。悠は僕がどれだけ悠の事が好きか全然分かってない!」
「そりゃ分かんねぇけど、確実に言えるのは俺の方が凪の事好きだけど。何年片思いしてきたと思ってんの?」
「それは...そうだけど。僕だって負けないよ!」
「そこ張り合うとこ?」
そう言って悠はまた優しく笑った。悠の笑顔が優しさが心の底から大好き。中学の頃から僕をずっと好きでいてくれた悠。そんな一途な所も僕の事になると余裕がなくなる所もそれでも大事にしてくれる所も全部が愛おしくて、その大好きも愛おしさも言葉では伝えきれなくて僕は不意打ちで悠に口付けをした。さすがの悠もびっくりしたみたいで静止していた。こんな悠の表情は新鮮だった。悠を好きになれて良かった。
「大好きだよ悠!」
そう言いながら悠に飛びつくと悠も抱きしめ返してくれた。
「俺も。愛してる凪」
悠を守りたいと思った日、悠を意識し始めた日、悠を好きだと自覚した日、その全ての出来事に「噂」がついていた。悪い事ばかりだと思っていたけど僕たちにとっては恋のキューピットみたいな役割をしてくれていたみたいだ。
一つの噂から始まった恋。どれだけ離れてもずっと変わらない。離れても僕たちならきっと大丈夫だ。
お互い手を握って目を見つめ合いながら誓い合った。
「「これから先もずっとそばにいさせて下さい」」
「凪おはよう」
「お、おはよう悠!き、今日もいい天気だね」
「だな。てかなんか緊張してる?」
「し、してない!」
「ふ〜ん」
イタズラに笑った悠の顔が徐々に近づいてきて反射的に目を閉じてしまった。
「別に何もしねぇよ。それともして欲しかった?」
「....揶揄わないでよ、悠の意地悪!」
僕は人生で初めての恋人に慣れず緊張したり、ぎこちなかったり。
「凪!おはよう!」
「啓太おはよう」
朝一番元気な挨拶で肩を組んできた啓太。その瞬間急に悠の方へと引き寄せられた。
「あんま近づかないで」
「なんでだよ!俺も友達なのに。てか別に凪はお前の物じゃ...」
「俺のだよ」
そう食い気味に即答で答えていた。それにさっきよりも強い力で抱き寄せられ倍で恥ずかしく俯いてしまった。そんな僕を見て
「凪、もしかして照れてる?」
「え!照れてないし!」
「顔真っ赤で言われても説得力ない。そういうとこほんと可愛いし好き」
「は、悠...!」
「あの〜、目の前でイチャつかないでもらえます?」
「あ、ごめん」
『遠慮しない』と宣言した悠はというと、こんな風に僕が誰かと話してたり距離が近いと悠の方に抱き寄せて牽制してきたり、人の目も気にせず「可愛い」も「好き」も今まで以上にたくさん伝えてきていた。
(近々誰かにバレるのでは!)
そう思うような言動に僕としてはキャパオーバーだったがそれでも幸せであることに変わりはなかった。それに悠の『俺のだよ』という言葉で夢みたいだった悠と恋人になった事も現実なんだと実感出来て嬉しかった。
「やっと付き合ったのね。お前ら長い!」
「ごめん。啓太にはたくさん迷惑かけちゃったね。でもずっと応援してくれてありがとう」
「いいよ!もうすれ違うなよ」
「うん」
こんな調子で幸せを噛み締めながら気づけば数ヶ月が経過していた。
「凪」
「あ、悠!」
「今日うちくる?」
「え!いいの!行きたい!」
「じゃあまた放課後な」
「うん!」
「桐谷の家行くの?」
「うん。受験とかもあって最近行けてなかったから」
「あ〜、確かにな。最近みんな落ち着いてきてピリピリした空気無くなったもんな」
「ね〜。でももうすぐ卒業だね」
「だな。桐谷もあっち行っちゃうんだろ?」
「うん...」
もう2月になった。あと1週間で卒業だ。ようやく受験に就活が落ち着いてきたかと思えばあっという間に卒業の時期になっていた。
(卒業式が終わったら当分悠とは一緒に居られなくなるのか...)
