「レジーナ公爵令嬢、君との婚約はなかったことにしてほしい」
その言葉を聞いた瞬間、ぴたりと時間が止まった。
よりによって、こんな時に何を言い出すのだろう。
耳を疑いながら顔を上げると、アトミオス王子の冷たい瞳と目が合った。
「……それは、どうして」
「ママ……王妃が反対しているからだ。魔力ゼロのフルーダーだからって!」
この人は一体何を言ってるんだろう? とレジーナは目が点になった。
アトミオス王子は、オラオラしたオレ様系だったのに、突然のママ呼び。
「ママが言いだしたんだ、魔力ゼロとは結婚するなってな!」
「ごめんなさい。アトミオス王子、あなたが何を言ってるのかよくわからないの」
「僕は王立魔法大学で実技首席なんだぞ! 魔力なしのフルーダー!」
どうも今日のアトミオス王子は、様子がおかしい。
大声で蔑称をまくし立てているせいで、周囲がざわつき始めている。
(舞踏会で婚約破棄⁉︎ 私に魔力がないのは前から知ってるでしょ?)
アトミオス王子は、よりによってこんな時に魔力ゼロへ不満を述べてきたのだ。
「こういうのは舞踏会が終わってからにしてくれない? みんなこっち見てるわ」
「うるさい! 僕は本当はママみたいな美人としか結婚したくなかったんだ!」
確かにレジーナは、地味で目立たない容姿をしている。
だが、それでも自分の実母と比べるのは人としてありえなかった。
「じゃあ、大好きなママと結婚すれば……?」
「魔力ゼロで女のくせに王立魔法大学で首席で生意気なんだ!」
「お、男尊女卑? やる気?」
レジーナがジェンダーの観点から攻め立てる反論をたっぷり考えていると――
「お前はママみたいに僕に甘くしない! どうしてだ! 女のくせに」
――これはもう、完全に対話不能。
レジーナは、あまりの気持ち悪さに、ぞわっと鳥肌を立てた。
「来い! お前にママの服を着せてやる! そうすれば変わるはずだ!」
「ちょっと! 何するの! 離してってば!」
アトミオス王子は力づくで、会場の外へ引きずり出そうとしてくる。
廊下に敷かれた赤いカーペットに、ズルズルとヒールの線を残しながら。
頭のおかしい王子に連行されていく姿は、我ながら無様だ。
「え、なんで、このバカ王子をみんな止めないの……?」
出口の光が見えた瞬間、背後から歓声が沸き起こった。
パーティーが今日一番の盛り上がりを見せる中、レジーナは人生最悪の気分に陥っていた。
この落差は一体なんなのか。
「か弱いレディになんてことするの! 後で後悔するわよ!」
なお、その言葉は決して負け惜しみなどではないと後に人々は思い知ることになる。
ここはスカイリア島。貴族たちが暮らす常夏の楽園。
その言葉を聞いた瞬間、ぴたりと時間が止まった。
よりによって、こんな時に何を言い出すのだろう。
耳を疑いながら顔を上げると、アトミオス王子の冷たい瞳と目が合った。
「……それは、どうして」
「ママ……王妃が反対しているからだ。魔力ゼロのフルーダーだからって!」
この人は一体何を言ってるんだろう? とレジーナは目が点になった。
アトミオス王子は、オラオラしたオレ様系だったのに、突然のママ呼び。
「ママが言いだしたんだ、魔力ゼロとは結婚するなってな!」
「ごめんなさい。アトミオス王子、あなたが何を言ってるのかよくわからないの」
「僕は王立魔法大学で実技首席なんだぞ! 魔力なしのフルーダー!」
どうも今日のアトミオス王子は、様子がおかしい。
大声で蔑称をまくし立てているせいで、周囲がざわつき始めている。
(舞踏会で婚約破棄⁉︎ 私に魔力がないのは前から知ってるでしょ?)
アトミオス王子は、よりによってこんな時に魔力ゼロへ不満を述べてきたのだ。
「こういうのは舞踏会が終わってからにしてくれない? みんなこっち見てるわ」
「うるさい! 僕は本当はママみたいな美人としか結婚したくなかったんだ!」
確かにレジーナは、地味で目立たない容姿をしている。
だが、それでも自分の実母と比べるのは人としてありえなかった。
「じゃあ、大好きなママと結婚すれば……?」
「魔力ゼロで女のくせに王立魔法大学で首席で生意気なんだ!」
「お、男尊女卑? やる気?」
レジーナがジェンダーの観点から攻め立てる反論をたっぷり考えていると――
「お前はママみたいに僕に甘くしない! どうしてだ! 女のくせに」
――これはもう、完全に対話不能。
レジーナは、あまりの気持ち悪さに、ぞわっと鳥肌を立てた。
「来い! お前にママの服を着せてやる! そうすれば変わるはずだ!」
「ちょっと! 何するの! 離してってば!」
アトミオス王子は力づくで、会場の外へ引きずり出そうとしてくる。
廊下に敷かれた赤いカーペットに、ズルズルとヒールの線を残しながら。
頭のおかしい王子に連行されていく姿は、我ながら無様だ。
「え、なんで、このバカ王子をみんな止めないの……?」
出口の光が見えた瞬間、背後から歓声が沸き起こった。
パーティーが今日一番の盛り上がりを見せる中、レジーナは人生最悪の気分に陥っていた。
この落差は一体なんなのか。
「か弱いレディになんてことするの! 後で後悔するわよ!」
なお、その言葉は決して負け惜しみなどではないと後に人々は思い知ることになる。
ここはスカイリア島。貴族たちが暮らす常夏の楽園。
