タイトル:
『深代村の忌まわしい話』

投稿者:
代理人

投稿日:
2025/10/28



 本当は『SANチェック失敗してアイデア成功しちゃった話』にコメントで書き込もうと思っておりました。
 しかし、コメントで書くと文字数制限に引っ掛かりそうだったこと、単純に見づらくなることが想定されたので、やむなく新しく記事を書かせてもらうことにした次第です。

 わたくしが誰であるのかの詮索は御無用でお願いします。
 ただ、祖母が深代村の人間であると言っておきます。祖母は深代村を出て上京し、東京で祖父と一緒になりました。その時、嫌がる祖母に曾祖母は無理やり人形を押し付けたのだそうです。何がなんでもこの呪いからは逃げられない。この人形を持っていかなかったとしても、結局呪いで死んでしまうだけなのだからと。むしろ、儀式をやる時に必ずこの人形が必要になるので、必ず持っていけと言われたのだそうです。
 みみさん人形の話、に関わる記事は全て読ませていただきました。
 本当はもう関わり合いになりたくない話だったので沈黙しようと思ったのですが、深代村の惨劇を知っている人間は恐らく数が少ないでしょうし、わたくしが語らねば真相は闇の中となりましょう。ですので、わたくしが知る限りのこと、全てお話させていただけたらと思います。

 そもそもの発端は、室町時代くらいのに深代村ができた、その頃のことでございました。
 深代村には明確な身分が定められておりまして、御三家と呼ばれた三つの家の者達は村の頂点、いわば王様のようなものだったのでございます。村の者達は何を言われても、何をされても、御三家の者には逆らえないという状況だったのだと聞き及んでおります。
 ある日、それはそれは美しい娘が村に生まれました。
 名前をおよう、と言ったそうです。おようは他の娘たちと比べて体が大きく、とても発育が良く、十歳を数える頃には誰が見ても振り向くような美少女になっていたのだとか。
 ある日、御三家の男の一人が言いました。おようが欲しい、あれを自分たちのものにしたい、と。
 当時の村には警察なんてものもございませんでしたし、御三家の言葉は絶対と言われております。村の者達はおようの両親を脅し、金を渡し、無理矢理おようを引き離して監禁してしまったのです。

 おようにとって、まさに地獄の日々が始まりました。
 おようが欲しいと言った御三家の男は、妻が欲しかったのではありません。美しい、自分だけのお人形が欲しかったに過ぎないのです。

 おようは毎日のように男の玩具となりました。そしてたった十歳で最初の子供を身ごもったのですが――おようで性欲を発散したいだけの男にとっては、子供なんぞ邪魔になるだけ。もっと言えば、正式な婚約者なんぞもおりましたから、性奴隷の子供なんぞいても面倒になるだけです。
 ゆえに、男はおようの腹を蹴って、むりやり流産させてしまいました。それだけではありません。おようの心持ちが悪いから子なんぞ身ごもるのだと激しく罵倒し、暴力を奮い、自分以外の男たちにもしつけと称しておようを凌辱するようになったのです。
 おようは何度も何度も妊娠と流産を繰り返しました。そして、何の気紛れか、一度だけ男はおように出産を許したのです。その頃になると、おようの美しかった姿は見る影もなくやつれ、ボロボロとなり、とても醜い有様となってしまっていたようでした。多分そろそろ飽きて、代わりが欲しかったのでしょう。
 おようは双子の男の子と女の子を産んで、死にました。生まれた子供達はどちらもおようとよく似て美しい子であったので、その瞬間彼らの運命もまた決まってしまったのでございます。少女も、少年も、おようと同じように辱められ、御三家の玩具として扱われる人生しかありませんでした。狂った宴には男のみならず女たちも参加したと言います。日頃のストレスを、何をやっても許される玩具で発散する、それが常態化していたのでしょう。
 そしてそれが、恐ろしいことに何代もに渡って繰り返されたのでございます。おようの血筋の子はみな、おようと同じように性奴隷かつサンドバックにされて若くして死んでいく。それが当然のさだめのでございました。
 そのおぞましい因習が途絶えたのは、おようの最期の子である少年が殺された直後のことです。江戸の末期頃のことだったとか。
 御三家の者達が次々病で倒れたのだそうです。全身に謎の赤い発疹が出て死んでいくようになったのでございます。その症状は梅毒に似ていたようですが、深代村の神主は梅毒ではなく呪いによるものだと断言しました。

