噂の恋

高三になって僕は親友に初恋をした。そんな本当の気持ちを自覚してから数日。

「凪おはよう」
「悠!お、おはよう...」

「...ぎ?凪?」
「へ?何?」
「大丈夫?今日上の空すぎない?」
「いや...そんな事ないよ!そういえば、用事思い出したからちょっと行ってくるね!」
「わ、分かった」
 話しかけられてもぎこちないし、あからさまに避けてしまう。挙句(あげく)の果てに顔もまともに見れない。こんな事では...
「絶対変に思われてる!」
「だろうな。俺から見ても不審(ふしん)すぎる」
「だよね〜。もうほんとどうしよ」
 気持ちを自覚してから啓太にはいろいろ相談に乗ってもらっていた。自覚するまでの経緯や失恋した事まで。
「やっと一歩前進かと思ったらまたすれ違ってんの?お前ら二人して不器用すぎるだろ」
「ごめんて。でも僕これからどうしよう。悠と話せないのは嫌だけど今の状況でまともに話せる気がしないんだけど...」
「まぁ今の状態じゃ無理だろうね。てか失恋ってあいつに告ったの?それであいつの口から無理って言われたの?」
(桐谷が凪の告白断るなんてありえんのか?だって桐谷は凪が...)
「いや告白はしてないけど、友達として好きって言われたから...。僕とは好きの意味が違うんだなぁって」
「あ〜、なるほど。じゃあまだチャンスはあんじゃん!今度のビックイベントが!」
「ビックイベント?」
 啓太の言うビックイベントというのはうちの学校の恒例行事で高三の最後の思い出作りとして一泊二日のプチ旅行に行く。行く場所も生徒のアンケートで決めるんだとか。
「友達として好きって言われたんだろ?じゃあその好きの意味を変えてやればいいんだよ!まだ諦めるのは早いって!ここで桐谷を振り向かせるチャンスだろ?」
「確かに、そうだね!僕頑張るよ!」
「おぉ!その意気だ!」
 悠は僕を友達として好きでいてくれている。このプチ旅行で好きの意味を僕と同じにしてやる!



プチ旅行までの間僕は前みたいに悠と話せるようになるべく必死だった。
悠がどこかへ行くと後ろからコソコソついて行くようにしたり...ってこれじゃストーカーか。
壁の影に隠れながらそんな事を考えていると「何してんの?」と声をかけられ顔をあげると目の前に悠がいた。
「は、悠!」
「なんか最近コソコソしてるけど、どうした?」
「き、気づいてたの...」
「俺が凪に気づかないわけないだろ」
「嫌だった...?」
「いや。いつもついてくる凪が犬みたいで可愛かったからこのまま気付かないふりしとこうかと思ったけど。何か大事なようだったら大変かなって思って」
「可愛いって...。悠はいつも言ってくれるよね」
「だっていつも思ってるし」
「....!」
やっぱりずるい...!それにいざ悠を前にするとどう接していいか分からなくなる。僕いつもどうやって話してたっけ。
「凪?」
「あのさ前に言ってた好きな人。悠はまだその子の事好きなの?」
「うん、好きだよ。どれだけ片想いでも諦められない。俺の人生でその人以外好きになる未来はないから」
「そっか。そんなに素敵な人なんだね...」
「うん。俺には勿体ないくらい素敵な人だよ」
悠に勿体ないなんて...それにそんなに一途に思う人って余程素敵な人なんだろうな。僕には勝ち目がないのかな?自分から聞いておいてそんな不安ばかりが駆け巡る。前は普通に応援するなんて言えたのに今はそんな事言えなくなるくらい好きが溢れて止まらない。
(ごめんね悠。そんなに好きな人がいるのに好きになって...)
「凪」
一人不安になって俯いていると悠に声をかけられて悠の方を見るといきなり頬をむぎゅとされた。
「ふっ。変な顔」
「悠のせいでしょ!」
「元気になった。最近少し様子が変だったから心配してたけどやっぱなんかあった?」
「...なんでもないよ。ごめんね心配かけて」
「いいよ、心配も迷惑もたくさんかけてもらって。全部受け止めるから」
悠はやっぱりかっこいい。どうしよう、僕ばっかり悠の事好きになってる。




