俺と聖女ステラは、オークキング討伐のためオークダンジョンに潜っている。ラビア先生の卒業試験だ。

 「オ、オンナ~~人間のオンナ~~」
 「グフグフ~美味そう~~グフグフ~」

 『ゲヘヘヘ~~聖女~~俺様のオンナ~~ゲヘヘへ~』

 そしてダンジョン1階層に入った瞬間これである。
 複数のオークが嬉々としてこちらへ押し寄せてくる。

 「ちょっと! いまオークの言葉にまじってアビロスもなんか言ってませんでした?」
 「何言ってるんだ! そんなわけないだろ、そんな事よりもこいつらをなんとかするぞ!」

 あぶねぇ……俺の中のゲーム悪役アビロスがいらんことを口走りやがった。
 オークと変わんねぇセリフじゃないか。

 しかしそんなことより―――

 「ステラ! 前衛は俺が引き受ける! 後方支援たのめるか!」
 「わかったわ! 任せなさい! こんな奴らに負けないんだから!」

 よし! 彼女がどういう鍛錬を受けたのか知らないが、原作では後方支援がメインだった。
 これが最適のフォーメーションだろう。

 俺たちが陣形を組み終わると同時に、オークの先頭が俺と接触する。
 緑色のオーク、ノーマルオークだ。つまり下位種族たち。


 さ~て、5年の成果を見せてやるか。


 「漆黒の闇よ、その禍々しき黒で押しつぶせ!
 ―――重力増魔法(グラビティアップ)!」

 詠唱と同時に地を蹴り、眼前のオークとの間合いを一気に詰める。

 「重力付与剣(グラビティソード)―――!」

 重力で加速された刃が、オークを頭上から叩き割る。
 さらにその後ろからこん棒を振り上げるオークにも、同じ斬撃を続けて見舞う。

 「「グガッ……お、オンナァ……」」

 2体のオークが重なるようにその場に崩れ落ちた。

 「ちっ……死ぬときまで女って、どんだけ飢えてるんだよ。こいつら」


 ステラの方に視線を向けると。

 「聖なる光よ! 敵を撃て!
 ―――聖光弾魔法(ホーリーバレット)!」

 3つの白色閃光弾が、後方のオークたちの頭を吹き飛ばす。

 「どこ見てるんです、アビロス! 私の心配は無用です! こんな低級オークごときに遅れは取りません!」

 ステラはそう言うと、次の魔法詠唱を開始してすぐに放つ。
 ふたたび後方のオーク数体が崩れ落ちていく。

 彼女は聖属性もちだ。だから全ての魔法に聖魔力のバフがかかる。
 だがなんの訓練もなしに、これほどの威力と精度を誇る魔法を連発できるはずがない。

 頑張ったんだな……ラビア先生の地獄のしごきを乗り切ってきたんだろう。


 ―――ハハッ、頼もしいぜ、聖女さま。


 なら、俺も―――

 こんなところでモタモタしてられねぇよな!

 「おらぁあああ!」

 重力の斬撃を連発してオークたちをなぎ倒し、道を切り開く。

 暫く斬りまくっていたら、オークたちがやみくもに前に出て来なくなった。
 さすがに警戒しはじめたようだ。

 が―――

 それは悪手だぜぇ!


 「漆黒の闇よ、その黒き炎の礫を浴びせろ!
 ―――連続黒炎球魔法(ブラックボールガトリング)!」


 黒炎の弾丸がオークたちに向かって降り注ぐ。

 「「「グアァアアア!  ア、アツイぃいいいい!」」」

 オークたちは仲間や地面に黒炎を擦り付けて消そうと暴れはじめた。

 「ハハッ! 無駄だ! 俺の黒炎は相手を焼き尽くすまで消えん!」

 俺の新たに習得した【闇魔法】のひとつだ。

 俺の黒炎は闇の炎だ。ちょっとやそっとでは消すことはできない。
 ノーマルオークたちではどうしようもないだろう。

 そして―――

 「「「「「「グギュワァアアア!」」」」」」

 密着したオークたちから悲鳴があがる。

 俺の黒炎は延焼する。そう―――燃え移るのだ。

 やがてオークの群れが静かになった。


 「まあ、アビロス凄いですね……黒い炎なんて見たことないわ」

 後ろにいるステラが驚きの声をあげた。

 そりゃそうだ、アビロスの【闇魔法】はゲーム設定上だけのもの。制作会社は単に文字情報としていれているだけのものだ。
 だが、その設定がこのゲーム世界では生きている。

 俺だけが使える唯一無二の魔法として。

 綺麗な銀髪と法衣を揺らしてこちらに駆けてくるステラ。

 やっぱメインヒロインだよなぁ……超絶美少女がすぎる。

 ―――!?

 オークの死体の山から、こん棒がズッと突き出てきた。

 マズいっ! 運よく黒炎を逃れたやつがいたか!?

 「ステラ! 気を付けろ……」


 「―――えいっ!」


 俺が叫び終わる前に、聖杖で襲い来るオークの頭を殴りつける聖女さま。
 掛け声こそ以前と同じくかわいいが、聖魔力がぎっしり詰まった一撃だ。

 打撃の刹那、純白の輝きを周辺に放ったあと、オークはその場に崩れ落ち肉体自体がシュワァアアと消滅していった。

 パンパンと法衣の埃を払うステラ。

 「言っておきますが、後方支援だけじゃないですよ! 私も頑張ったんですから!」
 「ああ、最高だステラ! このまま1階層を突っ切るぞ!」



 ◇◇◇



 そのまま俺たちはオークを蹴散らして、ダンジョン2階層への階段まで進むことが出来た。

 「さて、今日はここまでだな。野営の準備をするぞ」
 「ええアビロス、明日は2階層ね。あ~~お腹空きました~~」

 いいな、ステラもまだまだ余裕がある。

 オークダンジョンは広い。
 さらに複数の階層に分かれており、深く潜るほど出現するオークも手強くなる。
 なので、適時休息は取らなければいけない。

 俺たちは作業を分担して野営の準備にかかった。

 ステラは食事だ。教会にも通っていたらしく、炊事当番などで鍛えられたから任せなさい!とのことだ。
 俺は料理はできないからな。といっても携帯食を水で戻したりと、やることは限られるのだろうが。

 一方の俺は……

 四隅を杭でしっかり固定してと……よし!

 テント設営だ。これは俺の得意作業だ。ラビア先生には何度も魔物の森で寝泊まりさせられたからな。

 さて、これで設営完了だ。我ながら素晴らしい出来だな。
 前世ではアウトドアなどに縁のない人間だったが、慣れって凄いと思うよ。

 「あ、アビロス……」

 ステラも料理を終えたのか、なぜか俺のテントを見て固まっていた。

 「んん? どうしたんだ?」

 なんだ? もしかして俺の設営が気にくわなかったとかか? いや、俺も何回もやってるんだ。そこまでおかしなことはないだろ? 

 じゃあ、なに?

 「ちょ……」
 「ちょ?」

 「―――ちょっと! なんでテント1つなんですか!!」


 ああ……そういや忘れてた……俺の分しか持ってきてなかった……


 ―――おい、どうするんだよ。これ。