今日の学校はいつもより騒がしい。
みんな明るい表情で、ウキウキしたオーラが全身から放たれている。
それもそのはず、本日の時間割は終業式のみ!
俺たちの学校は―――
「明日から夏休み……だ……」
「翠?周りとの落差がすごいよ」
「原田ぁ……明日から俺はどうやって生きていけばいいんだよぉ……」
「また大袈裟な」
大袈裟なんかじゃない。
部活に入っていない俺にとって、夏休みが始まることは、約一ヶ月間学校へ行かないことを意味する。
それはつまり……神星に会えないことを意味する……。
「終わった……」
俺がいない夏休みも、神星は毎日のように部活に行く。
そして、バスケ部のメンバーとかけがえのない青春の思い出を作り、可愛い女子からは告白されまくり、俺のことなんか次第に忘れて……。
「……終わった……」
「短時間で二回も終わらないで」
「原田ぁ〜……」
「あのさ、前も言ったけど、自分からアクション起こしなよ。夏休みもデート誘えばいいじゃん、てか誘え」
「うっ……そうだよな……」
原田の有難いアドバイスは、いつだって五臓六腑に染み渡る。
家族以外に厳しいことを言ってくれる人の存在って、多分すごく貴重だ。
「……原田はさぁ、彼女と高校違うわけじゃん?不安にならねぇの?」
原田には、中学の頃から付き合っているラブラブの彼女がいる。
でも、高校は別々で、平日はほとんど会えないだろう。
「そりゃ〜同じ高校の男には嫉妬するよ。でも、信用してるから。今は、一緒に過ごせる時間を大切にしてたら、大丈夫だって思えるよ」
「……そっか……」
「翠、会える時間はね、自分から作らなきゃ」
「っ……!」
「神星くんだって、きっと会いたいはずだよ」
「……うん、頑張ってみる」
原田の言葉が背中を押してくれるうちに、神星に会いたいって伝えなきゃ。
水族館のときは、神星から誘ってくれたんだ。
今度は、俺から勇気を出して誘いたい……!
◇
◇
◇
終業式が終わり、ホームルームが始まるまでの休憩時間。
俺は深呼吸をしてから、神星の席へ向かった。
「神星、ちょっといい?」
「?うん」
廊下の隅っこまで神星を連れてきて、駆け足になる鼓動を抑えながら口を開いた。
「ぁ、あのさ、夏休みって忙しい、よな」
「……!えっと、」
「も、もし!もしな!暇な日があったら、また、遊ぶとか、どうかな〜って、」
「うん、会いたい、俺も」
「へ⁉︎」
まさかの食い気味で即答された。
しかも、なんか、キラキラ目を輝かせながら。
「俺も、同じこと思ってたんだけど……楠木、バイト忙しいのかなーとか、色々考えてて……だから、嬉しい」
「っ……!」
なぁ、こんなに上手くいっていいのかな。
あっさり約束できちゃったよ。
今朝までふにゃふにゃ言いながら悩んでたのに……
「へへ、誘って良かった」
勇気出したら、世界って一瞬で煌めくんだな。
「っ……今日の夜、部活の予定とか確認して連絡する」
「分かった!俺もバイトの予定見とくわ」
嬉しくてピースしてみせたら、その手をぎゅっと掴まれて、頭をぽん、と優しく叩かれた。
チラリと覗いた神星の顔は、ほんのり赤く色づいていた。
◇
◇
◇
時刻は午後十時半。
俺は先ほどからベッドの上で、寝返りと神星の既読状況チェックを交互に行っている。
「……来た!」
二十回目の寝返りでようやく、神星から返信が来た。
もはや神星のアイコンを見るだけでキュンとする。
神星は、先に俺が送っていた候補日の中から、午後が空いてる日を数日、丸一日空いてる日を二日ほど教えてくれた。
「……午後からの日、部活終わりに迎え行っても……っていやいやいや、さすがに恥ずいな」
途中まで入力したメッセージを、慌てて全部消した。
この間、サプライズで待ってたときに喜んでくれたからって、毎回そうだとは限らない。
なんて返そうかなぁと悩んでいると、神星から追加でメッセージが届いた。
『楠木さえ良ければ、俺の部活終わったら、そのままご飯食べに行くとかどう?』
もう、キュン死だ。
一瞬でキュン死したが、おそらく寿命は十年伸びた。
神星は、どこまで俺の心を揺さぶりたいのだろう。
しかし、これは助走に過ぎなかった。
この直後、俺のつむじからつま先を、落雷のような衝撃が勢いよく駆け抜ける。
『あと、最後の日なんだけど』
『両親が出張でいないから』
『うち来る?』
は……?うち来る?うちくる?ウチクル?
