「―――えいっ!」

 会場から大歓声と凄まじい拍手が巻き起こる。
 ステラの勝利だ。

 俺の実技試験は終了したので、ステラの試合を観戦していたのだ。

 鳴りやまない賞賛の声、やっぱすげぇ人気だな。メインヒロインムーブ全開の聖女さま。

 「ハ~ハッハ! ステラは随分と面白くなったじゃないか」
 「マリーナおうじょ……じゃないマリーナ」
 「うむ、ステラの対戦相手も決して弱くはなかったがな」
 「ええ、そうですね」

 そう、ステラの対戦相手は攻撃魔法に長けた子だった。
 ステラは聖属性魔法という強力な魔法を持っているが、攻撃に特化した魔法ではない。

 だから魔法戦は互角の攻防を繰りひろげた。

 そして最後に勝負を決めたのは、聖杖での打撃。
 しかもラビア先生から貰った、【純白の女神聖杖】で強烈なゴツンをかました。

 あの杖はステラの為にあるようなものだ。
 聖属性魔力を高めるだけなく、後々ステラにしか使えない魔法が多数使えるようになる。

 「ハハッ、今後の成長が楽しみだな。ステラのやつ」
 「そうか、彼女はまだまだ成長するのか……」

 おっと、なんだか嬉しくなってつい口にしてまった。

 「だが、まだまだ成長するのはアビロス。おまえもだろう?」
 「どうでしょうね」

 俺はなんとなく返答をはぐらかした。
 死ぬほど努力をしたので、簡単に負ける気はない……が。

 俺の目の前にいるマリーナやステラといったメインヒロインたちは、とんでもない成長伸びしろがある。
 ゲーム主人公も同じく、とんでもない成長力を秘めている。

 対して俺は単なるやられ悪役。

 でもな……5年も死ぬ気で鍛えるとある感情が湧いてくるんだよな。


 ―――負けたくねぇ。


 「ハ~ハッハ! いい目だ! やっぱりわたしはお前が好きだよ!」

 んん? 何の話? マリーナが俺の肩をバシバシ叩きながら高笑いした。

 「だが、わたしもまだまだ成長するかならな、いや……しなければならない」

 そう言ったマリーナの顔は戦闘狂というよりは、何かを改めて決意したような感じがした。目的を必ず達成する決意がこもったような。

 「おまえが学園に来るのを楽しみにしているぞ!」

 そう言うと王女さまは颯爽と去って行った。



 ◇◇◇



 丸一日かけての試験は終了した。
 あとは帰路につくだけなんだが……

 「ちょっと直してきます」
 「なおす? なにを??」
 「アビロス、私の顔をみてわかりませんか?」
 「ええ? いつも通り可愛いけどな」

 「そ、そうなの!? 嬉しぃ……じゃなくて! はあ……あなたも貴族なんですから。もう少し勉強が必要ですね」

 そう言って、個室に去って行った。

 ふむ、どうやら化粧の事らしい。
 なるほど、たしかにステラは貴族令嬢だ。しかも4大貴族の。
 帰り道も王都を歩くのだから、ある程度は整えないといけないのだろう。いや、女性は大変だ。

 さて、俺はここにボッチで突っ立っているのもなんだから、周辺をブラブラと歩いてみる。

 そこへ背後から急接近する気配―――

 「―――おっと!」
 「ご、ごめんなさい! 僕、ちゃんと前を見てなくて!」


 おい―――こいつ。


 まさか……


 「ああ、大丈夫だ。気にするな」
 「ありがとうございます! あ、あれ? あなたはアビロスさんですか?」

 いやいや、こんなところで出会うか?

 「そうだが……」
 「うわ~~やっぱりだ! 試合見てました! 凄く強くって! カッコ良くて!」

 いや、強くてカッコいいのはおまえだろ。

 「あ、僕の名前は―――」

 知ってるさ、いやというほどおまえでプレイしたからな。


 ―――ブレイル・ゴードン


 このゲーム世界の主人公さまだ。


 まじかよ。でもそりゃそうか。ブレイルも入園試験を受けに来ていたんだった。
 しかし、こんなタイミングで会うとはなぁ。

 急にペラペラと会話をはじめるブレイル。

 にしても、ちょっと小さくないか? 背丈も俺より低いぞ……
 俺の知っているゲーム原作の体型となんか違う。

 ま、まあいいか。ゲーム主人公だからな。小さかろうが主人公ムーブするはずだ。

 「それで、アビロスさん? いいですか?」
 「お、おう! どうした? いいぞ」

 やべぇ、勢いでいいとか言ってしまった。色々衝撃的でこいつの話が上の空だったよ。

 ところで、いいってなにがだ?

 「うわ~~ありがとう! 今日から僕たち友達だね! アビロス君って呼んでいい?」
 「あ、ああ。構わんが」

 んん? どういうこと?

 「僕、アビロス君みたいになれるように頑張るよ! じゃあ、バイト行かないと」

 そう言うと、ブレイルは純粋無垢な笑顔を見せて走り去っていった。

 試験受けたらすぐバイトだと?
 なんだこれ? 主人公にそんな設定あったかな?

 いや、ちょっと待て。

 もっと重要な事を見落としているぞ俺。

 とてつもなく大事な事だ。

 もしかして、俺はお友達になってしまったのか……


 ――――――悪役アビロス最大の破滅原因であるゲーム主人公と。


 え? これ普通にヤバくない?