「フゴォオオオ! お、オマエキライ! はやくコロシテ~~オンナタノシム~~」

 オークキングが右腕を振り上げて、ドシドシとこちらへ迫って来る。

 ―――ふぅうう

 俺は魔力を練り始めるが、やはりいつもとは違う感覚だ。

 原作では、ステラの聖属性とゲーム主人公の光属性が融合して、神光の魔力を発現させる。
 光りをさらに強化するみたいな感じだ。

 だが俺は闇属性の【闇魔法】だ。

 普通に考えて聖属性と真逆だし、むしろ反発するような気がする。

 が―――


 なんかわからんが、力が噴き出してくる!


 「フゴォオオオ! ツブレロぉおおお!」

 オークキングの強烈な右ストレートに対して、俺も闇魔法の打撃で迎撃する。

 「―――重力付与拳(グラビティパンチ)!」

 が俺が繰り出した瞬間、魔法の術式に異変が起こる。
 ―――俺の繰り出した【闇魔法】が書き換わる!?

 「―――重力付与深淵拳(グラビティアビスパンチ)!!」

 「ブギャァアアアア!」

 俺の繰り出したパンチは、オークキングの拳を潰してその勢いのままダンジョンの壁に大きな穴をあけた。

 な、なんだこれ!?

 「すげぇ……」

 【深淵】ってなんだ? より深い闇ってことか? もしかして俺の【闇魔法】が進化したのか。


 「フゴォオオオ! イデェエエ~~! ごのヤロウ!!」

 いずれにせよ、今の一撃でオークキングに大きなダメージを与えたと同時に、怒りはマックスに達したようだ。


 「フゴォオオオ! ミンチにしてやる~~そのあとにオンナタノシム!」

 土属性魔法で自らの身体に岩を張り付け、猛烈な勢いで突進してくるキングオーク。

 元々高かった耐久性をさらに上げての体当たりか! 

 にしても……タノシムだと?

 『ざけんなぁあ!! 俺様のステラをぉおおおお! オークごときにやるかよ!』

 俺の口から悪役アビロスの声が響いた。

 そうだな、今回ばかりはお前に同意だよ。


 ステラは――――――おまえなんかには、やらん!!


 「―――ぬぅおおおおお!」

 俺は目を閉じて、深淵の魔力を練り込んでいく。
 新しい術式が俺の頭に浮かんできた。俺の身体からありったけの魔力が抜けていくの感じる。


 「深淵の闇よ! その黒き刃にて抗う者を引き裂け! 
 ――――――八つ裂き黒輪魔法(ダークアビスリング)!!」


 巨大な黒い光輪が、禍々しい闇を放ちながら突進してくるオークキングに直撃する。


 黒い光輪の刃は、オークキングの頭から体の中心を両断して、なお勢いを失わずにそのままダンジョンの壁を削って奥へと消えて行った。

 最後の断末魔さえ発することもなく、左右に分かれた肉片と化したオークキング。


 「やべぇええ……とんでもない威力だぞこれ」


 あれほど、俺とステラが全力の一撃を与えてもケロッとしていたのに。

 すげぇ……しかし、魔力の消費量が半端ない。ステラのおかげで全回復したはずなのに、全ての魔力を使い果たしてしまった。
 今の俺じゃ連発なんてとてもできないな。使いこなすにはもっと鍛えないと。

 「やりましたね! 凄いですアビロス!」

 ステラが俺の手を取りニッコリと微笑む。

 「ああ、これもステラのおかげだ。助かったよ」
 「え……っと。その話はあまりしないでください……」

 あ! そうだった。ステラとアレしたんだったよ。

 「わ、私も緊急事態だったから! その……えと。とにかくアビロスが無事で良かった……です」
 「お、おう……凄い力が出せたよ。なんだか新しい魔法も使えたし」

 「そうです! アビロスなんですかあの魔力は! 感じたことのない魔力でした」

 互いに無理やり話題を変えようとしてる感は否めないが、俺は「聖女の口づけ」によって何かしらの力が解放されたことは間違いないだろう。

 「そうだな、いつもより深い闇の魔力を感じたよ。【深淵闇魔法】とでも言えばいいのか」
 「ええぇ……【深淵闇魔法】って。まあそこはいいとして……アビロス!」

 ステラが、そのかわいい顔をグイと寄せてきた。

 「最後に放ったあの魔法……えっと」
 「八つ裂き黒輪魔法(ダークアビスリング)だろ」

 全てを八つ裂きにする黒い光輪。これは自信作だ。前世で言うところの巨人ヒーローがスパーンと放つやつをイメージした。あと、某人気バトルアニメのつるんとした子の技も参考にした。

 「そう! それです! なんですその名前!」
 「ええ……カッコいいだろう?」

 「もっと明るい名前がいいです! 私のホーリーリングみたいな感じの!」
 「いやいや、俺は闇属性だぞ。ホーリーとか変だろ」

 俺の技名が気にくわないだと!?
 いやいやいや、俺は悪役アビロスだぞ。ホーリーなんてありえん!

 「なに言ってるんですか! アビロスは以前とは変わったんです! 優しくなったし! 人の気持ちを考えるようになったし、ちょっとカッコイイ感じになったし……あれ? 何を言ってるの私!? えと……とにかくそんな闇とかにこだわらないでということを言いたくて……」

 頬を赤らめて目を逸らす聖女。俺の手を握る力がギュッと強くなった。

 よくわからんが、どうやら俺は褒められたようだ。
 てことにしておこう、うん。


 にしてもオークキング……強かったな。


 俺の原作知識とは全く異なる強さだった。ストーリー展開に関しても、ゲーム主人公の覚醒イベントを俺がやってしまった。これは大きな改変が起こりそうだし。
 ますます不測の事態に対応する力が必要になったってことだ。

 力が無いと、破滅回避する前になにかしらのイベントで死亡する可能性も高い。
 イベントの難易度も、今回のように俺の知っているものと同じとは限らないしな。


 やるしかないか……俺はもっと鍛えるぞ!