――これは、とある怪談投稿サイトに投稿されたいくつかの記録を抜粋したものである。



タイトル:
『みみさん人形の話』

投稿者:
もちごめ

投稿日:
2025/10/15


 こういうサイトに投稿するのは初めてなので失礼があったらすみません。
 怪談と言っていいのか微妙なくらい、ほんのり不思議なくらいな話なんですけど、せっかくなので書き込みさせてください。このサイトにはすっごく面白い怪談がたくさんあって、いつか私も書き込みさせてもらいたいなとずっと思ってたんです。

 私はとある県立高校に通っている女子高校生です。

 先日、クラスメートの友達にある相談を受けました。友達の名前は、仮に〝カナコちゃん〟としておきます。ちょっと前に、カナコちゃんは田舎に住んでいるお祖母ちゃんが亡くなって、親戚中でその形見分けをすることになったらしいのです。
 そのお祖母ちゃんっていうのがまあ、すんんごおおおおおおおおおおい田舎の、そりゃあもう大きな家に一人で住んでいるお祖母ちゃんでして。とても元気で、広い家の掃除もバリバリこなす人だったようなのですが(ちなみにお祖父ちゃんは随分昔に亡くなっているそうです)、先日八十八歳で突然ぽっくり亡くなってしまったのだとか。
 そのお祖母ちゃんの家があんまりにも大きくて古いので、片付けをするだけでも大変だったそうです。もう老朽化も進んでいる古い家だし、息子や娘、孫たちはみんな村を離れてしまっています。誰も住まなくなった家をほったらかしにするのも良くないことなので、みんなで片付けて綺麗にしたあとで取り壊して、土地ごと売ろうということで話が落ち着きました。売ったお金を、お祖母ちゃんの子供である長女、長男、次男の三人で分けようということになったのですね。ちなみに、私のお父さんは次男、三姉弟の末っ子になります。
 私もこの間、その掃除に駆り出されたのですが――お祖母ちゃんの寝室の奥、金庫の中から(金庫の番号がお祖父ちゃんの誕生日だったので開けられたようです)出てきたものがあったそうで。

 それが、この話のタイトルにさせていただいた『みみさん人形』です。

 ふわふわのぬいぐるみみたいな、布と紐で出来たお人形?なのですが――ちょっと古ぼけていて、あちこちほつれています。髪は黒くて太い毛糸みたいなものでできていて、肌は肌色のフェルトで、目は赤いボタンで。デザイン的には、あの市松人形をちょっと可愛くしたかんじでしょうか。着物姿の、可愛い女の子の人形です。
 それを見て、次男でありお父さんのお兄さんであるタケオ伯父さん(仮名)が言いました。このお人形、見たことがある、と。

「これ、母さんが大事にしてた人形だ。おれ、見たことあるよ懐かしいなあ。まさか金庫から出て来るとは」
「そうなの?伯父さん」
「うん。なんでも、母さんが、そのまた母さんから引き継いだものらしい。昔はもっとボロボロで、あんまりにも酷い状態だったから丁寧に作り直したって言ってた。うちの家に代々伝わる大事な人形で、女の子に可愛がってもらう必要があるとか……そんなこと言ってたっけなあ」

 その人形のことを、みみさま?とかみみさん?とかお祖母ちゃんは呼んでいたそうです。というわけで、私もとりあえずその子のことをみみさん人形と呼ばせて貰うことにしました。まあ、伯父さんの記憶も相当うろ覚えのようなので、実際の呼び名は違っていたのかもしれませんが。
 すると伯父さんのお姉さん、伯母さんがすごく微妙な顔をしてこう言ったのです。