結局ぎこちなさと不安が残ったまま旅行のグループ決めが始まってしまった。やはり悠は女の子達に囲まれていた。
「いつもの事ながらやっぱ凄いねぇ〜。どうすんの凪?」
「あの中に入ってくのはちょっと気まずいけど...誘ってくる!」
 ここで頑張らないと振り向かせる所の話ではなくなる!
「は、悠!」
「凪?」
「班一緒に組まない?」
「うん、いいよ」
そう悠は嬉しそうに微笑んだ。
「え?私達が先に誘ってたのに。ねぇ、一緒に組もうよ!」
「悪い。俺、凪と一緒が良いから」
 そう言って僕の所に来ると悠に背中を押されて女の子達から離れた。そうして悠の顔が耳元に近づいてきた。
「ありがとう凪。どう断ったら傷つけないか困ってたから助かった」
 耳元で囁かれて顔が火照った。ほんと心臓に悪すぎる...!
「....うん」
 火照った顔を悠にバレないように顔を背けながら小さく返事をした。
 


 楽しみな日はあっという間にやってくるもので気づけばプチ旅行当日。今年は京都の神社巡りになった。現地についてまずは着付けをしてもらった。服も草履も慣れない格好なため時折(ときおり)転びそうになる。細心の注意を払わなければ!
「凪、着付け終わった?」
 声をかけられ振り向くとそこには着付けを終えた悠が立っていた。スラッとした長身にシンプルな色合いの着物を着ている。
 (悠かっこよすぎないか!こんなに絵になる人がいていいものか。歩くだけで全人類虜にしそうだ)
 そんな事を思いながら悠から目を離せないでいると
「凪似合ってる。可愛い」
不意打ちでそんな事を言われた。
「可愛いかな?悠もめちゃくちゃ似合ってるよ!か、かっこいい...」
 徐々に声が小さくなりまたも顔も背けてしまった。
「ありがとう。凪にかっこいいって言われるのは嬉しい」
いつも通り優しく微笑む悠。あ〜、一生この笑顔の傍にいたいなぁ。そんな事を考えていたら先生の声が聞こえた。
「皆さん着付けは終わりましたか?じゃあここからは班ごとの自由行動です。集合時間だけは守るように!じゃあ解散!」
 先生の掛け声とともに一斉に散らばる生徒たち。僕の班も早速自由行動に入った。



「悠!写真撮ろう?」
「うん。いいよ」
 この自由行動で悠との距離を今までよりも縮めたい!少しでも僕の事を意識してもらえるように。そう思っていたはずなのに...
「わ〜!鳥居大っきいね!こんなに並んでると迫力すご!」
「凪、ちゃんと前見ないとぶつかるぞ」
そう言って腕を引っ張られた。
「あ、ごめんは...る」
振り向くと想像以上に悠の顔が近すぎて途中で言葉が詰まってしまった。
(びっくりした...。観光どころじゃないよ〜!)
あまりの距離の近さに心臓がうるさくなった。

「悠!あっち行こ!ってわ!」
「凪!大丈夫?気をつけろよ」
「あ、ありがとう」
「手、離さないで」
「へ...?」
え?繋いだまま...?まぁ転びかけた僕を心配してくれてだろうけど。僕手汗やばいのに!
ずっと緊張で汗が止まらなかったのもありいろんな意味で恥ずかしかった。僕、顔赤くないかな?

「砂山!コレ見てみ!」
「うん!ってえ?」
班の子に写真を見せてもらおうと近づくと悠の繋いでいた手を握る力が強くなった。
「...凪はこっち」
少し拗ねたような顔でそう言われバックハグ状態で写真を見る羽目に...!
(もう!心臓いくらあっても足りないよ!今日で僕の心臓どうにかなっちゃいそう...!)
その一つ一つの行動に無性にドキドキしてしまう自分がいた。
 いや、待てよ。なんで悠を意識させたいのに逆に僕が悠にドキマギさせられてるんだ?
 普通に神社巡りを楽しんでいて、悠の怒涛のイケメン行動にドキドキさせられっぱなしで本来の目的を思い出した頃には既に集合時間になっていた。