「ただいま」
「お邪魔します」
「あら!凪くん久しぶり。入って入って!」
「あー!凪兄だ!」
「久しぶり!」
「遊ぼう!」
「ちょ!引っ張らないで〜!」
放課後、悠が暮らす施設に遊びに来ていた。受験シーズンまではよく遊びに来ていたが最近はなかなかタイミングがなく来れなかった。
(相変わらず元気だな〜)
施設の子供たちにいつもながらたくさん癒されていた。
少し遠くから子供たちとじゃれ合って楽しそうに笑う凪を見ていると咲希さんに声をかけられた。
「凪くん相変わらず元気そうで安心した」
「凪はいつもあんな感じですよ」
「そうね。ところで悠くん。何かいい事あった?いつもより表情が明るい気がする」
「そんな違います?まぁ凪と付き合う事になりました」
「え!ほんとに!」
「そんなびっくりします?」
「するよ!だって悠くんずっと凪くんの事好きだったでしょ?何度も諦めるって言ってその度悲しそうな顔してたし、凪くんの事になると目の色変わるから」
「そんな事もありましたね」
「とにかくおめでとう!私すごい嬉しい。どんな時でも悠くんを笑顔にできるのは凪くんだけね」
「ふっ。そうですね」
俺は元々喜怒哀楽が豊かな方ではなかった。でも凪のそばにいる時は全部の感情が忙しい。世界中を探しても俺をこんな気持ちにさせてくれるのは凪だけだった。
「絶対幸せにします。俺が」
「うん。末永くお幸せにね」
そう咲希さんに宣言して凪の元に駆け寄った。
「じゃあね凪くん。また来てね!」
「はい!」
暗くなった夜道を悠と話しながら歩いていた。
「あ〜、楽しかったなぁ」
「お前ほんと子供にも好かれるよな」
「好かれてるのかな?みんな良い子だから好かれてたら嬉しいなぁ」
「好かれてなきゃあんなに集まってこねぇよ。でもちょっと嫉妬する...」
「子供にまで!別に取られないから大丈夫だよ」
「まぁ、誰にも渡す気ないけど」
「ふふっ」
(こうして一緒に歩いていられるのも卒業式の日までなんだよな)
「どうした?」
急に黙りこくった僕を心配したのか悠が声をかけてきた。
「え?あ、もうすぐ卒業だなぁって」
「だな。寂しい?」
「まぁ卒業も寂しいけど、それ以上に...」
この先を言うと悠を困らせるかな?
「それ以上に?」
僕の気持ちとは裏腹にその先を促すように悠は顔を覗き込みながら聞いてきた。そんな悠の顔を見たら想いが溢れてきた。
「それ以上に...悠と離れるのがやっぱり寂しい。こうして一緒にいられるのも卒業式の日までなんだって思うと余計に...」
「それは俺も寂しいよ。凪が隣にいなくて生きてけるか不安すぎる」
「大袈裟だなぁ」
「大袈裟なんかじゃないよ。俺は凪がいるから生きてられてる。でも離れても俺の気持ちは変わらないし、離れていてもずっと一緒だ」
「そうだね。ねぇ悠、確か東京行くの卒業式の次の日だよね?」
「うん、そうだけど」
「じゃあ卒業式の日は一日時間くれない?少しでも長い時間悠と一緒にいたい!」
そう言うと悠は驚いた様子で、それでも嬉しそうに「うん、いいよ」と笑ってくれた。
こうして卒業式の日は一緒に過ごすことになった。
そして迎えた卒業式の日。
「卒業おめでとう悠!」
「卒業おめでとう凪」
「二人とも並んで!写真撮ってあげる!」
そう母さんに言われて二人で写真を撮った。今まで悠とはたくさん写真を撮ってきたが付き合って初めての写真はなんだかすごく特別に思えた。
「えっとこの後は二人で出かけてくるんだよね?」
「うん!」
「じゃあお母さん先帰ってるから。二人とも気をつけてね!」
「ありがとうございます」
「じゃあ悠行こ!」
卒業式は午前で終わるため、その後は悠と思い出の地巡りをする事にしていた。
(今日は悠ととびきり楽しい思い出を作る!)
