「ご主人様~~朝ごはんできたです~~」

 俺の専属メイドであるララが、元気な声と共に俺の部屋に入って来た。
 俺たち貴族は1人だけ従者をつけることができる。従者は同じ寮に住むことができるのだ。もちろん部屋は別だが。

 ララは俺と同い年の15歳だ。
 女性らしさあふれる容姿になったかというと、5年前とほとんどかわらずちっこいままだ。でもそこがララのかわいいポイントだし、タユンポヨンに関しては別物なのかこの5年でさらに成長している。

 「ご主人様~~昨日のチーム戦大活躍だったですか~~ララ嬉しいです」
 「ララ、そうだな。俺たちの全勝だからな」
 「ラビア先生の訓練頑張りましたからね~やったです!」


 ラビア先生は生徒全員を色々と見ていたようで。クフフとか笑いが漏れていた。
 この笑いはたぶんヤバいやつだ。鍛えたくてウズウズしているときに漏らす笑みだからな。Sクラスは磨けば光るやつばかりだから、嬉しくなっちゃったんだろう。


 にしても……


 俺は鍛えすぎたんだろうか。


 クレスやその他生徒たちは、あっけなく俺に敗退した。
 Sクラスのメンバーといえば、ゲーム原作のネームドキャラも多い。
 本来なら、やられ悪役の俺では歯が立たないメンツだ。

 もちろん彼らもこれから成長していくのだが……にしても手ごたえが無さすぎた。
 ラビア先生の鍛錬がとんでもなかったということか。

 だが調子に乗るのはマズイ。第三王女であるマリーナは、とんでもなく強かった。昨日も1チームを1人で相手して瞬殺していたし。
 彼女も原作を上回る成長速度で強さを身に着けているということだ。たぶん死ぬほど鍛錬している。

 ということは―――まだまだ俺の知らない強者はいるだろう。それにオークキングのように、従来の設定値を大幅に上回る魔物も存在する可能性は高い。


 やはりもっと鍛えないとダメだな。


 「―――さま、ご主人様? どうしたです?」

 うおっ! 目の前にでかいタユンポヨンが!?

 ララが食事中に固まってしまった俺を心配してくれたらしい。
 いかんな、考えすぎていたようだ。気を付けよう。

 あとララのアレを見るのもやめよう。

 アレは15歳の男子にとっては禁断の果実だ。



 ◇◇◇



 学園に通って1週間が経った。


 「アビロっち~~そのお肉一切れちょうだ~い」
 「おう、いいぞウルネラ。好きなの取ってくれ」
 「あ、アビロス君……わたしもいいかな……その」
 「おう、いいぞナリサ。遠慮なんかすんな」
 「あ、アビロス! は、はしたないですよ! そ、その……ズルい……」
 「ステラも欲しいんだな? ほら、入れてやるから皿を出してくれ」
 「ち、違っ……うぅう、ありがとうアビロス……」
 「ハ~ハッハ、面白いやつらだ! どれわたしも貰うとするか!」

 こら、第三王女。皿ごと持っていくんじゃない。

 と、平和そのものな会話が繰り広げられているここは、学園ロブアカの食堂である。
 学食というやつだ。

 なんだかよくわからんが、俺は入学初日に作ったチームで昼飯を食べるようになった。

 マリーナはステラと同じく俺を破滅させるキャラの1人だが、それは俺がいらんことをしまくらなければ、そこまで警戒する必要も無い気がする。

 ステラとの関係性も良好だし。マリーナとも大丈夫だろ。というかマリーナから絡んでくるからどのみち回避のしようがないし。

 ちなみに俺の食べているのは焼肉定食だ。まあ随分と肉が無くなったが、細かいことは気にしない。

 ここはゲーム世界だから、前世の現代食堂にあるようなメニューが存在する。
 いや、普通にありがたいよ。ファンタジーな世界で、焼肉とか唐揚げが食べられるんだから。


 とにかく俺は、このみんなで昼飯の時間が結構お気に入りになっている。


 「おんやぁ~~なんか臭いなぁ~~平民の臭いにおいがするなぁ~~」

 ―――お気に入りの時間をぶち壊す奴が現れやがった。
 楽しそうだった、ナリサとウルネラの顔が一瞬にして曇る。

 たしか、ゲズルだったか。どっかの伯爵家の息子だったな。

 学園内の一定貴族は平民を毛嫌いしている。
 まあわからんでもない。彼らの多くは、そういう風に教育されて育ったのだから。

 「気にするな」

 こんな奴に関わる必要はないので、俺はナリサとウルネラに声をかける。

 王女と聖女がいるんだ。まあイヤミ程度で去るだろう。俺も一応4大貴族だし。

 「へぇえ~~アビロスさまじゃねぇか~~なに平民なんかの肩持ってんすかね~~。あんたはクソだが貴族の誇りだけは捨ててないと思ったけどなぁ~~」

 去らんか……

 悪いが悪役アビロスは、俺が転生した時に消えたんだよ。

 にしても、こいつ頭が悪いな。王女や聖女が、なぜ一緒に彼女たちと食べているか考えないのか?
 ここは学園だぞ。

 友人だからに―――

 「友人だからです!」

 気付いたら、ステラが仁王立ちで俺の言いたいことをぶちかましていた。
 あと、マリーナが凄い殺気をゲスルに飛ばしている。

 「大切な友人と楽しく食事をして何がおかしいんですかっ! 明確な理由があるなら、いますぐ答えてください!」

 「い、いや……だって聖女さま。そいつらは……」

 「聖女ではなく、ステラとして聞いています! さあ答えてください!」

 ハハッ、さすがステラだ。

 ステラの迫力に押されて、ゲズルは何も言えなくなってしまっている。


 ―――さて、最後の恨みぐらいは俺に買わせてもらうか。


 「おまえの負けだよゲズル。大人しく引き下がれ。ここは食事をする場所だ。それとも外で昨日の続きをするか?」

 こいつとは直接やっていないが、俺とクレスの戦いを見ているはずだ。

 「くっ……アビロス。あまり調子にのるなよ……」

 ゲズルは捨て台詞を吐いて、その場を去っていった。

 「「あ、ありがとう……みんな」」

 ナリサとウルネラがホッとした表情と、申し訳なさそうな表情を同時に見せた。

 平民として学園に入った時点で、この手の嫌がらせは大体想定済なのであろう。
 学園も生徒平等を掲げてはいるが、現実的には身分の差が差別につながることは多々ある。

 だから彼女たちも、ある程度の事は我慢しようと決めていたのかもしれない。

 「いや、気にするな。縁あって友人になったんだ。困った時はお互い様さ」
 「そうですね。ここは学ぶ場であって、出自を威張る場ではありませんからね」

 ステラの言う通りだ。

 みんな必死に努力してこのロブアカに入ったんだ。

 そんな頑張りをクソが台無しにしていい訳がない。

 ゲーム主人公のブレイルならステラのように速攻でゲズルに立ち向かったのだろうな。
 俺には主人公ムーブは似合わんらしいな。だが恨みだけは買いやすい、やはり悪役アビロスだ。

 しかしブレイル……


 なんでおまえが学園にいないんだよ。


 主人公が入園しない学園ってどうなるんだ?
 ストーリー改変っていうか、もはや違うゲームになってるんじゃないかと思うよ。

 「ああ! アビロス君~~~」

 んん? この声は!?

 「やあ! 僕も一緒に食べていい?」
 「お……おう。もちろんだ……」

 え? どういうこと?
 学食は学園生徒しか使えないはずだぞ。


 なんでおまえが学食にいるんだ!? 


 試験に落ちたんじゃなかったのか?