噂の恋

あの噂が流れてから約一ヶ月が経った。その間、毎日のように女子たちから関係を問い詰められることがあったが全て否定していたら自然と噂は無かったことになっていた。悠にも知られずに済み一件落着。そう思った矢先...。
「テストだ〜」
 僕はテストが近づく絶望に深いため息をつきながら机に突っ伏していた。
「今回もダメそう?」
「うん。だから悠!今回もお世話になります!」
「そうなるだろうと思ってた。良いよ。今回も目指せ赤点回避ってところかな?」
「うん!ありがとう悠!本当にいつも助かってるよ〜」
勉強が大の苦手な僕。授業をいくら集中して聞いても分からない所も悠が教えてくれると分かりやすくて覚えやすかった。本当に不思議な事もあるものだ。

「凪〜。桐谷〜。助けてくれ」
「どうしたの、啓太?」
「俺今回赤点だとかなりヤバいの!補修まっしぐらなの!どうにか俺にも救いの手を...!」
「うーん。僕も現在進行形でそんな状態だからなぁ。悠は二人の面倒見れそう?」
「別に大丈夫だけど。でも二人違う場所を同時に教えるとかは無理」
「もちろん悠に無理はさせないよ!僕は前から教えて貰ってたからある程度大丈夫になってきたし。また分からなくなったら言うからそれまでは啓太の方見てあげて!」
「分かった」
「ありがとう!恩に着るぜ!」
 こうして三人での勉強会が始まった。

「桐谷!ここ教えて!」
「あ!そこ僕も分かんない」
「ここは...」
 僕と啓太の脳みそは似ているのだろうか?なぜか分からない所が一致していた。まぁ、悠としてはありがたいんだろうけど。
「なるほどね!桐谷教えんの上手いな。将来教師とかになれば良いのに!」
「それは僕も思ってた!絶対向いてると思うんだよね〜。そういえば悠は将来なりたいものとかあるの?」
「今目指してんのは医者」
「「医者!」」
「図書室ではお静かに」
「「すみません」」
 僕と啓太は驚きすぎてここが図書室である事を忘れ大声を出して司書さんに怒られてしまった。悠が医者。こっちはこっちで似合いそうだけど医者ってなるだけでも難しいよね。
「なんで医者になりてぇの?」
「なんでって言われても...内緒」
「え〜!なんだよそれ。凪も気になるよな」
「うん!」
「まぁいつかな」
「そっか。まぁでも、悠ならきっと素敵な医者になれるよ!頑張って!」
「ありがとう。てか勉強しなくていいの?」
「は!今すぐやります!」
 悠の将来の話につい夢中になってしまった。理由は知りたいけど悠が言いたくないこと無理に聞くのもあれだしなぁ。また時が過ぎたら改めて聞いてみよう!

「そういやぁ、凪は進路とか決めてんの?」
「う〜ん。それがまだ明確には決まってないんだよね〜」
「そっか。まぁまだ少し時間あるしゆっくりでもいいんじゃね。なんかやってみたい事とかねぇの?」
「う〜ん...料理とかかな」
「え、なんで?」
「悠さ、ウチ来たら母さんの料理いつも美味しそうに食べるじゃん?だから僕も料理作れるようになって悠に食べて欲しいなぁって思って。そしたら悠を笑顔に出来るでしょ!」
 そんな話をしていると隣を歩いていたはずの悠がいなかった。後ろを見るとなぜか悠はその場に立ち尽くしていた。
「悠?どうしたの?」
「あ、ごめん。なんでもない」
「そう?」
 そう言って追いついてきた悠の耳が少し赤くなっていたように見えた。今日そんなに日差し強いかな?
「悠が医者になりたい理由もいつか教えてね!」
「俺が医者になりたい理由...」
「もしかして大した理由はない?」
「いや...」
 なぜか悠は僕の方を見てきた。僕の顔色を伺うように。
「何?」
「凪が理由」
「え?」
「お前中学ん時、高熱出て一週間以上休んだ時あっただろ?」
「あ〜、そんな事もあったね。あれはさすがにキツかった」
 僕は基本風邪を引いてもそんなに熱は上がらないし一日かそこらで治ってしまう。でもその時は食欲なし、一人で歩くのも無理、寝てるしか出来ないのに全然寝付けなくて苦しかった。
「あの時俺はそばにいるだけで何も出来なかった。それがすげぇもどかしくて辛くて。だから医者になって知識がつけば俺が凪を助けてあげられるかもって思って...」
「.....え!それが理由!」
 思いがけない理由で一瞬頭が追いつかなかった。確かにあの時いくら帰ることを促しても悠はずっとそばにいてくれた。そんな風に思ってくれてたんだ。
「うん。でも言えば凪が引くんじゃないかって...」
「別に引かないよ。むしろ嬉しい」
 そう笑いながら言うと悠はホッとしたような表情になった。
 予想の斜め上すぎる理由にびっくりはしたけど、こんな事で引くわけがない。悠は元々僕をすごく大事にしてくれてたけど、僕が思ってるよりもずっと大事に思ってくれてる事を知れて嬉しかったし、キュンとしてしまった。僕って案外チョロいのかな?