『これは、お前たち御三家の罪が産んだケモノである。おようとその子らが、お前たちに憎しみや恨みを向けないと何故思うのか。……お前たちが生き延びる方法はただ一つ。その恨みを満足させ続けるしかない。いつか、御三家の血が完全に途絶えるその時まで……』

 御三家の血を継いだ子は、一代につき最低一人、生贄を捧げなければならぬ。
 おようの血を継いだ最後の少年の骨を入れた依り代となる人形。それを、おようが最初に身ごもった年――十歳以上になった娘の腹に埋め込んで、産み直しの儀式をさせなければならないと。
 人形は娘の腹を破裂させるくらいの大きさになって再びこの世に生まれ落ちる。
 生まれ落ちた人形は、その次の代の生贄が捧げられる時に再び小さくなり、またその生贄の子宮を破壊して大きくなる。
 血と臓物にまみれた人形はその都度作り直してもいい。ただし、核となっている少年の骨のカケラは殻らず人形の中心にすえなければいけない――。
 この儀式を達成されないまま、その代の全ての娘が二十歳を超えたらその時は、それまで該当の人形に触れた者全てが気が狂って死ぬであろう、と。

 唯一不幸中の幸いなのは、期限がやや長く設定されていることでしょう。
 わたくしの母は、念のため十歳になった女の子はすぐ生贄に捧げるようにと祖母から教えられていたそうですが、実際は二十歳になる前ならば問題ないそうです。

 おようは奴隷であった頃、きまぐれに両の耳を引きちぎられて、みみさん、みみさんと笑われていたそうです。
 それにより、人形もいつしか『みみさまの人形』と呼ばれることが多く、みみさん人形の語源はそれであったのでしょう。

 残念ながら、神社の神主様であっても、この呪いを解く方法はないと言われてしまいました。あまりにも恨みが強すぎて、とてもじゃないが背負いきれるものではないからと。
 人形に触れたものたちの命を救うためにはただ一つ、儀式を完了するしか方法がないのだそうです。

 ゆえに――とても、とても残念ですが、わたくしはこう言わざるをえません。
 ナミ=もちごめさん。ホウキボシさん。……カナコさんというお友達に、姉妹はいるのでしょうか?伯母さんの家は?
 恐らく、少なくとも伯母さんの家と、人形を引き取ってしまったあなたの御父上の家は、次の代の生贄を捧げなければいけない立場になっているはずです。伯父さんの家も危ないでしょう。唯一それが見逃されるのは、子供がいない=その血が絶えることが確定した時だけです。男兄弟しかいない状況になった時はどうなるのかわかりませんが、わたくしの祖母によれば、この家の血筋では必ず最低一人は女の子が生まれるようになっているとのこと。生贄にするため、おようが何かに働きかけてそうしているのでしょうか。
 もし、もし、カナコさんに姉妹がいないのなら、恐らく儀式はカナコさんがやるしかありません。
 とても残酷ですが、そうしなければ人形に触った者全員が恐ろしい死に方をするのは間違いないのです。

 それから、妻がおかしくなった話、を投稿した砂時計さん。
 もし娘さんの命を守りたいなら、あなたは奥さんともう一人子供を作るしかないのです。その子に、犠牲を背負わせるしかないのです。

 どうか、ご決断を。
 たとえそれが、さらに次の代に呪いを背負わせることであったとしても――今生きているすべての者達の命には代えられない、そうでございましょう?