「あー……思い出したわ、ソレ。わたしがこの家を出てお嫁に言うとき、母さんと喧嘩になったのよ」

 喧嘩。それを聞いて驚きました。お祖母ちゃんは穏やかな人ですし、伯母さんとの仲も良好でした。喧嘩したところなんていっぺんも見たことがありません。

「なんで喧嘩になったかっていうと、そのお人形を持っていけってしつこく言ったからなのよね。わたし、この通りの性格なもんだから小さい頃からお人形遊びとか全然興味なくって。しかも、その時このお人形、直される前で相当汚かったし……今より全然不気味な姿だったのよ。なんでそんな古いお人形持って嫁に行かないといけないんだって言ったら、母さんカンカンに怒ってね」
「え、あのお祖母ちゃんがそんなに怒ったの!?信じられない……」
「そーなのよカナコ。わたしもあっけにとられちゃって。……それがますます、なんかこう、気味が悪いって思っちゃったっていうかね?だから、余計意地になっちゃって。結局お人形持たずに東京に出ちゃったってわけ。大事っていうなら、どうして大事な人形なのか教えてほしいし、そういうものは大事にしてくれる母さんの元にあった方が絶対幸せだっていうのにねー」

 まさか金庫の中に保管するほどとはね、と伯母さんはそう言って話を締めくくったのだとか。
 みみさん人形について、それ以上知っている人は誰もいませんでした。
 金庫に入れるほど大事な人形だというのなら、簡単に処分するのもなんだかしのびない。本来ならお祖母ちゃんの棺に入れてあげるべきだったのかもしれないけれど、人形が出てきたのが葬儀のずっと後だったのでそういうわけにもいかなかった、と。そもそもお人形って、処分に困るものなんですよね。粗末にすると祟りそうじゃないですか。
 それで結局、お人形を誰が引き取るかと言う話になったんですけど――いかんせん、サイズが通常のぬいぐるみくらいあるので、場所も取るのですよね。お人形に興味のない家ばかりだし、安易に売るわけにもいかないし(ていうか、売れないでしょうしね)、とりあえずカナコちゃんの家で預かることになってしまったそうです。
 ただ、カナコちゃんはとっても怖がりな女の子なのでどうにもそのお人形を不気味に感じてしまうらしくって、私に相談してきたのでした。

「気のせいだと思うんだけどね?なんかこう、夜中に場所がちょっと動いているような気がするの。リビングの、パソコンの横に置いてたんだけど、朝起きたらパソコンの上に乗ってたりとか、テレビの裏に落ちてたりするんだよね」
「それ、寝ぼけて動かしてるとかじゃなくて?夜中にトイレに行った時に暗くて見えなくて触っちゃったりとか」
「そんなことないと思う。ていうか、引き取ってから一週間、ずーと動いてる気がするの」

 カナコちゃんは大人しい女の子ですが、最近は確かにより暗くなったというか、顔色が良くないように思われました。
 ひょっとして呪いの人形だとか、そういうオチがあるのだろうか。実は、オカルトとかおまじないにはちょっぴり興味がある私です。そこで、つい言ってしまったんです。

「今度カナコちゃんの家に遊びにいっていい?そのお人形、見せてほしいんだけど」

 私がそう言うと、カナコちゃんも一人で抱えていたくなかったのか、うんうんと頷きました。それで言ったのです。

「もちろんいいよ。ナミちゃん(仮名:私の名前です)なら、いつでも家に遊びにきていいし!もしお人形が気に入ったら、貰っていってくれてもいいよ。あの子だって、好きになってくれる人のところにいてほしいし、お父さんもお母さんもどうしようってなってたから許してくれると思う」
「さ、さすがに貰うところまでは……。まあ、とりあえず見せてよ。動くっていうのなら、生きてるのかもしれないし」

 生きている人形なんて面白い。友達になれたら嬉しい。その時、私が思ったのはそれだけのことでした。
 本当はお人形を実際に見に行ってからこの書き込みをするべきだったのかもしれません。でも、みみさん人形についてちょっと気になるので、どうしても早いうちに情報収集がしておきたかったんです。もし本当に生きている人形なら、悪いものではないとは言い切れません。
 というわけで、何か知っている人がいたら教えてください。
 私も新しい情報が手に入ったら、またここに書き込ませていただきます。