冬休みが始まる少し前から、星凪が逢坂家へ泊まりに来ることになった。星凪は帰国してから東京のインターナショナルスクールに通っていて、公立高校とは休みが少し違うようだ。
カリフォルニアで会って以来だから、すごく楽しみ。「クリスマスケーキ、一緒に食べよ!」と桔都にメッセージが来たのを見せてもらって、その遠慮のなさに笑ってしまった。きっと賑やかになる。
しかし連絡を取っているうちに、二十五日も一緒にイベントへ行くことになってしまった。おれは(デートが……)と内心がっかりしたが、桔都もなんだか項垂れていた。
「こうなったら、全力で協力してもらう」
「?」
学校ではイベントの話題で盛り上がっている人が増え、恋人のいる人たちはもはやイルミネーションを見に行くことが一種のステータスになっているという感じだ。
秀治は近頃ウンザリした顔をしている。でも結局相手のことを好きだから色々と考えて、好きだから気の進まないことでもできるのだろう。
やっぱり、秀治は彼女ができてから少し大人になったように感じる。おれの知らない世界を進んでいるからかもしれない。
「ま、がんばれよ!」
「むーかーつーくーなー!」
一つ驚いたことがあった。
クラスの有志で二十四日の終業式後にカラオケへ行かないかと、おれも誘ってもらったのだ。恋人のいない寂しい人たちで集まろう! という企画らしい。
文化祭でクラスの仲はかなり深まって、おれも別に孤立していたわけではない。一時は心なしか避けられていたけれど……桔都の取り巻きの一人である本田も、嫌がらせには加担していなかったと思う。
今はもうみんな普通に話してくれるし、けっこういいクラスだなぁと思うのだ。もちろんカラオケには行くつもり。
恋人ができる予定は……みんなの王子様に恋してしまった時点で、ないのだから。
(でも最初から駄目だとわかってるって、気楽だなー!)
「やっほー! 来たよ! 奏海さんおめでとう〜〜!!」
二十三日、駅へ迎えに行った丞さんの車から降りた星凪が、家に飛び込んできた。赤ちゃんのことも聞いたようだ。
「ようこそ星凪くん! ありがとう」
「久しぶり、星凪!」
母とおれにハグをしたあと「なにそのジャージ、毛玉ひどいよ?」と桔都に話しかけている星凪を見ながら、母とおれは改めて「やっぱり綺麗な子よねぇ」「ほんとに~」と頷き合った。
顔立ちの綺麗さとプロポーションの良さは、日本で見るとより際立つ気がする。顔が小さくて、手足もスラッと長い。
桔都とは違う種類で、別次元の美しさだから普通なら取っ付きにくそうなのに、太陽みたいな明るさで周囲を照らす。こういう人が、東京でモデルとかタレントにスカウトされるのだろうなと勝手に想像してしまった。
おれたちは明日学校なので申し訳なかったけれど、在宅勤務を取り入れはじめた丞さんと早めに帰ってくる母がいるし問題ないようだ。
そもそも星凪のお姉さんが用事で近くに来る予定があって、二十五日はそのまま家族が合流して一緒にホテルに泊まるらしい。ちゃんと他にも目的があったみたいで安心した。
「桔都、スイッチ持ってるんでしょ? 暇なときやりたいから貸して! 部屋勝手に入っていい?」
「だめ。ゲームは、出しておくから……それでいい?」
「オーケー!」
桔都が即却下してしまったから、聞いていてちょっとびっくりしてしまった。桔都は星凪の前では元々素をさらけ出しているし、部屋くらい入れてあげると思ったのだ。ちなみにおれはもうフリー入場の許可を得ている。
星凪は全く気にした様子がなくて、ホッとしたけど。まるで自分が優先されているみたいで、ほんの少しだけふわふわ浮かれた心地を味わった。
「星凪、ちょっとこっち来て。ゲーム客間に置いておいていい?」
「はーい!」
一階にある客間に向かった二人がやけに長い間出てこなかったので、おれの浮かれた気持ちは早速しょぼしょぼと沈んだ。やっぱり仲いいんだよなぁ。
しかもようやく出てきた星凪は「ふ、ふ、ふ」と笑いを隠しきれない表情で、やけに楽しそうだ。何を話していたのかなとチラチラ気にして見ていれば、突然抱きつかれた。