ニホンゴ、アッテル?
オレ、ニホンゴ、ワカッテル?
『あ、全然無理はしないで』
ムリハシナイデ……
「おい待てい!!!!!」
俺は日本語を正しく理解していると信じて、神星に爆速で返信を送った。
『行きたい!』
『友達と泊まりとか久々で楽しみ!』
さすがに泊まりだと判断するのは早かったか?と思ったけど……でも、やっぱりお泊まりしたい!
言っちゃえば、こっちの勝ちだろ?
『良かった、俺も楽しみ』
よし!!勝った!!
『俺は初めてだけどね』
……何それ、何それ何それ⁉︎
どういう意図で言ってんの?
俺になんて言ってほしいの?
頭ん中、メリーゴーランドみたいにぐるぐるするじゃん!
「……俺だって、好きな人と泊まりは初めてだっつーの」
とは、送れないし。
本当になんて返せばいいか分かんなかったから、昨日買った意味不明なスタンプを三つ送っておいた。
数分後、同じスタンプが三つ返ってきた。
わざわざ同じの買ってくれたのかな、なんて思うと、寝る前だというのに胸の高鳴りが激しくなってしまった。
みんな明るい表情で、ウキウキしたオーラが全身から放たれている。
それもそのはず、本日の時間割は終業式のみ!
俺たちの学校は―――
「明日から夏休み……だ……」
「翠?周りとの落差がすごいよ」
「原田ぁ……明日から俺はどうやって生きていけばいいんだよぉ……」
「また大袈裟な」
大袈裟なんかじゃない。
部活に入っていない俺にとって、夏休みが始まることは、約一ヶ月間学校へ行かないことを意味する。
それはつまり……神星に会えないことを意味する……。
「終わった……」
俺がいない夏休みも、神星は毎日のように部活に行く。
そして、バスケ部のメンバーとかけがえのない青春の思い出を作り、可愛い女子からは告白されまくり、俺のことなんか次第に忘れて……。
「……終わった……」
「短時間で二回も終わらないで」
「原田ぁ〜……」
「あのさ、前も言ったけど、自分からアクション起こしなよ。夏休みもデート誘えばいいじゃん、てか誘え」
「うっ……そうだよな……」
原田の有難いアドバイスは、いつだって五臓六腑に染み渡る。
家族以外に厳しいことを言ってくれる人の存在って、多分すごく貴重だ。
「……原田はさぁ、彼女と高校違うわけじゃん?不安にならねぇの?」
原田には、中学の頃から付き合っているラブラブの彼女がいる。
でも、高校は別々で、平日はほとんど会えないだろう。
「そりゃ〜同じ高校の男には嫉妬するよ。でも、信用してるから。今は、一緒に過ごせる時間を大切にしてたら、大丈夫だって思えるよ」
「……そっか……」
「翠、会える時間はね、自分から作らなきゃ」
「っ……!」
「神星くんだって、きっと会いたいはずだよ」
「……うん、頑張ってみる」
原田の言葉が背中を押してくれるうちに、神星に会いたいって伝えなきゃ。
水族館のときは、神星から誘ってくれたんだ。
今度は、俺から勇気を出して誘いたい……!
