噂の恋

凪への気持ちを自覚して以来自分の中で葛藤が続いた。
 俺は凪の笑顔を守りたい。凪を困らせたり傷つけたくない。誰よりも凪のそばにいたい。
 でもこの気持ちはこの全てを台無しにしてしまう。だから忘れないと。
 (頼むから、早く消えてくれ...)
 そう思ってたのに...
「悠!これ見て!この前のクレーンゲームの景品取れたよ!」
「前に言ってたやつか。すげぇじゃん、おめでとう」
「えへへ。悠のおかげだよ!」
「俺は何もしてないだろ」
「そんな事ないよ。悠がいろいろコツを教えてくれたおかげ!」
 この他愛もない話をしてる時間が俺にとっては何より幸せで。名前を呼ばれる度、凪の隣にいる時間が増える度消える所か好きは増していくばかりで...
 (この気持ちを消すなんて俺には無理だ...。俺こんなに凪の事好きになってたんだな)
自分で思ってるより何十倍も凪の事が好きだったんだと思い知らされる毎日で。俺は凪がいないと生きていけない。あぁ、ほんと重すぎ。
 俺の気持ち全てが凪に知られたらきっと困らせる。今のままではいられない。だから俺は友達でも何でも良かった、凪のそばにいられるならなんでも。なのに...
『二人なら付き合っててもおかしくないしお似合いだと思ったよ!』
 『悠が幸せになってくれるなら。僕応援するから!』
 俺の気も知らずそんな事を凪の口から聞く度、胸が締め付けられた。俺が好きなのはずっと凪だけなのに。
 だから気づいてもらえなくても少しでも俺を意識して欲しい。だから...
 『俺は嫌だよ。凪に彼女ができるの。彼女が出来たらこうして一緒にいられなくなるだろ。友達としての独占欲、的な』友達としての独占欲なんかじゃない...。凪はどう思ったかな?凪に彼女が出来た時、俺、祝福できる自信ねぇな。

 『どれだけ仲のいい奴が出来ても俺にとって凪が一番って事だけは絶対に変わらないから。俺にとっての一番はずっと凪だけ』この日は凪が嫉妬みたいな感情を見せてくれたのが勘違いでも嬉しかった。そんな心配しなくても俺にとっての一番は今までもこれからも一生凪だけなのに。

 『他の誰にも目移り出来なくなるくらい凪を俺の虜にしてあげる』この日は凪が彼女たちを好きになるんじゃないかって気が気じゃなかった。そうなったら俺には勝ち目がないから。他の誰にも取られたくない。俺だけを見てて欲しい。アイドルじゃなくても凪を虜に出来ないかな?

 『俺がもっと早く駆けつけてればこんな怖い思いさせなくてすんだのに』凪を守るって決めたくせに凪に怖い思いさせるなんて...。ほんと頼りない。そんな自分にイライラした。

 でもどれだけアプローチしても凪は振り向いてくれない。それ所か『悠は...僕の事が好きなの?』とか聞いてくるし。少し期待してしまった。そんなわけないのに。凪を安心させたくて「凪と同じ意味」なんて嘘までついたのにあんな悲しい顔...。なんでそんな顔するんだよ。その日の事を思い出してまた一人苦しくなる。
 けど凪の魅力に気づいてる奴は俺だけなはずがなくて思いがけず今井に告白されてる所に居合わせてしまった。
 (好きな人って凪の事だったのかよ...)
 こうなる日が来ることは覚悟してたはずなのに焦りと嫉妬で気づけば
 『俺、凪が好き』
 胸の奥に秘めていた気持ちを吐き出していた。
 言うつもり無かったのに...。絶対凪の事困らせた。明日どんな顔で会えば良いんだろう?