「わっ」
「身長は……ぼくより少しだけ低いよねぇ。体型はそんなに変わらないか」
いえいえ、手足の長さが全く違いますとも。どうして急におれと比べ始めたのかはわからないが、大雑把すぎる判定に内心異を唱える。
「星凪……なにしてんの?」
その時、低く冷たい声が聞こえおれの体はフッと解放された。両肩を引かれるまま背中を預けたのは、どうやら桔都の胸のようだった。星凪の目が切れ長に細くなって、ニヤニヤと桔都を煽る。
「わかってるでしょ~? 協力するためじゃん?」
「近づきすぎ」
「そんなことないよぉ。ね、ミズキ?」
「え? う、うん」
桔都が文句を言い、星凪がおれに話を振る。アメリカで桔都とボディタッチの話をしたことを思い出したけど、今のことは別に嫌ではなかったので頷いておいた。
その答えは望んだものではなかったらしい。おれはいわゆるバックハグの体勢で、背中から回された桔都の腕にキュッと締め付けられた。
「ほら~! 桔都の方がくっついてるじゃん」
「僕はいいの」
「不公平!」
星凪と桔都が言い合っている。でもおれはそれどころじゃないほど、緊張とトキメキで心臓が破裂しそうになっていた。顔も熱い。
(冗談だとしても……刺激が強いよ~!!)
二十四日は終業式を終えたあと、約束通りクラスの仲間たちとカラオケに行った。十人以上はいたと思う。
フードメニューから『奇跡の声が出せるかも! ワサビと黒糖の禁断ポテト』を注文しようとしたら全力で止められ、がっかりした。桔都なら頼ませてくれるのに……たぶん。
そのあとアメリカ土産のグミがすごかったという話題で盛り上がり、少し恥ずかしかった。いい意味で人の話題に上るのは慣れていない。
「あのグミ食べたら舌が真っ青に染まってさぁ、数日は色取れなくて親がビビってた」
「わぁ。ご、ごめん……」
「いや、動画にしたらバズったからむしろサンキュー!」
一人ずつ一曲歌い、おれも下手くそな歌を微笑ましい目で見守ってもらった。
あとはほとんどお喋りばかりだったけど楽しかったなあ。来年のクラス替えが嫌だな、と思うくらい今の仲間が好きだ。
暗くなる前に解散し、帰宅してからは家族でクリスマスパーティーだ。星凪を含めた五人でご馳走を食べ、ケーキを食べた。
桔都の誕生日のときもそうだったけど、ホールケーキを普通に買って食べられるってすごく幸せなことだ。母と二人ではカットケーキが普通だったし、丸いケーキを見るだけで特別感がある。
つわりに振り回されていた母も最近は調子が良さそうで、「これ以上食べれないってば~」と途中から丞さんに文句を言っていた。家出事件以降は一緒に過ごす時間が増えたからか、この二人も安定して仲が良い。
星凪はテレビから流れてくる海外のクリスマスソングをかっこよく歌い、リビングの片隅に置かれたクリスマスツリーがピカピカいろんな色に光る。
みんなでゆっくり他愛ない会話ばかりして、普通の幸せなクリスマスを過ごしていることが、なんだか夢みたいだった。
冬休み初日。二十五日はやけに早く起こされた。
冬休みだからもっと寝ててもいいと思うんだけど……と目を擦りながらリビングへ行くと、クリスマスツリーの下に綺麗にラッピングされた箱がいくつも置かれている。
「え! サンタさん来たの!?」
「そうなんだ! 早く教えてあげないとって思ってね」
「やったー! すごいすごい!」
「瑞たちが良い子だからだねぇ」
「……この二人、天然?」
「……うん……」
駆け寄って箱を持ち上げながら尋ねると、丞さんも興奮気味に答える。同じくリビングに出てきた星凪と桔都が、後ろでなにやらぼやいていた。
両親の仕事が始まる前に、プレゼントを見せたかったらしい。
おれと桔都には色違いのマフラー(カシミヤとか言っていた)、星凪にはお洒落な手袋、母にはダイヤっぽい石のついたネックレスだった。おれに審美眼はないものの、丞さんは相当気合いを入れて用意したみたい。
その他にもお菓子の箱や妊婦に優しいクッションなどなど、たくさんの箱を開けていく作業は楽しかった。クリスマスってすごい!