「で。結局何も変わらなかったと」
「面目ない。つい楽しんじゃって」
宿に戻り啓太と結果の報告会をしていた。
「まぁ凪らしいっちゃ凪らしいけど。こんな調子でどうすんだよ?相手は桐谷だぞ。すぐ他の子に取られる可能性もなくはないんだぞ」
「そうなんだよね。はぁ〜。ちょっと散歩行ってくる」
 考えていても拉致があかず部屋を出た。
『すぐ他の子に取られる可能性もなくはないんだぞ』
 悠はモテる。そんな事分かってる。でもこの気持ちを悠に言っても悠を困らせるだけなのでは...?今の関係も壊れちゃう?そう思うと怖くて一歩を踏み出せない。悠を困らせたくないし嫌われたくない。
「凪?」
「あれ、ナナミ?」
「何してんのこんな所で?」
「ちょっと考え事」
「何か悩んでるの?私で良ければ聞くよ!」
そういえばナナミ、前に好きな人に告白するって言ってたっけ。なら参考までに聞いてみようかな?
「ナナミはさ、なんで好きな人に告白しようと思ったの?」
「え?シンプルに他の人に取られたくないから。気持ちを伝えずに後悔する方が私は嫌だから」
「でもその人との関係が壊れたりとか相手を困らせるんじゃないかなとか不安にならないの?」
「ならないわけないでしょ!でもそんな事ずっと考えても拉致があかないし。当たって砕けろの精神って結構必要だよ!まぁ砕けたくはないけど...」
ナナミもかっこいいな。僕もそんな風に強くなれたら良いのに。恋って大変だな。
「あ、そういえばこの前はありがとね。嘘だとしても僕と付き合ってるなんて言わせちゃってごめんね」
「なんで謝るの?別に気にしてないのに。それにこの事が本当になったら良いのにって思ってたから」
「へ?」
急なナナミの言葉に変な声が出た。
「この前話したよね、好きな人がいるって。凪は気づいてないかもしれないけど、私凪が好きなの。ずっと好きで振り向いてほしくて頑張ってたのに凪ってば全然気づいてくれないんだもん」
「....え?これ、なんかのドッキリ?なんで僕?」
「違うよ。中学の時私が先輩に絡まれてる所助けてくれたでしょ?皆見て見ぬふりしてたのに凪は|躊躇(ためら)わず助けてくれたでしょ?その時から好きだったんだ」
 確かにそんな事もあったっけ。僕としては当然の事をしたまでなのでそんなに深く考えてなかった。ようやく頭の整理が追いついた時...
「ねぇ。もし凪が良かったらなんだけど私と付き合ってくれない?」
 まさかのナナミからの告白。今じゃなきゃきっと悩んでたかもしれない。でも僕の気持ちはもう決まっていた。
「ありがとうナナミ。でも僕...」





「....どうしよう」
飲み物を買いに来たら凪と今井の告白現場にばったりと居合わせてしまった。
最悪のタイミング。俺は凪の答えを聞きたくなくてすぐにその場を去ってしまった。
 




 結局昨日は眠れなかったなぁ。初めての告白だったしずっと考えちゃった。
「凪眠そう。眠れなかった?」
「うん、ちょっとね」
 プチ旅行から帰ってきて家まで悠と並んで帰っていた。悠にはさすがに理由までは話せなかった。
「ごめん」
「え?」
なんで唐突な謝罪...?
「昨日今井に告られてる所に居合わせちゃって、聞いた...」
 聞かれてたのか。どう答えたら悠に誤解されないかな。
「答えまでは聞いてない。でも昨日からその事で頭がいっぱいで。こんな時に言うのはずるいって分かってんだけど我慢できそうになくて...。俺、凪が好き」
「う、うん。それは前も聞いた。友達としてって」
「それは...嘘。こんな事言ったら凪を困らせるだけだからずっと言わないでおこうって思ってたんだけど凪が他のやつに取られると思ったらやっぱ嫌で。凪の隣にいるのは俺でありたかった。ずっと俺だけを見て欲しかった。俺は凪が好きだよ。恋愛的な意味で、ずっと前から」
 またも唐突な事でキャパオーバー状態だった。悠が僕を好き?恋愛的な意味で?じゃあ僕たちって両思いなの?
「ねぇ、悠それって...」
「ごめん。俺先帰る」
もっと詳しく話を聞こうと思ったのに悠は先に帰ってしまった。
(悠待って。一人にしないで!)
 そう思っても悠を引き止める勇気がなかった。整理がついていない今、悠を引き止めて何を伝えたいんだろう?変に話してまたすれ違ったり離れちゃうのは嫌だ。
 友人二人からの立て続けの告白で僕は二日続けてオールをする事になった。