今日は悠と付き合って初めて迎えるバレンタインの日。いつもならただの平日だと思ってた今日も恋人がいるというだけで特別に思えた。
(悠喜んでくれるかな?)
そうドキドキしながら学校へ向かった。
「おはよう啓太。悠は?」
「あそこ」
指さされた窓の方を見ると外に女の子と一緒にいる悠の姿があった。
「桐谷、学校来てからずっと誰かしらに呼び出されてるよ。まぁ今日は当たり前か」
悠はバレンタインの日は毎回休み時間の度に女の子から呼び出されていた。
「でも今日はいつもよりも凄くない?普通あんな行列できる?」
「普通は出来ねぇ。なんか羨ましいもん!まぁでも今年は俺らも卒業だしラストチャンスだと思って皆張り切ってんだろうよ」
「あ〜なるほど、そういう事か」
「それにしてもほんとあいつすげぇよな」
「うん。見慣れた光景だけど今はやっぱりちょっと嫌かな」
「あらら〜?凪くんもしかして嫉妬ですか?」
「....。」
ニヤニヤして僕をからかってくる啓太に図星をつかれ黙ってしまった。ほんとこんな事で嫉妬するなんて小さすぎだよね。
「ところで凪は悠になんかあげんの?」
「うん。人生初クッキーを手作りしてみたからそれをあげようと思って。そういえば、はいこれ!」
「え!俺にもくれんの?」
「うん。啓太にはいろいろ世話になっちゃったから、そのお礼」
「別にいいけどさ。まぁでもありがとう!」
「凪〜!」
「ナナミ?」
「はいこれ!」
「チョコ?」
「そう。まぁ振られちゃったから友チョコ感覚で貰ってよ」
「へぇ〜。今井振られたんだ...。え!誰に!」
「凪だけど」
「え!今井って凪が好きだったの?凪振ったの...?凪お前一番のモテ男女二人から好かれてんの?」
今にも頭がパンクしそうになっている啓太。確かに急にこんな事言われてもびっくりするよね。僕もそうだったし。啓太に一から説明をしていると...
「まぁでも、まさかあいつに負けるなんて思ってなかったなぁ」
「今井からしたらまさかのライバルだよな〜」
「私が告白もう少し早かったら良かったのかな?」
「う〜ん。確かに即答はなかったと思うけど、それでも僕は悠を好きになってたと思うよ。はいこれ、ナナミにもあげる」
「えー!最初から勝ち目なし?まぁありがとう」
話ついでにナナミにも友チョコをあげた。窓の外を見ると今度はたくさんの子たちに囲まれた悠の姿が見えた。
(今更だけど悠ってお菓子とか貰って嬉しいのかな?)
悠は今まで何があっても女の子達からのチョコを受け取っていなかった。だからもしかしたら迷惑になるんじゃないかな?そんな事を考えながらボーッと外を眺めていると急に啓太が大声をあげた。
「あー!」
「び、びっくりした。何?」
「俺今日先生から呼び出されてたのすっかり忘れてた!悪いまた後でな!」
「う、うん。気をつけて」
「そんな大声あげる事じゃないって」
そんなナナミのツッコミに苦笑してしまった。
昼休みになったらご飯一緒に食べてその時誘おう。そう思っていたのに...
「あれ?」
教室には既に悠の姿はなかった。今日まだ一回も話せてないな...。
「なに落ち込んでんだよ」
机に突っ伏していると啓太に頭を小突かれた。
「今日全然悠に話しかけるタイミングがなくてさ」
「まぁ今日はしゃーないんじゃね。そういやお前呼ばれてんぞ」
そう言って啓太は教室のドアの方を指さしていた。そこには他クラスの女子が立っていた。僕になんの用だろう?