夜は両親もクリスマスディナーを食べにいくらしい。おれと桔都は久しぶりに二人だから、好きなものを食べていいよとお小遣いをもらった。今日はイベントにも行くし、一日中桔都と過ごせるのが嬉しい。
お昼はクリスマスマルシェで食べようと三人で決めて、桔都と一限だけ冬期講習を受けようと塾へ向かった。イベントの後は行く気になれないし、せっかく申し込んでもらったのに初日からサボるのは……さすがに申し訳ないので。
そうしてなんとか初日のミッションを完了して戻ると、星凪が過ごしている客間へと急いで連れて行かれた。
「なに? 二人とも」
「今日は、おめかしして行こう!」
おめかし?
キョトンとしていると、桔都も頷く。
「瑞は元がいいから、お洒落すれば見違えると思う。今日、学校の奴らにも会う可能性高いし……見返してやらないか?」
「ええ? 見返して、なんて……別にいいかな……。それに、おれじゃ大して変わんないよお」
「いやいや、変わるから。まぁせっかくだし、おめかししようよ! ぼくたち二人と並んでたら、悪いけど結構目立っちゃうし」
「う」
おれは美麗な二人に挟まれる自分が、限りなく凡人であることを思い出した。確かに、少しでもみっともなくない格好をしないと、悪目立ちしてしまいそうだ。
カリフォルニアで会って以来だから、すごく楽しみ。「クリスマスケーキ、一緒に食べよ!」と桔都にメッセージが来たのを見せてもらって、その遠慮のなさに笑ってしまった。きっと賑やかになる。
しかし連絡を取っているうちに、二十五日も一緒にイベントへ行くことになってしまった。おれは(デートが……)と内心がっかりしたが、桔都もなんだか項垂れていた。
「こうなったら、全力で協力してもらう」
「?」
学校ではイベントの話題で盛り上がっている人が増え、恋人のいる人たちはもはやイルミネーションを見に行くことが一種のステータスになっているという感じだ。
秀治は近頃ウンザリした顔をしている。でも結局相手のことを好きだから色々と考えて、好きだから気の進まないことでもできるのだろう。
やっぱり、秀治は彼女ができてから少し大人になったように感じる。おれの知らない世界を進んでいるからかもしれない。
「ま、がんばれよ!」
「むーかーつーくーなー!」
一つ驚いたことがあった。
クラスの有志で二十四日の終業式後にカラオケへ行かないかと、おれも誘ってもらったのだ。恋人のいない寂しい人たちで集まろう! という企画らしい。
文化祭でクラスの仲はかなり深まって、おれも別に孤立していたわけではない。一時は心なしか避けられていたけれど……桔都の取り巻きの一人である本田も、嫌がらせには加担していなかったと思う。
今はもうみんな普通に話してくれるし、けっこういいクラスだなぁと思うのだ。もちろんカラオケには行くつもり。
恋人ができる予定は……みんなの王子様に恋してしまった時点で、ないのだから。
(でも最初から駄目だとわかってるって、気楽だなー!)