そう意気込み目的の場所まで向かった。
最初に訪れたのは昔悠が住んでいたマンション。あの日はおばさんの家に行った帰り、屋上で飛び降りそうになっている悠を見かけて焦ったっけ。
「ここ僕たちが初めて会った場所だよね」
「俺にとってはあんま良い思い出ねぇけど、この日凪が俺を見つけてくれたから今の俺がいると思う」
「あの時は焦ったんだよ!ほんとに飛び降りようとしてるんじゃないかって!」
「そんなつもりはなかったんだけどな」
そうぎこちなく笑う悠。やっぱり悠の笑顔大好きだなぁ。
「ここはよく遊びに来てたよね」
「あ〜。凪が木登りして降りれなくなった公園か」
「それは忘れて!」
近所にある小さな公園。仲良くなってからは家よりここに集まって遊ぶことが多かった。
「てか、なんで木登りなんかしたんだっけ?」
「えーっと。僕一度でいいから木の上からの景色見てみたくって、悠に教えてもらいながら登ったはいいものの、想像以上に高くて...」
「そういえばそんな事言ってたな。木の上で震えてる凪が可愛くて、愛おしすぎたって事ばかり思ってたから忘れてた」
「もぉ〜。そんな事思ってたの」
「うん。四六時中、凪が愛おしすぎて困ってたくらいだから」
「....悠!」
なんでそんな事サラッと言えるの?ニヤニヤしてる悠の腕を照れ隠しで軽く叩いた。
「やっぱり一番の思い出ってなるとここかな?」
「うん。俺も」
最後に訪れた場所は僕たちの通っていた中学校。ここで僕たちが改めて出会って仲良くなった場所だ。校門前にいると「あれ?桐谷くんと砂山くん?」と声をかけられた。
「「先生!」」
声をかけてきたのは中学の担任の先生だった。3年間同じ先生だったから僕たちの恩師だ。
「久しぶりね。ってそれ卒業証書?もうそんな時期!」
先生は僕たちが持っていた卒業証書を見てびっくりしていた。
「はい!僕たち無事高校卒業です!」
「あら、おめでとう!」
「「ありがとうございます」」
「それにしても二人とも今でも仲良いのね。私の思った通りだわ〜」
「どういう事ですか?」
「私ねずっと桐谷くんの事が気がかりだったの。中学入学してから誰とも話そうとしなくてずっと一人だったから」
「先生よく俺に声かけてくれてましたもんね」
「でも全然話してくれないし、ずっと無表情だったじゃない!」
「そ、それは...」
「でもね、そんな時に砂山くんが転校してきてくれて。初めて誰かに反応してる桐谷くんを見て、あ、この子なら桐谷くんの心を開いてくれそう!って思って案内係を任せたのよ」
「そうだったんですか?」
初耳だ。てっきり席が近いからかと思ってた。
「それで思った通り二人とも仲良くなってくれて。砂山くんと仲良くなった後の桐谷くん見違えるほど表情が柔らかくなって嬉しかったわ」
「先生って案外過保護ですよね」
「だって大事な教え子だもの!これから大人になって大変な事もあると思うけどいつまでも仲良くいてね」
「「はい!」」
元気よく返事をして先生と別れた。確かにあの日先生が悠を案内係にしてくれなかったらもっと仲良くなるのが遅くなってたかもしれない。そう思うと先生には感謝してもしたりなかった。
「そういえば悠はいつから僕を好きでいてくれたの?」
「ん?中学の時から。それこそ凪が母親からも暗闇の人生からも俺を解放してくれた日。あの日クラスの奴との話も聞いてた」
「クラスの?それっていつの話?」
クラスの人との話って僕どんな話してたんだろう?
「俺の根も葉もない噂を聞いて『悠はそんな奴じゃない』ってクラスのやつに怒ってくれた時」
「あ〜、あったねそんな事。ごめんね、あの時はまた分かったような事言って」
悠に言われて思い出した。あの時は悠の事悪く言われて黙ってられなかったんだよね。でもあの日は聞かれてたらまた悠に嫌われちゃうかななんて思ってたんだよね。
「いや、おかげでやっと自分の気持ちに素直になれる人を見つけた。びっくりするくらい俺の事を見ててくれて、認めてくれて。あの日の凪の言葉全部が嬉しかった。その日から俺は凪しか見えてないし、初めて誰かをこんなに愛したいと思ったよ」
だから悠が嬉しいと思ってくれてる事が僕にとっては何より嬉しかった。
「ふふっ。なんか改めてこんな話すると照れくさいね。でもほんと出会えて良かった!」
「俺も。俺の人生にとって凪に出会えたことが一番の宝物」
「悠って意外に重いタイプ?」
「多分な...。でもそんな俺でも好きでいてくれる?」
「もちろん!」
そんな所も全部大好きなんだよ。だから友達としては見られなかった悠のいろんな顔をこれからたくさん見られると良いなぁ。
「もうこんな時間か。そろそろ帰ろっか!」
「うん」
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうものでもう外は薄暗くなっていた。他愛もない話をしながら僕の家に向かった。
「ただいま!」
「お邪魔します」
「二人ともおかえり!ご飯もう少しで出来るからゆっくり休んでて!」
「はーい!」
返事をして僕の部屋に向かった。
「どうぞ!」
悠とお泊まりなんて一体いつぶりだろう?ちょっとワクワクする!