「ごめんなさい、急に」
「大丈夫だけど、どうしたの?」
「これ、受け取って貰えませんか?」
「....え?僕に?」
てっきり悠に渡してほしいって頼まれるのかと思ってたからびっくりしてしまった。
「あの...砂山くんって好きな人とかいるの?」
「え、あ、うんいるよ。好きっていうか付き合ってる人」
「そうなんだ...」
そのまま黙ってしまった。こういう時ってどうしたらいいんだろう?
「私、実はずっと砂山くんの事が好きで。彼女いるのにこんな事言うのはあれなんですけど良かったら...!」
そう言ってチョコを差し出された。でも...
「ありがとう、僕の事好きになってくれて。でもごめんね。僕、今付き合ってる人の事しか考えられないくらい好きなんだ。だから気持ちには答えてあげられない」
「そっか。ごめんね急に。聞いてくれてありがとう」
彼女も怖いながら気持ち伝えてくれたんだ。初めて悠に告白した日の事を思い出して重ね合わせていた。好きになってもらえるのは嬉しい。でも僕にはもう心に決めた人がいるから。
話を終え教室を出ると悠が廊下に立っていた。
「悠、何してるの?」
「いや、凪が女子とどっか行ったって聞いて探してたらちょうど居合わせて」
「まさか聞いてた...?」
「ごめん、聞いてた。凪の告白嬉しかったよ」
悠に改めて言われると恥ずかしすぎて教室の扉を閉めることにした。
「ってなんで閉めんだよ!」
「今悠に顔見られたくなくて...」
今まで散々見られてるけど顔が真っ赤になってる所を悠に見られるのはやっぱり恥ずかしい!しかし僕の願いは虚しく扉は強引に開けられた。
「俺が凪の顔見たいからダメ。隠れないで」
そう言って悠は僕の顔をまじまじと見てきた。赤くなるばかりな顔を手で隠すのに必死な僕と僕の手をどかそうとする悠の傍から見たら何をしてるのか分からない小競り合いが始まった。
「ふっ。そんな必死で隠すなよ」
「だって〜!」
「そんな所も可愛いよ」
「は、悠!それはずるい!」
耳元で囁いてくる悠を腕を精一杯伸ばして離した。
そういえば今なら誘えるかも...!
「ねぇ、は...」
「桐谷くん!」
声をかけると同時に聞こえた悠を呼ぶ声に僕の声はかき消された。
「少し良いかな?」
「分かった。じゃあ凪また後で」
「あ、うん」
また言えなかった。その後も話す機会はなく残すは放課後だけとなった。
そしてようやく放課後。悠は一日中動き回って疲れたのか机に突っ伏していた。
「悠、大丈夫?」
「うん、少し体力と精神すり減らしただけ...。」
「朝から大変そうだったね。てか今日も何も貰ってないの?」
「うん」
「いつも貰ってないよね。やっぱりそういうのは迷惑だったり...?」
悠の気持ちを探るべくさりげなく聞いてみた。
「いや、そういうんじゃねぇけど。俺甘いもんとかそんな好きじゃなくて食い切れるか分かんねぇんだよ。だからせっかく作ったり買ってきてくれたのに残すのも申し訳ねぇじゃん?それに凪に勘違いされたくねぇし」
「え?なんで?」
「俺にとっての本命はずっと凪だけだったし、凪に勘違いされんのも他のやつからの本命を受けとんのも嫌なの」
その何気ない悠の一言に嬉しさが込み上げてきた。
「その事なんだけど...。この後少し時間ある?」
「うん、あるけど」
「じゃあウチ来てくれない?渡したい物があるんだ」
「いいけど」
そう言って二人で家へ向かって帰った。
「お邪魔します」
「うん。リビングで座って待ってて!」
「うん」
誰からもチョコを受け取らなかったのは僕のため?なら渡しても迷惑にならないのかな?放課後の話を思い出しながら作ったクッキーを悠の元へと運んだ。
「お待たせ悠。これあげる!」
「これ、クッキー?」
「そう。初めて自分で作ったんだ。前にも言ったでしょ、『僕も料理作れるようになって悠に食べて欲しい』って。悠に喜んでもらいたくて頑張って作ったんだ。だから、その...。良かったら受け取って欲しい」
「....。」
何故か無言の悠。やっぱり迷惑だった...?