「やっほー! 来たよ! 奏海さんおめでとう〜〜!!」
二十三日、駅へ迎えに行った丞さんの車から降りた星凪が、家に飛び込んできた。赤ちゃんのことも聞いたようだ。
「ようこそ星凪くん! ありがとう」
「久しぶり、星凪!」
母とおれにハグをしたあと「なにそのジャージ、毛玉ひどいよ?」と桔都に話しかけている星凪を見ながら、母とおれは改めて「やっぱり綺麗な子よねぇ」「ほんとに~」と頷き合った。
顔立ちの綺麗さとプロポーションの良さは、日本で見るとより際立つ気がする。顔が小さくて、手足もスラッと長い。
桔都とは違う種類で、別次元の美しさだから普通なら取っ付きにくそうなのに、太陽みたいな明るさで周囲を照らす。こういう人が、東京でモデルとかタレントにスカウトされるのだろうなと勝手に想像してしまった。
おれたちは明日学校なので申し訳なかったけれど、在宅勤務を取り入れはじめた丞さんと早めに帰ってくる母がいるし問題ないようだ。
そもそも星凪のお姉さんが用事で近くに来る予定があって、二十五日はそのまま家族が合流して一緒にホテルに泊まるらしい。ちゃんと他にも目的があったみたいで安心した。
「桔都、スイッチ持ってるんでしょ? 暇なときやりたいから貸して! 部屋勝手に入っていい?」
「だめ。ゲームは、出しておくから……それでいい?」
「オーケー!」
桔都が即却下してしまったから、聞いていてちょっとびっくりしてしまった。桔都は星凪の前では元々素をさらけ出しているし、部屋くらい入れてあげると思ったのだ。ちなみにおれはもうフリー入場の許可を得ている。
星凪は全く気にした様子がなくて、ホッとしたけど。まるで自分が優先されているみたいで、ほんの少しだけふわふわ浮かれた心地を味わった。
「星凪、ちょっとこっち来て。ゲーム客間に置いておいていい?」
「はーい!」
一階にある客間に向かった二人がやけに長い間出てこなかったので、おれの浮かれた気持ちは早速しょぼしょぼと沈んだ。やっぱり仲いいんだよなぁ。
しかもようやく出てきた星凪は「ふ、ふ、ふ」と笑いを隠しきれない表情で、やけに楽しそうだ。何を話していたのかなとチラチラ気にして見ていれば、突然抱きつかれた。
「わっ」
「身長は……ぼくより少しだけ低いよねぇ。体型はそんなに変わらないか」
いえいえ、手足の長さが全く違いますとも。どうして急におれと比べ始めたのかはわからないが、大雑把すぎる判定に内心異を唱える。
「星凪……なにしてんの?」
その時、低く冷たい声が聞こえおれの体はフッと解放された。両肩を引かれるまま背中を預けたのは、どうやら桔都の胸のようだった。星凪の目が切れ長に細くなって、ニヤニヤと桔都を煽る。
「わかってるでしょ~? 協力するためじゃん?」
「近づきすぎ」
「そんなことないよぉ。ね、ミズキ?」
「え? う、うん」
桔都が文句を言い、星凪がおれに話を振る。アメリカで桔都とボディタッチの話をしたことを思い出したけど、今のことは別に嫌ではなかったので頷いておいた。
その答えは望んだものではなかったらしい。おれはいわゆるバックハグの体勢で、背中から回された桔都の腕にキュッと締め付けられた。
「ほら~! 桔都の方がくっついてるじゃん」
「僕はいいの」
「不公平!」
星凪と桔都が言い合っている。でもおれはそれどころじゃないほど、緊張とトキメキで心臓が破裂しそうになっていた。顔も熱い。
(冗談だとしても……刺激が強いよ~!!)