「今日の勉強会も図書室でいい?」
「うん!」
「いいけど」
 そんな話をしていると...
「ねぇ。良かったら私達も混ぜてくれない?」
 そう言って数名の女子が集まってきた。
「別に構わないけど。さすがにこの人数一気にはきつい」
「じゃあ私も手伝うよ!」
「ナナミ!」
「人数は多いに越したことはないでしょ?これも勉強の一貫だし!」
「今井さんがいるなら俺達も!」
二人の集客が凄すぎた結果、放課後教室を貸し切って勉強する事になった。

僕はというと勉強そっちのけで黒板を使って勉強を教えている悠を見ていた。悠は真剣にみんなと向き合っていて意外と楽しそうだった。やっぱりみんなに頼られる悠って凄いな。悠をボーっと見ているとナナミが声をかけてくれた。
「何か分かんないとこあった?」
「ん?あ、別にそうじゃないんだけど」
「じゃあ、悠の事が気になるの?」
「気になるっていうか、なんか嬉しくて」
「嬉しい?」
「うん。悠は昔から勘違いされやすくて、悠もどこか人と距離を置いてたから無理強いはしたくなかったんだけど、本当はずっと皆に悠の良さを知ってもらいたかったし、悠にもいろんな人と仲良くなって欲しいって思ってた。だからこうして皆に囲まれてる悠を見れるのがすごい嬉しいんだよね」
「凪ってさ悠の事話してる時っていつも楽しそうだよね。ずっとニコニコしてる」
「そうかな?」
「うん。無意識なんだね」
ナナミはそう微笑みながら言って僕の頬を掴んで口角をあげてきた。
「なに〜?なんかくすぐったいよ」
「えへへ。こんな風にニコニコしてるよって実演してあげてるの!」
「何それ」
そう二人で笑いあっているとナナミの手が僕の頬から離れた。というか離された?
「何してんの?」
「悠!」
声をかけてきた悠が僕の頬をつまんでいたナナミの手首を掴んでいた。
「何って別に仲良く話してただけよ。あんたこそ勉強そっちのけでこっち来ていいわけ?」
「....凪こっち来て」
「え?」
「他のやつと一緒に教える」
「え、あ、ちょ!」
強引に腕を引っ張られ慌てて勉強道具を手にする。もしかして悠...
「なんか怒ってる?」
「別に...」
「別にって顔してないんだけど!」
何かを隠してそうな悠の顔を覗き込むと悠は急に僕の頬をつまんできた。
「え、何?」
「上書き」
そう言うと悠は黒板の方へと戻って行った。訳が分からず静止していた僕も我に帰って周りを見ると皆が僕の方を見ていた。気まずくて悠達の近くの空いている席に座った。
(上書きって何を...?てか今って人の頬つまむの流行ってるのかな?)
モテる二人の考えてる事が分からない。でも今は勉強に集中しなきゃ!

「今日はありがとう」
「すげぇ助かった!」
「なら良かった」
勉強会が終わると皆が次々に悠にお礼を言って帰る姿を見つめていた。
「また見てる」
「ナナミ。なんか悠の事は昔から無意識に目で追っちゃうんだよね。あ、今日はありがとね!」
「全然。私も楽しかったし!凪ってさ悠の事好きなの?」
「うん。友達としてすごく好きだし大事」
「友達としてか...」
「どうかした?」
「ううん。また分かんないとこあったら悠じゃなくて私にも頼ってよね!」
「うん!またお願いするかも」
「いつでも!じゃあね」
「じゃあね!」
 悠が周りから頼られて、仲良くなるのは嬉しい。だってずっと望んでた事だから。そう思うのに...。

「悠お疲れ様!疲れてない?あんなに人に囲まれるの慣れてないでしょ」
「うん。正直めっちゃ疲れた...。今なら即寝られる」
「ふふっ」
「なんで笑ってんの?」
「いやぁ、悠がそんなこと言うの珍しいなぁと思って」
「そう?」
「うん。それに今日は嬉しかったんだよ。悠が皆と楽しそうに話してる姿を見れて。でもね、少し寂しかったかな。悠が皆と仲良くなって欲しいって気持ちは嘘じゃないけどもし悠に僕より仲が良い友達が出来ちゃったらって思ったらモヤモヤしちゃって。なんか悠が遠い存在になっちゃいそうで」
 思ってた事を素直に伝えてみると悠は無言のまま俯いていた。困らせちゃったかな?でも男女問わず悠に触れたり距離感が近いとなんか嫌だった。今まで何度も悠が告白されてる所なんて見てきた。その時はなんとも思ってなかったのに。
「心配いらないよ」
「へ?」
 唐突で拍子抜けな声が出てしまった
「凪が俺に誰かと仲良くして欲しいと思ってる事は知ってる。でもどれだけ仲のいい奴が出来たとしても俺にとって凪が一番って事だけは絶対に変わらないから。俺にとっての一番はずっと凪だけ。遠い存在になんてなんねぇよ」
そう言うと悠は頭を撫でてきた。
「....ありがとう」
 僕はその言葉に安心と一瞬またドキッとしてしまった。体の熱が暑くて多分今顔赤いかも...。悠はいつも僕の不安を拭ってくれる。そんな悠の優しさにたくさん甘えて救われて。
 悠の事でドキドキしたり、モヤモヤしたり。今はまだよく分からないこの感情もいつか分かる時が来るのかな?その時も今みたいに一番の友達でいられるといいなぁ。