「悠!ゲームしよ」
「うん。前に凪がやりたいって言ってたゲーム持ってきたけどやる?」
「やりたい!」
最近新しく発売された格闘ゲーム。テレビで広告を見て気になってるって前に話したっけ。
「でもこれ1人プレイだよね?二人で出来る方がいいんじゃ...」
「いいよ俺は。見てるから凪がやって」
「いいの?」
「うん。俺ゲームとかあんましないし見てるほうが良いから」
「じゃあお言葉に甘えて」
実際やってみると意外と難しくてつい時間を忘れて没頭してしまった。
「ねぇ、悠。これどうやったら勝てるかな?って何...」
悠にアドバイスをもらおうと思って悠の方を見ると何故か悠はゲームではなく僕を見ていた。
「別になんでもない。ただ凪の事見てただけ」
「...僕の事見ても楽しくないよ」
「そんなことないよ。負けたり勝ったり、そういう感情が全部表情に出てたから見てて飽きない」
「そんなに顔に出てた!集中しすぎて気づかなかった...」
「だろうね。可愛くて愛おしかったよ」
「....またそんな事言って!」
なんでそんな恥ずかしい事サラッと言えちゃうんだよ、なんてつくづく思ってしまう。付き合う前も今も全然慣れなくて毎回ドキドキして顔を赤くしてしまう。恥ずかしさから悠から視線を逸らすと悠は目を合わせてきた。
「凪、顔真っ赤。可愛い」
「悠のせいでしょ?」
そう言って二人で笑いあった。
ご飯もお風呂も済み部屋で二人今日の思い出の地巡りを思い返していた。
「悠、今日の思い出の地巡り楽しかった?」
「うん。二人で数え切れないくらい思い出作ってたんだなぁって。だからこそやっぱ凪と離れたくないなって思っちゃった」
「え?」
「凪と一緒にいると離れがたくなる。離れたら思い出作るのも難しそうだし...。何よりやっと俺のものに出来たのに、捕まえられたのに。離れた分だけ凪が遠くに行っちゃいそうで」
「大丈夫だよ。僕が悠から離れるなんてありえないよ。悠は僕がどれだけ悠の事が好きか全然分かってない!」
「そりゃ分かんねぇけど、確実に言えるのは俺の方が凪の事好きだけど。何年片思いしてきたと思ってんの?」
「それは...そうだけど。僕だって負けないよ!」
「そこ張り合うとこ?」
そう言って悠はまた優しく笑った。悠の笑顔が優しさが心の底から大好き。中学の頃から僕をずっと好きでいてくれた悠。そんな一途な所も僕の事になると余裕がなくなる所もそれでも大事にしてくれる所も全部が愛おしくて、その大好きも愛おしさも言葉では伝えきれなくて僕は不意打ちで悠に口付けをした。さすがの悠もびっくりしたみたいで静止していた。こんな悠の表情は新鮮だった。悠を好きになれて良かった。
「大好きだよ悠!」
そう言いながら悠に飛びつくと悠も抱きしめ返してくれた。
「俺も。愛してる凪」
悠を守りたいと思った日、悠を意識し始めた日、悠を好きだと自覚した日、その全ての出来事に「噂」がついていた。悪い事ばかりだと思っていたけど僕たちにとっては恋のキューピットみたいな役割をしてくれていたみたいだ。
一つの噂から始まった恋。どれだけ離れてもずっと変わらない。離れても僕たちならきっと大丈夫だ。
お互い手を握って目を見つめ合いながら誓い合った。
「「これから先もずっとそばにいさせて下さい」」