「凪」
「うん?」
「クッキーって一生保存しておくにはどうしたら良い?」
「え?食べないの!」
「いや。せっかく凪が俺のために作ってくれたのに、食べんのもったいねぇから」
「ふふっ。そういう事?せっかくなら食べてよ!」
予想外の言葉に驚きはしたものの理由につい笑ってしまった。きっと喜んでもらえてるんだよね?
「じゃあ、いただきます」
「どう?」
「うん。世界一美味い」
「だから大袈裟なんだって」
良かった、悠が笑ってくれた。それだけですごく心が満たされた。
「俺実は今日少し嫉妬してたんだよな」
「え?なんで?」
「学校であいつが凪からクッキー貰ってて俺には無いのかなって...。」
もしかして啓太の事かな?多分先生からの呼び出しを思い出して教室を飛び出して行った時に話したんだろうな。僕ばっかり嫉妬してると思ってたから悠の嫉妬は嬉しかったりする。
「ごめん。啓太達には先に友チョコあげたんだ。悠には家で渡そうと思ってて。友達にあげて恋人に渡さないわけないでしょ?悠のは、その...本命だよ」
自分で言ってて恥ずかしくなる。恥ずかしさのあまり穴があったら入りたい。そんな事を考えていると悠の手が僕の頬を撫でた。
「ごめん、凪。それ反則」
「え?」
「まじで襲いたくなるから勘弁してくれ」
「お、おそ...?」
「いつも俺のためにって頑張ってくれる度に嬉しくて、でも手は出さないように我慢してんだからな」
そう言う悠の顔は見た事ないくらい赤くなってて少し拗ねているように見えた。
「なんかごめんね悠。今、悠の事可愛いって思っちゃった。いつもかっこいいのに」
「.....お前それ無自覚でやってんの?」
「何が?」
「あ〜もう!はいこれ!」
「これって?」
そう言って渡されたのは僕が前に一度だけ悠に食べてみたいと話していたチョコだった。いつも今の時期しか売られていない期間限定の物でなかなか買えないのだ。
「なんで!すご!もしかして覚えててくれたの?」
「中学の頃食べたいって言ってたから。あの時は俺もバイトしてなくて買ってやれなかったけど、何年か越しにお前の願い叶えてあげられて良かった。凪の言ってた事は大体全部覚えてるよ」
「でも高かったでしょ?それに買うのも大変だったでしょ?」
「別に。凪の喜んでる顔見れるならなんだって安いもんだよ。凪が俺を笑顔にしてくれるなら俺はそれ以上に凪を笑顔にするから」
優しく微笑む悠はまた僕の頬を撫でた。本当に僕の恋人はどこまでもかっこよくてずるい人だ。
「ありがとう悠」
「こちらこそ」
「一緒に食べよ!」
「いいよ凪が全部食べて」
「そんな!なかなか食べられないんだから一緒に食べよう!僕のは残してもいいから」
「それだけは絶対やだ」
「ふふっ」
こんな他愛もない話をしてるだけなのにこんなに幸せで僕いつか罰でも当たるのかな?それでもいい。それでもいいからこれからもずっと悠の恋人でいられますように。
そんな事を思いながら悠を見つめていると...
「何?」
「いや、やっぱり悠の事好きだなぁって」
「何それ?凪、これ以上俺を惚れさせないで」
「...これ以上惚れさせたら悠は僕しか見えなくなったり..?」
「え?もうとっくにそうなってるんだけど...。でもそうだな〜。これ以上好きにさせられたら何するか分かんないかも」
そう言って顔を近づけてニヤニヤしてくる悠の破壊力は凄まじい。
『これ以上俺を惚れさせないで』
それはこっちのセリフだよ!