 プチ旅行でナナミに告白されその帰りに悠に告白され混乱の中二日間寝られなかったのに不思議と眠気はなかった。でも朝、家族と顔を合わせるなり『そのクマどうしたの!』と心配されるくらい僕の顔は酷かったみたいだ。でも僕はそれ以上に頭の中は悠と両思い?ばかりループしていた。
 (ナナミの告白は断ったけどきっと悠には勘違いされてるよね)
 どうしたものか悩みながら気分転換も()ねて僕は散歩に出かけていた。
(でもなんで悠は僕の事が好きなんだろう?僕の何がいいの?)
悠に聞きたいことはたくさんある。でも今顔を合わせてもまともに話せる自信がなかった。いろいろ考えながらボーッとしながら歩いていると気づくと悠の暮らす施設の前まで来ていた。
「僕、昔から何かあると無意識の内にここに来る事多いんだよな」
きっとそれは悠のそばにいたかったからなのかな?悠のそばにいると安心するから。
引き返そうとした時、建物から悠が出てきた。
「あ、はる...」
 声をかけようとした時、悠が見知らぬ女の子と楽しそうに腕を組んで歩いていた。
 (え...?どういう事?あの告白はなんだったの?)
 気分転換の散歩のはずがまた訳が分からず混乱するはめに。明日どんな顔して悠に会えば良いんだろう?




「おはよう。凪知らない?」
「おはよう桐谷。あ〜...、さっき出てったきり戻ってきてねぇや」
「そっか」
「....もう行ったぞ」
「.....ありがとう」
「なんで隠れてんだよ。同じクラスなんだ、どうせ見つかるだろ」
「それはそうなんだけど...。今は悠に合わせる顔がないって言うかなんて言うか...」
「はぁ〜。お前らって進展したかと思えば逆方向に進展するよな」
「そうなんですよね...」
 今日は悠と話せなさそうだったので朝「先、学校行くから」という連絡だけして悠から身を隠していた。昨日の事が頭から離れない。
(僕が返事しなかったから諦めた?それとも避けてることに気づかれて呆れられた?告白無かったことになっちゃったのかな?)
 聞けば済む話なのにどうしても勇気が出なかった。
「で、今度は何があったわけ?告られたんだろ?じゃあお前も好きだって伝えれば一件落着じゃん」
「そうなんだけど、もう最近なんかいろいろありすぎて分からなくなってきて...」
「だいぶ深刻そうだな。でもお前あいつに聞きたいことあんじゃねぇの?」
「ある。いっぱい」
「じゃあ隠れてんじゃねぇよ!避け続けてても何も始まんねぇだろ!」
そう言って背中を叩かれた。啓太に喝を入れられたのにその後も
「凪、移動教....」
「啓太!移動教室行こ!」
「凪、昼飯...」
「あ、昼先生から呼び出しされてるんだった!ごめん悠!また後で!」
「凪...」
「ごめん!今から用事があるから!」
 1日何かと理由をつけては悠を避けていた。なるべく目を合わせないように、一緒にいないように。そういえば前にもこんな事あった気がする...。
「デジャブか?それにずいぶんとげっそりしてることで」
「やっぱ前にもこんな事あったよね。僕今日一日で結構干からびたかも...」
「桐谷と話せないから?」
「.....うん」
「じゃあ避けんなよ」
「それが出来たら苦労しないよ」
「はぁ〜。あのな、そんな調子だといつかあいつの気持ちも冷めるぞ!あっちからしたら避けられてんのも気づいてるだろうし。相手はあのバカみたいにモテる桐谷だぞ!新しい好きな人が出来たらお前に見向きもしなくなるだろうな」
 そうだ。きっと他に好きな人が出来たら僕を忘れて...。
「そんなの嫌だ」
 絶対に嫌だ。せっかく両思いかもしれなかったのに。悠が誰かの所に行くなんて考えるだけで目眩(めまい)がする。
「じゃあちゃんと話してこいよ。俺はずっとお前らを見てきたから応援してんだよ。上手くいかなきゃ1年ライブに付き合ってもらうからな!」
「ふふっ。別にあんま嫌じゃないかも。でもありがとう」
「頑張れよ!」
 最後の最後まで啓太には迷惑かけたなぁ。こんなにも応援してくれる素敵な友達がいて僕はほんと恵まれてる。そんな事を考えながら通学路にある公園で悠の事を待つ事にした。学校だとやっぱり話しづらいから。
 公園へ向かっている途中急に腕を掴まれた。振り返った先には息を切らした悠がいた。
「は、悠...?」
「やっと捕まえた」

