プログラム後半の応援合戦。
神星とペアのダンスのときは、それはもう大変だった。
見つめ合って、手を取り合って、ハート作って、ハグをして……。
全部、あらかじめ決まってた振り付けなのに。
神星への気持ちを自覚した途端、透明だったシャボン玉に色がついたみたいに、キュンとときめく感覚が心の中でいちいち存在感を放って、弾けて脳まで甘酸っぱくさせた。

恋をするって、とんでもないことなんだな。
生まれて初めて、そう実感した。




最後の出場競技は選抜リレー。
アンカーで颯爽とグラウンドを駆けて、全校生徒の目を釘付けにしたいと思っていたはずなのに。
今はたった一人、神星の瞳さえ奪えたらいいと思ってる。

でも、あの神星鈴斗だ。
全校生徒の視線くらい独り占めできなければ、神星に惚れてもらうなんて夢のまた夢。
絶対、最高にかっこよく一位でゴールしてみせる……!

「続いて、二年生のレースです」

バン、とスターターピストルが鳴って、俺たち青組も順調にバトンを繋いでいくが、順位は四組中三位。
なかなか厳しい状況だ。

しかし、俺ならまだ逆転できる!
みんなが繋いでくれたバトンを、今、俺が―――。

ちゃんと受け取れる、はずだった。

「楠木くん!大丈夫⁉︎」

俺にバトンを渡してくれたやつが、ひどく動揺した顔で駆け寄ってくる。

「大丈夫!気にすんな!」

バトン受け渡しのタイミングが他の組と重なって、少し身体が接触してしまった。
誰も悪くない、足を挫いたのが俺だけで良かった。

「痛っ……」

痛い、けど、まだ走れる。
俺はアンカーだ、みんなの期待に応えなきゃ。
神星に、見てもらわなきゃ、神星に……

「楠木!俺も一緒に走るよ」

「へ?神星……?」

神星のことを考えていたら、神星が俺の目の前にいた。
これは、恋の魔法か何かだろうか。
ふわっと身体が宙に浮いて、

「青組!アクシデントがありましたが!なんと!補欠の神星くんが!楠木くんを抱えて走り出しました!」

温かい腕に抱えられ、大好きな匂いに包まれていた。

すぐそこに神星の顔がある。
まっすぐ前を見て、ゴールを捉えてる。
こめかみを伝う汗まで綺麗だ。

「青組もゴール!最下位とはなりましたが、会場は間違いなく、今日一番の盛り上がりを見せています!」

息のあがった神星の頬に手を伸ばした。
指先で汗を拭ったら、前だけ見て走ってた神星の視線が、こちらに向く。

「神星、ありがとう」

「……!ははっ、楽しかったな!」

ニカっと笑う神星を見て、心臓がきゅうんと堪らなく締めつけられる。
この笑顔、誰にも見せたくないな。
俺だけの特別にしたい。

「じゃ、このまま保健室行こっか」

「え、い、いいの?」

「もう出番ないし、大丈夫でしょ」

まだ収まらない歓声を背に、神星は俺を抱えたまま歩き出す。
こんなの、ずるいよ。
魔法なんてなくても、一瞬で俺のことをお姫様にしちゃうんだから。