「やってまいりました!」

 リリィの声が、興奮で震えている。

「ついに! ついにこの瞬間が! 『白銀の牙(シルバーファング)』の皆さんです!」

 巨大な黒鉄の扉の前。五人の冒険者が、堂々と立っていた。銀の鎧が、松明の光を受けて眩しく輝いている。誰一人、息を乱していない。

「いやぁ、驚異的です!」

 リリィが小さな体を震わせながら叫ぶ。

「まだダンジョン突入から一時間! たったの一時間ですよ! さすがAランク……いや、もはやSランクパーティですね! お見事です!」

「ありがとうございます」

 リーダーのシルヴァンが、優雅に一礼した。

 ブロンドの髪が、まるでシャンプーのCMのようにサラサラと揺れる。整った顔立ち、鍛え上げられた肉体、そして何より――圧倒的な自信に満ちた笑み。

 彼は髪を手でかき上げながら、魔眼石(ゴーレムアイ)に向かってウインクした。

「でも、これからがいよいよ本番ですからね」

〔きゃーーシルヴァン様ーー!〕
〔イケメンすぎる〕
〔髪サラサラwww〕
〔ナルシストかよw〕

 コメントが爆発的に流れる。

「いよいよマオちゃん戦ですが、自信のほどはいかがですか?」

 リリィがマイクを向ける。

「いやぁ」

 シルヴァンは肩をすくめた。その仕草すら、計算されたように優雅だ。

「勝ちますよ。当然でしょう?」

 彼はカメラに向かって剣をすっと突き出すと不敵に笑った。

「百万ゴールドを抱えて凱旋して、『白銀の牙(シルバーファング)ここにあり』って、大陸中にアピールするんです」

「でも、マオちゃんは相当強いという噂ですが……大丈夫ですか?」

 リリィが心配そうに聞く。

「ふふっ」

 シルヴァンの笑みが、さらに深まった。

「悪いけど、女の子だからって手加減はしない……。俺も胸ポロリさせちゃって、泣かせちゃったらゴメンね?」



〔うわ、最低www〕
〔胸ポロリ狙いかよ〕
〔でも見たい(本音)〕
〔マオちゃん逃げてーー!〕
〔変態剣士www〕



「お、おぉ……」

 リリィが引き気味に反応する。

「凄い自信ですね! では、シルヴァンさんが代表して戦われるってことですね?」

「まぁ」

 シルヴァンは仲間たちを振り返った。

「ここはリーダーが、ビシッと決めるしかないでしょ?」

「リーダー、頼んます!」
「百万ゴールド! 絶対に取ってきてくださいよ!」
「あんな小娘に負けんなよ!」

「みんな……」

 シルヴァンは感動したように目を潤ませる。だが、それも一瞬。すぐに自信満々の笑みに戻った。

「任せておけ! 五分で片付けてくるよ」

「はい!」

 リリィが大きく頷いた。

「それでは、シルヴァンさん! どうぞ、入場されてください!」

 彼女が手を挙げると――。

 ゴゴゴゴゴゴ……。

 地響きと共に千年の重みを持つ黒鉄の扉が、ゆっくりと、しかし確実に開いていく。隙間から、眩い光が漏れ出してくる。

 そして――。

「うおおおお!」

 観客から歓声が上がった。

 完全に開かれた扉の向こうには煌びやかな光景が広がっていた。

 まず目に飛び込んでくるのは、鮮やかにライトアップされた空間。天井から降り注ぐ無数の光の筋が、まるで神の祝福のように注いでいる。

 そして、奥には黄金の山が神々しく輝いていた。

 百万ゴールド――――。

 金貨が山のように積み上げられ、宝石がちりばめられた宝箱が、誘うように蓋を開けている。その輝きは、まるで太陽のようだった。

 そして、中央にマオが立っていた。

 銀髪が光を受けてまるで月光のように輝き、フリルのドレスが微かに揺れている。

 その立ち姿は、まるで戦乙女のように美しい――が、赤い瞳は、退屈そうに半開きだった。

 

 

〔うひょーーーー!!〕
〔きたぁぁぁぁ!!〕
〔マオちゃーーーん!!〕
〔金貨やべぇぇぇ!〕
〔これが百万ゴールド!?〕
〔シルヴァン頑張れ!〕
〔いや、マオちゃん頑張れ!〕
〔歴史的瞬間キタコレ〕

 コメントが、もはや読めない速さで流れていく。

「これは……」

 シルヴァンが、一瞬息を呑んだ。

 マオから放たれる、異様な威圧感。やる気なさそうな態度に反して底知れない気迫を感じる。それは、ただの美少女剣士のものではない。もっと深い、もっと恐ろしい何かだった。

 だが――。

「ふん」

 彼はすぐに不敵な笑みを取り戻した。

「面白い。これは、やりがいがありそうだ」

 一歩、また一歩。

 シルヴァンがボス部屋に足を踏み入れる。

 その瞬間――。

 ガシャン!

 背後で、扉が音を立てて閉まった。

 もう、逃げ道はない。

 百万ゴールドを賭けた、運命の戦いが始まる。