◇
◇
◇
終業式が終わり、ホームルームが始まるまでの休憩時間。
俺は深呼吸をしてから、神星の席へ向かった。
「神星、ちょっといい?」
「?うん」
廊下の隅っこまで神星を連れてきて、駆け足になる鼓動を抑えながら口を開いた。
「ぁ、あのさ、夏休みって忙しい、よな」
「……!えっと、」
「も、もし!もしな!暇な日があったら、また、遊ぶとか、どうかな〜って、」
「うん、会いたい、俺も」
「へ⁉︎」
まさかの食い気味で即答された。
しかも、なんか、キラキラ目を輝かせながら。
「俺も、同じこと思ってたんだけど……楠木、バイト忙しいのかなーとか、色々考えてて……だから、嬉しい」
「っ……!」
なぁ、こんなに上手くいっていいのかな。
あっさり約束できちゃったよ。
今朝までふにゃふにゃ言いながら悩んでたのに……
「へへ、誘って良かった」
勇気出したら、世界って一瞬で煌めくんだな。
「っ……今日の夜、部活の予定とか確認して連絡する」
「分かった!俺もバイトの予定見とくわ」
嬉しくてピースしてみせたら、その手をぎゅっと掴まれて、頭をぽん、と優しく叩かれた。
チラリと覗いた神星の顔は、ほんのり赤く色づいていた。
◇
◇
◇
時刻は午後十時半。
俺は先ほどからベッドの上で、寝返りと神星の既読状況チェックを交互に行っている。
「……来た!」
二十回目の寝返りでようやく、神星から返信が来た。
もはや神星のアイコンを見るだけでキュンとする。
神星は、先に俺が送っていた候補日の中から、午後が空いてる日を数日、丸一日空いてる日を二日ほど教えてくれた。
「……午後からの日、部活終わりに迎え行っても……っていやいやいや、さすがに恥ずいな」
途中まで入力したメッセージを、慌てて全部消した。
この間、サプライズで待ってたときに喜んでくれたからって、毎回そうだとは限らない。
なんて返そうかなぁと悩んでいると、神星から追加でメッセージが届いた。
『楠木さえ良ければ、俺の部活終わったら、そのままご飯食べに行くとかどう?』
もう、キュン死だ。
一瞬でキュン死したが、おそらく寿命は十年伸びた。
神星は、どこまで俺の心を揺さぶりたいのだろう。
しかし、これは助走に過ぎなかった。
この直後、俺のつむじからつま先を、落雷のような衝撃が勢いよく駆け抜ける。
『あと、最後の日なんだけど』
『両親が出張でいないから』
『うち来る?』
は……?うち来る?うちくる?ウチクル?
ニホンゴ、アッテル?
オレ、ニホンゴ、ワカッテル?
『あ、全然無理はしないで』
ムリハシナイデ……
「おい待てい!!!!!」
俺は日本語を正しく理解していると信じて、神星に爆速で返信を送った。
『行きたい!』
『友達と泊まりとか久々で楽しみ!』
さすがに泊まりだと判断するのは早かったか?と思ったけど……でも、やっぱりお泊まりしたい!
言っちゃえば、こっちの勝ちだろ?
『良かった、俺も楽しみ』
よし!!勝った!!
『俺は初めてだけどね』
……何それ、何それ何それ⁉︎
どういう意図で言ってんの?
俺になんて言ってほしいの?
頭ん中、メリーゴーランドみたいにぐるぐるするじゃん!
「……俺だって、好きな人と泊まりは初めてだっつーの」
とは、送れないし。
本当になんて返せばいいか分かんなかったから、昨日買った意味不明なスタンプを三つ送っておいた。
数分後、同じスタンプが三つ返ってきた。
わざわざ同じの買ってくれたのかな、なんて思うと、寝る前だというのに胸の高鳴りが激しくなってしまった。