特別な日になると思っていたバレンタインは僕が思っていたよりもずっと特別な日になった。悠にとってもそんな日になっていれば良いなぁ。
(悠喜んでくれるかな?)
そうドキドキしながら学校へ向かった。
「おはよう啓太。悠は?」
「あそこ」
指さされた窓の方を見ると外に女の子と一緒にいる悠の姿があった。
「桐谷、学校来てからずっと誰かしらに呼び出されてるよ。まぁ今日は当たり前か」
悠はバレンタインの日は毎回休み時間の度に女の子から呼び出されていた。
「でも今日はいつもよりも凄くない?普通あんな行列できる?」
「普通は出来ねぇ。なんか羨ましいもん!まぁでも今年は俺らも卒業だしラストチャンスだと思って皆張り切ってんだろうよ」
「あ〜なるほど、そういう事か」
「それにしてもほんとあいつすげぇよな」
「うん。見慣れた光景だけど今はやっぱりちょっと嫌かな」
「あらら〜?凪くんもしかして嫉妬ですか?」
「....。」
ニヤニヤして僕をからかってくる啓太に図星をつかれ黙ってしまった。ほんとこんな事で嫉妬するなんて小さすぎだよね。
「ところで凪は悠になんかあげんの?」
「うん。人生初クッキーを手作りしてみたからそれをあげようと思って。そういえば、はいこれ!」
「え!俺にもくれんの?」
「うん。啓太にはいろいろ世話になっちゃったから、そのお礼」
「別にいいけどさ。まぁでもありがとう!」
「凪〜!」
「ナナミ?」
「はいこれ!」
「チョコ?」
「そう。まぁ振られちゃったから友チョコ感覚で貰ってよ」
「へぇ〜。今井振られたんだ...。え!誰に!」
「凪だけど」
「え!今井って凪が好きだったの?凪振ったの...?凪お前一番のモテ男女二人から好かれてんの?」
今にも頭がパンクしそうになっている啓太。確かに急にこんな事言われてもびっくりするよね。僕もそうだったし。啓太に一から説明をしていると...
「まぁでも、まさかあいつに負けるなんて思ってなかったなぁ」
「今井からしたらまさかのライバルだよな〜」
「私が告白もう少し早かったら良かったのかな?」
「う〜ん。確かに即答はなかったと思うけど、それでも僕は悠を好きになってたと思うよ。はいこれ、ナナミにもあげる」
「えー!最初から勝ち目なし?まぁありがとう」
話ついでにナナミにも友チョコをあげた。窓の外を見ると今度はたくさんの子たちに囲まれた悠の姿が見えた。
(今更だけど悠ってお菓子とか貰って嬉しいのかな?)
悠は今まで何があっても女の子達からのチョコを受け取っていなかった。だからもしかしたら迷惑になるんじゃないかな?そんな事を考えながらボーッと外を眺めていると急に啓太が大声をあげた。
「あー!」
「び、びっくりした。何?」
「俺今日先生から呼び出されてたのすっかり忘れてた!悪いまた後でな!」
「う、うん。気をつけて」
「そんな大声あげる事じゃないって」
そんなナナミのツッコミに苦笑してしまった。
昼休みになったらご飯一緒に食べてその時誘おう。そう思っていたのに...
「あれ?」
教室には既に悠の姿はなかった。今日まだ一回も話せてないな...。
「なに落ち込んでんだよ」
机に突っ伏していると啓太に頭を小突かれた。
「今日全然悠に話しかけるタイミングがなくてさ」
「まぁ今日はしゃーないんじゃね。そういやお前呼ばれてんぞ」
そう言って啓太は教室のドアの方を指さしていた。そこには他クラスの女子が立っていた。僕になんの用だろう?
「ごめんなさい、急に」
「大丈夫だけど、どうしたの?」
「これ、受け取って貰えませんか?」
「....え?僕に?」
てっきり悠に渡してほしいって頼まれるのかと思ってたからびっくりしてしまった。
「あの...砂山くんって好きな人とかいるの?」
「え、あ、うんいるよ。好きっていうか付き合ってる人」
「そうなんだ...」
そのまま黙ってしまった。こういう時ってどうしたらいいんだろう?
