神星は俺を保健室まで運んで、すぐにグラウンドへ戻っていってしまった。
俺は保健室の先生に応急処置をしてもらって、しばらく安静にしていたら、だいぶ痛みも軽くなった。
先生にお礼を言ってグラウンドに戻る頃には、もう閉会式は終わっていて、片付けが始まろうとしていた。
「「兄ちゃん!」」
「あれ!詩音、玲音!」
足に負担をかけないようにゆっくり歩いていたら、可愛い弟たちが元気よく駆け寄ってきた。
荷物をまとめた母さんと父さんも後ろにいる。
「兄ちゃん、怪我した?大丈夫?」
「痛かった?」
「大したことないから大丈夫だよ。ありがとな、心配してくれて」
二人の頭を撫でていると、詩音が何かを思い出したのか、目を大きく見開く。
「あ!さっきね!兄ちゃん助けてくれた人にお礼言ったよ!」
「えっ」
「そうそう!みんなでありがとうって言った!」
「ま、マジか……」
「神星くんっていうのね。翠のお友達に会えて嬉しかったなぁ」
「母さん……」
「かっこいい男の子だね、神星くん。また話したいなぁ」
「父さんまで……」
どうやら、俺の家族全員が、神星と対面したらしい。
好きな人と家族が、自分の知らないところで話してたって……なんか、めちゃくちゃ恥ずかしい。
でも……自分の好きな人を、家族もよく思ってくれることが、すごく嬉しくて幸せに気持ちになることなんだと、同時に知ることもできて……。
このあったかくて優しい気持ちのまま、神星に会いに行きたくなった。
◇
◇
◇
片付けと帰りのホームルームを終えて、みんなが打ち上げだ〜!と騒がしく教室を出ていく中、その誘いを断った俺は、神星の席に向かう。
「神星、帰ろうぜ」
「楠木……足は?」
「もう平気!」
「家族の人とか、迎えにきてくれるんじゃないの?」
「んーん、マジでもう歩けるから大丈夫って言っといた」
「そっか……あれ、楠木も打ち上げ断ったの?」
「神星も原田も行かないし、まあ行かなくてもいいかなって」
「そう……じゃ、帰るか」
神星は立ち上がって自分のバッグを持つと、当然のように俺のバッグにまで手を伸ばす。
「持つよ」
「え、か、軽いからいいのに……」
「ほら、貸して」
サラッと二つのバッグを肩にかけた神星が、俺だけに微笑みかけてくる。
その微笑みは、みんなに向けられるそれとは違うから……優越感ってやつを感じて、胸が高鳴って落ち着かない。
「……」
「……」
何から話していいか分からない。
今までどう話していたか分からない。
その綺麗な横顔を見上げたら、息の仕方さえ忘れてしまいそうだ。
「……」
「……」
「「……あのさ」」
よりによってタイミング被った⁉︎
「楠木からいいよ、何?」
「ぁ、うん、いや、そのー……か、神星は、誰かとハチマキ交換した?」
「いや……してないけど」
「そ、そっか……じゃあさ!」
ああ、もう、心臓はどうしたってバクバクする。
こういうのは、勢いで乗り越えるしかない!
「俺と、交換しよ!」
「……!」
「なんだかんだ、同じ組で、めっちゃ助けてもらったし、ダンスも一緒だったし……そのー、体育祭楽しかったから、思い出〜的な?」
「思い出……」
俺、変なこと言ってないかな?言ってないよな?
一応、理由も、いい感じに言えた、よな?
「……いいよ」
「っ!マジで⁉︎」
「ふふ、そんなに嬉しいのかよ」
「そりゃ、願い叶ったら嬉しいだろ!」
「……大袈裟」
あ……耳、赤くなってる。
顔も背けてるけど、照れてるのが分かる。
……もっと、神星の照れてるところが見たい。
「あ、神星は、何言おうとしてた?」
「あー、えっと」
神星はゴソゴソとポケットに手を入れて、青色の紙を二枚取り出した。
そこには、イルカのイラストが描かれている。
「水族館、一緒に行かない?」
「っ……!」
「ショッピングモールでくじ引きの企画やってて、なんとなくやってみたら当たってさ……期末テストとか部活の大会が落ち着いてからになると思うけど、どうかなって」
「い、行きたい!だってそれってデート……みたいな……」
思わず口が滑って、ごにょごにょと言葉を濁して俯いたら、神星が屈んで覗き込んできやがった。
口角をニヤリと上げているあたり、俺が動揺する様子を見れて、さぞかし満足なのだろう。
「あれ、学校外の勝負はあんまり自信なかった?」
「っ、んなわけねーだろ。休日こそ圧勝だわ」
とか言ってるけど、休みの日にデートとかしたことない。
中学の頃からモテてきたのは本当だけど、好きな人も恋人もいたことなかったから。
「圧勝かぁ、楽しみにしてるよ」
「しとけしとけ」
神星は、あるのかな。
誰かとオシャレしてデートしたり、いっぱい好きって言い合ったり、そういう甘い経験が。
……あんまり、想像したくないな。
胸をズキンと鈍く痛ませる妄想を取っ払って、俺は神星からハチマキとチケットを受け取った。
