○全話から引き続き、本丸の一室。二人の夕飯風景。
前回からの流れを引き継ぐ。
織美が用意した質素な夕食。それを見た輝永は、何かを言いづらそうな様子。
織美は、輝永の様子に気付く。
織美(ひょっとして輝永さまに、この食事は粗末だったかも)
織美自身、早乙女城が貧しい城なことを自覚しているので、急に慌てふためいて食事のことにフォローを入れる。
織美「ご、ごめんなさい、輝永さま」「うちは決して裕福とは言えず、このような食事しか用意できなくて」「け、けど、今日は輝永さまのために、結納でいただいたこの品も」
唯一の贅沢品である「鯛の昆布巻き」のアップ。
織美「この『鯛の昆布巻き』は、縁起物である鯛を、昆布で包んだものです。それによって、日持ちするだけでなく、昆布の風味が鯛に染み込んで旨みに深みが増すんです」 「せっかくだから、皆で食べようと」小声で『私も、こんな贅沢品、食べるのは初めてですし」
取り繕うように、早口で解説する織美。
だが輝永は、あたふたする織美を宥めるように言う。
輝永「我が妻よ、俺様は食事が粗末かなどは、気にしておらぬ」
織美「えっ?」
輝永「愛おしいそなたが、準備してくれた食事だ。俺様にとっては全てが御馳走」「だが……」
輝永は自分の顔を指差す。そこには美しいが、動かない顎関節。
輝永「傀儡のこの体は、食事を必要としておらぬし、食うこともできぬ」
それを聞いて、織美は顔を真っ赤にする。
織美(私ったら……輝永さまの体のことを、何ひとつ考えもしないで)
そして慌てて言い訳をする。
織美「ご、ごめんなさい、そんなことも理解しないで。ひ、久しぶりに人と食事をができると思って、嬉しくてつい、輝永さまの分も」
輝永はそんな織美を愛おしげに見つめる。
輝永「我が妻が俺様との食事を楽しみにしてくれていた。それだけで心の飢えは満たされた」「良ければ、俺様の分も食って欲しい」
織美「えっ」
スッと御膳を織美に差し出す、輝永の配慮。織美は一瞬、躊躇するが、朝から何も食べていなかった彼女のお腹が、グーッとなる。
○織美の食事シーン
結局、織美は輝永の分も食べる。
山盛りのご飯を食べて、幸せそうな織美。貧乏なので、腹一杯食えるだけで十分幸せ。
その様子を見つめる輝永。
そして輝永は、箸を持ってみせるが、それは幼児のような、握り箸状態。
だが織美の箸使いのアップが写り、輝永が箸の使い方を見て学習していることを示唆。
織美があらかた食べ終わることには、輝永は器用に箸をカチカチさせ、箸使いをマスターしたことを示唆する。 *やや所在なさげ。箸が使えるようになったので、織美のために何かしたい。
そして輝永は、御膳に鯛の昆布巻きが残っていることに、気がつく。
輝永「それは先ほど言った結納の頂き物……縁起物のはずだが、食わぬのか?」
その指摘に、織美は恥ずかしそうに答える。
織美「このような贅沢なもの、次はいつ食べられるかわからないので……最後の楽しみにと。はしたないでしょうか?」
輝永「いや……そのようなことはない」
そして、堂々とした様子で、輝永は織美に提案する。
輝永「ところで、我が妻よ。そなたの幸せそうな表情を見ていて、俺様も気になることがあってな」
織美(私ってば、自分だけ美味しそうに食べて)
輝永「その縁起物を、俺様の手で、そなたに食べさせたいのだが」
唐突な提案に、織美はキョトンとする。
輝永「俺様には、ものを食す喜びはわからぬ。だが、我が妻がものを食すのを見ていると、喜びが込み上げてくる」「だから俺様にも手伝わせてほしい。そなたの幸せを」
そして、いきなりのアーンのコマ。
輝永は見て学んだ器用な箸使いで、織美の前に昆布巻きを差し出す。
自分にご飯を食べさせようとする美しい傀儡、というシュチュエーションに顔を赤らめる織美。
織美は目を閉じ、口を開くと、輝永に昆布巻きを食べさせてもらう。
餌をもらった小動物のように、もぐもぐする織美。
輝永「うまいか、我が妻よ」
食べ終わった織美は、嬉しそうに輝永にいう。
織美「美味しくて、そして幸せな味でした」
輝永「なればよし」
織美を見て、輝永はしみじみという。
輝永「俺様が眠りから覚めた瞬間、頭の中にあったのは、妖魔と戦うことしかなかった。だが目を開けた時、最初に見たのはそなたの美しい花嫁姿。以来、俺様の中では、そなたへの想いが募るばかり」「なぜこうも愛しく感じるのか」
