「では、今言われた通り、ダンスのペアで集まってくださーい!」

三年の応援団長の指示で、青組全員が一斉に動き出す。
今年の応援合戦では、二人一組で行うダンスパートがあるらしく、今からその練習をするのだという。

さて、俺も例外ではなく二人一組を作るのだが……

「よろしくな、楠木」

はい出た神星です。俺のペア、神星鈴斗です。
組み合わせはくじで決まったという応援団長の発言が、途端に怪しく思えてきた。
これはドキドキさせるチャンスが増えたってことで、喜ぶべきなのか……?

「それでは、今から応援団がダンスのお手本を見せます!」

ライバルとペアになり複雑な心境の中、最近バズっているラブソングが流れ始める。
……え?ラブソング?

「まず一つ目のポイント!ここで、二人で見つめ合う!」

は?

「まもなく二つ目のポイント!はい、ここで〜……手を取り合って!」

は??

「そして〜はい!三つ目!ここで、二人でハートを作って!」

は???

「もうすぐラストのポイント!はい!ハグして!」

はぁ〜〜????

「っていう感じで!お手本終わりです!」

いやいやいや。
パチパチ拍手拍手、じゃないのよ。
これ完全にカップルが踊るやつだよな?
……あ、だから一応気まずくならないよう男女別になってんのか。
まあ俺は気まずいけどな!!

「楠木」

「っ、な、何?」

「グループごとに練習だって。行くぞ」

「お、おう」

神星は全く動揺した様子を見せない。
行くぞ、とか言って、イケメンスマイル向けてくるし。
手、差し出してくるし。
そんで俺はその手を握ってるし。いや何してんの俺。

……でも、この間みたいに落ち込んだ神星を知ってると、ちょっとムカつくくらいの方が、今日は元気なんだなって分かって安心するかも。



「では、最初から振り入れしていきますね」

そう言って俺たちのグループの指導をするのは、優しそうな三年生の男子応援団員。
その第一印象は間違ってなかったらしく、分からないところを質問すれば、一つ一つ丁寧に教えてくれる。

「先輩!ここの振りのあと、右手はどの位置にあればいいんでしたっけ」

「ああ、そこね。右手は腰に添えてくれてたら大丈夫だよ」

「なるほど!あ、あと!さっきの、」

「おい、楠木、その辺にしとけよ」

先輩にもう一つ確認したい振りがあったのに、神星に首根っこを掴まれて、ひょいっと先輩から遠ざけられてしまった。

「何すんだよ、分かんないとこ聞いてただけだろ」

「俺がもう全部覚えたから俺に聞け」

「早くね⁉︎」

「他にも先輩待ってる人いるんだから」

神星が「俺たちは大丈夫ですよ」と伝えると、先輩は別の人のところへ指導へ向かう。
まあ、確かに、俺ばっかり引き留めてたのは良くなかったかも……。

「……で、どこが分かんないの」

「ん、ああ、ハート作ったあとさ、こうするとこまでは覚えてんだけど、その後って何だっけ?」

「その後は、ターンして左手出して、」

「ほうほう」

「違う、左手は―――」

そこまで言った神星が、次の瞬間、俺にバックハグしてた。
いや、正確には、バックハグみたいな体勢だった。

「―――って、聞いてる?」

「ひゃい!」

「……何その返事」

「聞いてる!」

「……そう?なら、次の振り付け分かるよな?」

「え……えーと……」

やっと神星が離れてくれたから、少しだけドキドキが収まるかなって思ったのにさ。

「ハグ、だろ」

「っ⁉︎」

振り付けとはいえ、神星が人前で堂々とハグしてきやがった……!
まずいまずい、神星にキュンキュンして動揺してるところなんて、みんなに見せるわけにはいかない……!
……ここはもう振り切って、俺も行くしかない!

「ハグ、だな!」

思い切ってぎゅーっとしたら、

「「「キャーーーーーー!!」」」

地面が割れんばかりの黄色い叫び声が起こる。
至極当然の結果だ。
ここには、神星にハグされたい人か、俺にハグされたい人か、その二種類の人間しかいないのだから。
分かってる分かってる、みんなも俺とハグしたいよな……。しかし、悪いな。
俺は、みんなの俺だから―――。

「楠木、いつまでハグしてんの」

「!」

頭上から降ってきた声にハッとして顔を上げると、至近距離の神星と視線が交わる。
……あれ、神星の顔、ちょっと赤い。
神星も、振り付けとはいえ、少しは動揺してんのかな。
……もし、ペアの相手が俺じゃなかったら……神星はどんな顔してたんだろう。
やっぱり、こんな風に照れてたのかな?

「だから!いつまでハグしてんの?」

「んぎゃ」

むにぃとほっぺを摘まれた。
餅みたいに引っ張りやがって。
俺のほっぺが柔らかくなかったら、こんなにもちもちできねーんだぞ。

「神星のも触らせろや」

神星の硬そうなほっぺに手を伸ばすと、その手首を掴まれて阻止された。

「っ、今はダメ」

「な、んだよ……」

なんだよ。なんなんだよ。
なんでガチで照れてんの。
余裕たっぷりな王子様かと思ったら、急にしゅんとしてネガティブになったり、今度は顔赤くして照れたり……。
毎日コロコロと色とりどりに変わるけど、全部ぜんぶ、神星なんだ。
全部……目が離せなくて、悔しい。