二十四日は終業式を終えたあと、約束通りクラスの仲間たちとカラオケに行った。十人以上はいたと思う。
フードメニューから『奇跡の声が出せるかも! ワサビと黒糖の禁断ポテト』を注文しようとしたら全力で止められ、がっかりした。桔都なら頼ませてくれるのに……たぶん。
そのあとアメリカ土産のグミがすごかったという話題で盛り上がり、少し恥ずかしかった。いい意味で人の話題に上るのは慣れていない。
「あのグミ食べたら舌が真っ青に染まってさぁ、数日は色取れなくて親がビビってた」
「わぁ。ご、ごめん……」
「いや、動画にしたらバズったからむしろサンキュー!」
一人ずつ一曲歌い、おれも下手くそな歌を微笑ましい目で見守ってもらった。
あとはほとんどお喋りばかりだったけど楽しかったなあ。来年のクラス替えが嫌だな、と思うくらい今の仲間が好きだ。
暗くなる前に解散し、帰宅してからは家族でクリスマスパーティーだ。星凪を含めた五人でご馳走を食べ、ケーキを食べた。
桔都の誕生日のときもそうだったけど、ホールケーキを普通に買って食べられるってすごく幸せなことだ。母と二人ではカットケーキが普通だったし、丸いケーキを見るだけで特別感がある。
つわりに振り回されていた母も最近は調子が良さそうで、「これ以上食べれないってば~」と途中から丞さんに文句を言っていた。家出事件以降は一緒に過ごす時間が増えたからか、この二人も安定して仲が良い。
星凪はテレビから流れてくる海外のクリスマスソングをかっこよく歌い、リビングの片隅に置かれたクリスマスツリーがピカピカいろんな色に光る。
みんなでゆっくり他愛ない会話ばかりして、普通の幸せなクリスマスを過ごしていることが、なんだか夢みたいだった。
冬休み初日。二十五日はやけに早く起こされた。
冬休みだからもっと寝ててもいいと思うんだけど……と目を擦りながらリビングへ行くと、クリスマスツリーの下に綺麗にラッピングされた箱がいくつも置かれている。
「え! サンタさん来たの!?」
「そうなんだ! 早く教えてあげないとって思ってね」
「やったー! すごいすごい!」
「瑞たちが良い子だからだねぇ」
「……この二人、天然?」
「……うん……」
駆け寄って箱を持ち上げながら尋ねると、丞さんも興奮気味に答える。同じくリビングに出てきた星凪と桔都が、後ろでなにやらぼやいていた。
両親の仕事が始まる前に、プレゼントを見せたかったらしい。
おれと桔都には色違いのマフラー(カシミヤとか言っていた)、星凪にはお洒落な手袋、母にはダイヤっぽい石のついたネックレスだった。おれに審美眼はないものの、丞さんは相当気合いを入れて用意したみたい。
その他にもお菓子の箱や妊婦に優しいクッションなどなど、たくさんの箱を開けていく作業は楽しかった。クリスマスってすごい!
夜は両親もクリスマスディナーを食べにいくらしい。おれと桔都は久しぶりに二人だから、好きなものを食べていいよとお小遣いをもらった。今日はイベントにも行くし、一日中桔都と過ごせるのが嬉しい。
お昼はクリスマスマルシェで食べようと三人で決めて、桔都と一限だけ冬期講習を受けようと塾へ向かった。イベントの後は行く気になれないし、せっかく申し込んでもらったのに初日からサボるのは……さすがに申し訳ないので。
そうしてなんとか初日のミッションを完了して戻ると、星凪が過ごしている客間へと急いで連れて行かれた。
「なに? 二人とも」
「今日は、おめかしして行こう!」
おめかし?
キョトンとしていると、桔都も頷く。
「瑞は元がいいから、お洒落すれば見違えると思う。今日、学校の奴らにも会う可能性高いし……見返してやらないか?」
「ええ? 見返して、なんて……別にいいかな……。それに、おれじゃ大して変わんないよお」
「いやいや、変わるから。まぁせっかくだし、おめかししようよ! ぼくたち二人と並んでたら、悪いけど結構目立っちゃうし」
「う」
おれは美麗な二人に挟まれる自分が、限りなく凡人であることを思い出した。確かに、少しでもみっともなくない格好をしないと、悪目立ちしてしまいそうだ。