「私、実はずっと砂山くんの事が好きで。彼女いるのにこんな事言うのはあれなんですけど良かったら...!」
そう言ってチョコを差し出された。でも...
「ありがとう、僕の事好きになってくれて。でもごめんね。僕、今付き合ってる人の事しか考えられないくらい好きなんだ。だから気持ちには答えてあげられない」
「そっか。ごめんね急に。聞いてくれてありがとう」
彼女も怖いながら気持ち伝えてくれたんだ。初めて悠に告白した日の事を思い出して重ね合わせていた。好きになってもらえるのは嬉しい。でも僕にはもう心に決めた人がいるから。
話を終え教室を出ると悠が廊下に立っていた。
「悠、何してるの?」
「いや、凪が女子とどっか行ったって聞いて探してたらちょうど居合わせて」
「まさか聞いてた...?」
「ごめん、聞いてた。凪の告白嬉しかったよ」
悠に改めて言われると恥ずかしすぎて教室の扉を閉めることにした。
「ってなんで閉めんだよ!」
「今悠に顔見られたくなくて...」
今まで散々見られてるけど顔が真っ赤になってる所を悠に見られるのはやっぱり恥ずかしい!しかし僕の願いは虚しく扉は強引に開けられた。
「俺が凪の顔見たいからダメ。隠れないで」
そう言って悠は僕の顔をまじまじと見てきた。赤くなるばかりな顔を手で隠すのに必死な僕と僕の手をどかそうとする悠の傍から見たら何をしてるのか分からない小競り合いが始まった。
「ふっ。そんな必死で隠すなよ」
「だって〜!」
「そんな所も可愛いよ」
「は、悠!それはずるい!」
耳元で囁いてくる悠を腕を精一杯伸ばして離した。
そういえば今なら誘えるかも...!
「ねぇ、は...」
「桐谷くん!」
声をかけると同時に聞こえた悠を呼ぶ声に僕の声はかき消された。
「少し良いかな?」
「分かった。じゃあ凪また後で」
「あ、うん」
また言えなかった。その後も話す機会はなく残すは放課後だけとなった。
そしてようやく放課後。悠は一日中動き回って疲れたのか机に突っ伏していた。
「悠、大丈夫?」
「うん、少し体力と精神すり減らしただけ...。」
「朝から大変そうだったね。てか今日も何も貰ってないの?」
「うん」
「いつも貰ってないよね。やっぱりそういうのは迷惑だったり...?」
悠の気持ちを探るべくさりげなく聞いてみた。
「いや、そういうんじゃねぇけど。俺甘いもんとかそんな好きじゃなくて食い切れるか分かんねぇんだよ。だからせっかく作ったり買ってきてくれたのに残すのも申し訳ねぇじゃん?それに凪に勘違いされたくねぇし」
「え?なんで?」
「俺にとっての本命はずっと凪だけだったし、凪に勘違いされんのも他のやつからの本命を受けとんのも嫌なの」
その何気ない悠の一言に嬉しさが込み上げてきた。
「その事なんだけど...。この後少し時間ある?」
「うん、あるけど」
「じゃあウチ来てくれない?渡したい物があるんだ」
「いいけど」
そう言って二人で家へ向かって帰った。
「お邪魔します」
「うん。リビングで座って待ってて!」
「うん」
誰からもチョコを受け取らなかったのは僕のため?なら渡しても迷惑にならないのかな?放課後の話を思い出しながら作ったクッキーを悠の元へと運んだ。
「お待たせ悠。これあげる!」
「これ、クッキー?」
「そう。初めて自分で作ったんだ。前にも言ったでしょ、『僕も料理作れるようになって悠に食べて欲しい』って。悠に喜んでもらいたくて頑張って作ったんだ。だから、その...。良かったら受け取って欲しい」
「....。」
何故か無言の悠。やっぱり迷惑だった...?