俺は保健室の先生に応急処置をしてもらって、しばらく安静にしていたら、だいぶ痛みも軽くなった。
先生にお礼を言ってグラウンドに戻る頃には、もう閉会式は終わっていて、片付けが始まろうとしていた。
「「兄ちゃん!」」
「あれ!詩音、玲音!」
足に負担をかけないようにゆっくり歩いていたら、可愛い弟たちが元気よく駆け寄ってきた。
荷物をまとめた母さんと父さんも後ろにいる。
「兄ちゃん、怪我した?大丈夫?」
「痛かった?」
「大したことないから大丈夫だよ。ありがとな、心配してくれて」
二人の頭を撫でていると、詩音が何かを思い出したのか、目を大きく見開く。
「あ!さっきね!兄ちゃん助けてくれた人にお礼言ったよ!」
「えっ」
「そうそう!みんなでありがとうって言った!」
「ま、マジか……」
「神星くんっていうのね。翠のお友達に会えて嬉しかったなぁ」
「母さん……」
「かっこいい男の子だね、神星くん。また話したいなぁ」
「父さんまで……」
どうやら、俺の家族全員が、神星と対面したらしい。
好きな人と家族が、自分の知らないところで話してたって……なんか、めちゃくちゃ恥ずかしい。
でも……自分の好きな人を、家族もよく思ってくれることが、すごく嬉しくて幸せに気持ちになることなんだと、同時に知ることもできて……。
このあったかくて優しい気持ちのまま、神星に会いに行きたくなった。
◇
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片付けと帰りのホームルームを終えて、みんなが打ち上げだ〜!と騒がしく教室を出ていく中、その誘いを断った俺は、神星の席に向かう。
「神星、帰ろうぜ」
「楠木……足は?」
「もう平気!」
「家族の人とか、迎えにきてくれるんじゃないの?」
「んーん、マジでもう歩けるから大丈夫って言っといた」
「そっか……あれ、楠木も打ち上げ断ったの?」
「神星も原田も行かないし、まあ行かなくてもいいかなって」
「そう……じゃ、帰るか」
神星は立ち上がって自分のバッグを持つと、当然のように俺のバッグにまで手を伸ばす。
「持つよ」
「え、か、軽いからいいのに……」
「ほら、貸して」
サラッと二つのバッグを肩にかけた神星が、俺だけに微笑みかけてくる。
その微笑みは、みんなに向けられるそれとは違うから……優越感ってやつを感じて、胸が高鳴って落ち着かない。
「……」
「……」
何から話していいか分からない。
今までどう話していたか分からない。
その綺麗な横顔を見上げたら、息の仕方さえ忘れてしまいそうだ。
「……」
「……」
「「……あのさ」」
よりによってタイミング被った⁉︎
「楠木からいいよ、何?」
「ぁ、うん、いや、そのー……か、神星は、誰かとハチマキ交換した?」
「いや……してないけど」
「そ、そっか……じゃあさ!」
ああ、もう、心臓はどうしたってバクバクする。
こういうのは、勢いで乗り越えるしかない!
「俺と、交換しよ!」
「……!」
「なんだかんだ、同じ組で、めっちゃ助けてもらったし、ダンスも一緒だったし……そのー、体育祭楽しかったから、思い出〜的な?」
「思い出……」
俺、変なこと言ってないかな?言ってないよな?
一応、理由も、いい感じに言えた、よな?
「……いいよ」
「っ!マジで⁉︎」
「ふふ、そんなに嬉しいのかよ」
「そりゃ、願い叶ったら嬉しいだろ!」
「……大袈裟」
あ……耳、赤くなってる。
顔も背けてるけど、照れてるのが分かる。
……もっと、神星の照れてるところが見たい。
「あ、神星は、何言おうとしてた?」
「あー、えっと」
神星はゴソゴソとポケットに手を入れて、青色の紙を二枚取り出した。
そこには、イルカのイラストが描かれている。
「水族館、一緒に行かない?」
「っ……!」
「ショッピングモールでくじ引きの企画やってて、なんとなくやってみたら当たってさ……期末テストとか部活の大会が落ち着いてからになると思うけど、どうかなって」
「い、行きたい!だってそれってデート……みたいな……」
思わず口が滑って、ごにょごにょと言葉を濁して俯いたら、神星が屈んで覗き込んできやがった。
口角をニヤリと上げているあたり、俺が動揺する様子を見れて、さぞかし満足なのだろう。
「あれ、学校外の勝負はあんまり自信なかった?」
「っ、んなわけねーだろ。休日こそ圧勝だわ」
とか言ってるけど、休みの日にデートとかしたことない。
中学の頃からモテてきたのは本当だけど、好きな人も恋人もいたことなかったから。
「圧勝かぁ、楽しみにしてるよ」
「しとけしとけ」
神星は、あるのかな。
誰かとオシャレしてデートしたり、いっぱい好きって言い合ったり、そういう甘い経験が。
……あんまり、想像したくないな。
胸をズキンと鈍く痛ませる妄想を取っ払って、俺は神星からハチマキとチケットを受け取った。