「なんで今日俺の事避けてたの?もしかして告白の事...?」
ずっと気にしてた事を一発で当てられて言葉が出なかった。
「ごめん、告った後すぐ逃げて...」
「え?」
「俺が一方的に気持ち押し付けて、なのに凪の話一切聞かずに逃げて。そりゃ困るし怒るよな。あの時俺も冷静じゃいられなくて凪の気持ち聞くのが怖くて逃げた。ほんとかっこ悪いよな。失望されてもおかしくない...」
「そんな事ない!」
「凪は優しいな。でも俺本気だから。今までもこれからもずっと凪だけが好き」
その言葉を聞いてすごく安心した。それと同時に自然と涙がこぼれ落ちた。
「え、なんで泣いてんの?」
「.....せい」
「え?」
「全部悠のせいだよ!僕の事が好きならなんで可愛い女の子とイチャイチャしてたの...!僕は、僕も悠が好きなのに...!両思いかもって嬉しかったのに...!ほんと意味分かんないよ...。悠のせいで僕の気持ちはぐちゃぐちゃだ...」
 涙が止まらなくて声が震えていた。言葉がまとまらなくてちゃんと喋れているかも分からない。怖くて悠の顔も見られない。
 僕の腕を掴んでいた手とは反対の手で悠は優しく涙を(ぬぐ)ってくれた。
「ごめん。言ってる事の半分も理解できないんだけど。女の子とイチャイチャって何?」
「昨日施設の前で女の子と腕組んで歩いてたじゃん」
「....あ。あれは最近施設に来た子。元々誰とでも距離近めな子だから特別好かれてるとかじゃないし。それにあいつ彼氏いるし」
「.....え?」
 (じゃあ僕の勝手な勘違い...?恥ずかし!最悪だ...)
 勝手に勘違いして悠の事避けてたとか最低だ僕。恥ずかしさのあまりまた悠の顔も見れず(うつ)いていた僕に悠は顎クイをしてきた。悠の顔を見るなり余計に顔が赤くなった。
「ねぇ、さっき俺の事好きって言った?俺本気にするよ?離さないから、もっかい聞いていい?本当に俺の事が好き?俺でいいの?」
「....うん。好き、悠が大好き!」
 今度はちゃんと悠の目を見てはっきりと伝えられた、僕の本当の想い。悠は優しく微笑みながら僕を抱きしめてくれた。
「大好き凪。叶うなんて思ってなかったから、夢みたい。ありがとう」
「こちらこそ好きになってくれてありがとう」
 悠の温もりに鼓動が高鳴り幸せに満たされた。
「じゃあこれからは我慢も遠慮もしないから」
「へ?」
 いきなりの宣言につい変な声が出た。
「今まで我慢してきた分これからはたくさん伝えるから。もうよそ見させないよ」
「....!」
「可愛い」
揶揄(からか)ってるでしょ...?」
「なわけ」
 顔を真っ赤にする僕といつもみたいに優しく笑う悠。
「ねぇ、凪。これから先、俺がお前の事一生幸せにする。命に変えても守るから。だから俺と恋人になって下さい」
「命に変えてもって、そこまでしないでよ!僕は悠と一緒にいられればいつでも幸せだよ。だからこれからは友達じゃなくて恋人としてそばにいさせて!」
「もちろん」
 そう言って初めてキスをされた。
 ずっと抱いてきた『特別』は友情よりも恋だったのかもしれない。絶対叶わない、ありえないと思っていたのに今は両思いになれた。本当に夢みたいなこの幸せを噛み締めながら...
 (これからは恋人としてずっと悠と一緒にいる)
 (これからは恋人としてずっと凪を守る)
そう心の中でお互いに決意を固めていた。