「凪」
「うん?」
「クッキーって一生保存しておくにはどうしたら良い?」
「え?食べないの!」
「いや。せっかく凪が俺のために作ってくれたのに、食べんのもったいねぇから」
「ふふっ。そういう事?せっかくなら食べてよ!」
予想外の言葉に驚きはしたものの理由につい笑ってしまった。きっと喜んでもらえてるんだよね?
「じゃあ、いただきます」
「どう?」
「うん。世界一美味い」
「だから大袈裟なんだって」
良かった、悠が笑ってくれた。それだけですごく心が満たされた。
「俺実は今日少し嫉妬してたんだよな」
「え?なんで?」
「学校であいつが凪からクッキー貰ってて俺には無いのかなって...。」
もしかして啓太の事かな?多分先生からの呼び出しを思い出して教室を飛び出して行った時に話したんだろうな。僕ばっかり嫉妬してると思ってたから悠の嫉妬は嬉しかったりする。
「ごめん。啓太達には先に友チョコあげたんだ。悠には家で渡そうと思ってて。友達にあげて恋人に渡さないわけないでしょ?悠のは、その...本命だよ」
自分で言ってて恥ずかしくなる。恥ずかしさのあまり穴があったら入りたい。そんな事を考えていると悠の手が僕の頬を撫でた。
「ごめん、凪。それ反則」
「え?」
「まじで襲いたくなるから勘弁してくれ」
「お、おそ...?」
「いつも俺のためにって頑張ってくれる度に嬉しくて、でも手は出さないように我慢してんだからな」
そう言う悠の顔は見た事ないくらい赤くなってて少し拗ねているように見えた。
「なんかごめんね悠。今、悠の事可愛いって思っちゃった。いつもかっこいいのに」
「.....お前それ無自覚でやってんの?」
「何が?」
「あ〜もう!はいこれ!」
「これって?」
そう言って渡されたのは僕が前に一度だけ悠に食べてみたいと話していたチョコだった。いつも今の時期しか売られていない期間限定の物でなかなか買えないのだ。
「なんで!すご!もしかして覚えててくれたの?」
「中学の頃食べたいって言ってたから。あの時は俺もバイトしてなくて買ってやれなかったけど、何年か越しにお前の願い叶えてあげられて良かった。凪の言ってた事は大体全部覚えてるよ」
「でも高かったでしょ?それに買うのも大変だったでしょ?」
「別に。凪の喜んでる顔見れるならなんだって安いもんだよ。凪が俺を笑顔にしてくれるなら俺はそれ以上に凪を笑顔にするから」
優しく微笑む悠はまた僕の頬を撫でた。本当に僕の恋人はどこまでもかっこよくてずるい人だ。
「ありがとう悠」
「こちらこそ」
「一緒に食べよ!」
「いいよ凪が全部食べて」
「そんな!なかなか食べられないんだから一緒に食べよう!僕のは残してもいいから」
「それだけは絶対やだ」
「ふふっ」
こんな他愛もない話をしてるだけなのにこんなに幸せで僕いつか罰でも当たるのかな?それでもいい。それでもいいからこれからもずっと悠の恋人でいられますように。
そんな事を思いながら悠を見つめていると...
「何?」
「いや、やっぱり悠の事好きだなぁって」
「何それ?凪、これ以上俺を惚れさせないで」
「...これ以上惚れさせたら悠は僕しか見えなくなったり..?」
「え?もうとっくにそうなってるんだけど...。でもそうだな〜。これ以上好きにさせられたら何するか分かんないかも」
そう言って顔を近づけてニヤニヤしてくる悠の破壊力は凄まじい。
『これ以上俺を惚れさせないで』
それはこっちのセリフだよ!
特別な日になると思っていたバレンタインは僕が思っていたよりもずっと特別な日になった。悠にとってもそんな日になっていれば良いなぁ。
