数分の間、互いに「うーん」と悩みながら近くに焼き鳥屋が無いか探した。

いつもの弁当屋の灯りがないと、見慣れた道路なのに真っ暗で、物寂しく感じる。

「佐野さんっ、いい店あったかもです」

「あ、僕も美味しそうかなって思うお店見つけました」

「どこっすか?」

「このお店なんですけど。ここから歩いても10分くらいで着きそうだし、美味しそうかな……って……」

スマホの画面を見せよう顔を上げた瞬間、翔太くんは僕の頭越しに僕のスマホをひょいっと覗き込んでいた。

「……っ、」

びっくりした。

顔を上げると、翔太くんの顔がほとんどゼロ距離にあった。

顔が触れそうで、触れない、ぎりぎりの距離。

驚きの声を上げる代わりに、僕の胸が大きくドキリと音を立てた。

離れることなくスマホを覗き込む翔太くんのあまりの近さに、ドキドキと心臓の音がうるさく加速する。

「あ、ここ、ここ!俺も丁度この店を言おうかと思ってました」

翔太くんが僕のスマホを真後ろから覗き込んだまま、スマホの画面を指差した。

「へ?あぁ……」

情けない声が漏れる。

「ほらほら、俺と一緒の所!」

僕の耳元で嬉しそうに喋る翔太くんは、持っていた自分のスマホの画面を僕に見せた。

「ほんとだ……」

「へへっ、俺たち気が合うっすね」
覗き込むようにして僕の目を見た翔太くんが、ニコッと八重歯を見せて笑った。

僕の体温や心臓の音が伝わってもおかしくないくらいの距離に翔太くんは立っているはずなのに、余裕そうな表情に、男の僕でさえドキッとしてしまう。

僕が過敏なだけだろうか。

それとも、翔太くんみたいな体育会系の人はみんな距離が近いのだろうか、それか翔太くんは元々パーソナルスペースという概念を持ち合わせていないという可能性もある。

慣れない距離で見る翔太くんのあどけない笑顔は、ただでさえ距離感に戸惑っている僕の心臓の音をさらに加速させた。