そして輝永は、織美を見つめると席を立ち、織美との距離を詰める。
織美(えっ)
戸惑う織美。
そして輝永は、後ろに周り、優しく織美を抱きしめる。
輝永「そなたを見ていると、不思議な気持ちになる」
抱きしめられた織美は、初めての経験に顔を真っ赤に。
輝永「こうやって包み込むと、我が妻への愛おしさが、ますます深みを増してくる」
輝永に抱きしめられた織美は、人間と傀儡の体の違いに戸惑いながらも彼の好意を受け入れ、頬を染める。
モノローグ「背中に触れる、ひやりとした感触。」「人間のものとは違う、石のように硬く、氷のように冷たい腕。
ああ、この人はやっぱり『傀儡」なのだと、肌が教えてくれる」「 血の通わないその身体には、鼓動さえ聞こえない。
けれど、どうしてだろう……」「 凍えるほど冷たいはずのその腕が、 どんな熱よりも優しく、私の心を溶かしていく」
愛おしさを感じた織美は、抱きしめてくる輝永の手に、そっと自分のを重ねる。
モノローグ「体温のない貴方の腕の中が、 今、世界で一番、私にとって暖かい場所」
盛り上がりのオチとして、輝永は真顔で少しズレた例えを持ち出す。
輝永「そう、我々はまるで、昆布巻きのようだ」
それを聞いて織美は、プッ吹き出す。
輝永「何かおかしなことを言ったか?」
織美「いえ、そういうところが、輝永さまの愛おしいところです」
織美を優しく抱きしめる輝永は、ふと何かに気づく。
輝永「そういえば、我が妻よ。この昆布巻きは『皆で』で食べようと言ったな」
織美「……」
輝永「離れに追いやった奴らにも、食わせたのか」
織美「せ、せっかくですから、あのお二人にも」
輝永「あやつらなど、馬小屋で飼葉を食らって居れば良いのに……」
そう言って、輝永は織美を少し強く抱きしめ、自分の頬を織美の頬につける。
輝永「我が妻はどこまで寛容で優しいのか」
○場面は、誠之助と柊にあてがわれた小屋。
八畳一間ほどの大きさで、簡素ではあるが決してボロ小屋ではない。その小屋で、誠之助と柊の二人は、夕飯をとる。
用意された食事は、織美たちが食べたものと同じ。
誠之助は、食事内容に文句を言うこともなく、合掌して食べ始める。
そしてふと、お膳につけられた昆布巻きを箸でつまみ、躊躇なく口に入れる。 *ボンボンなので、織美のもてなしに気づかない
一方の柊は、部屋の隅で食事を取ろうとしている。
御前の上の飯は、焼き魚を飯に乗っけて、汁をかけてある。柊はマスクを外し、流し込むように貪り食う。*俗にいう「紋次郎食い」
だが柊は、鯛の昆布巻が高級品であることを知っているので、それだけはちゃんと味わって食べ、最後に合掌をする。
*柊は高級品を分けてくれた織美の優しさに感謝する。そしてそれを察するだけの人間性も、柊にはちゃんとある。
そして食べ終わった柊は、マクスで口元を覆うと、魔狩刀に手を伸ばす。
柊「妖魔……。数は四、いや三か」
誠「思ったより、早いな」
誠之助も魔狩刀を袋から出す。
輝永にハグされ幸せそうな織美。
それとは対照的に、妖魔の気配に気づき、臨戦態勢になる柊と誠之助。
対照的な二組を描き、次回へと続く。
前回からの流れを引き継ぐ。
織美が用意した質素な夕食。それを見た輝永は、何かを言いづらそうな様子。
織美は、輝永の様子に気付く。
織美(ひょっとして輝永さまに、この食事は粗末だったかも)
織美自身、早乙女城が貧しい城なことを自覚しているので、急に慌てふためいて食事のことにフォローを入れる。
織美「ご、ごめんなさい、輝永さま」「うちは決して裕福とは言えず、このような食事しか用意できなくて」「け、けど、今日は輝永さまのために、結納でいただいたこの品も」
唯一の贅沢品である「鯛の昆布巻き」のアップ。
織美「この『鯛の昆布巻き』は、縁起物である鯛を、昆布で包んだものです。それによって、日持ちするだけでなく、昆布の風味が鯛に染み込んで旨みに深みが増すんです」 「せっかくだから、皆で食べようと」小声で『私も、こんな贅沢品、食べるのは初めてですし」
取り繕うように、早口で解説する織美。
だが輝永は、あたふたする織美を宥めるように言う。
輝永「我が妻よ、俺様は食事が粗末かなどは、気にしておらぬ」
織美「えっ?」
輝永「愛おしいそなたが、準備してくれた食事だ。俺様にとっては全てが御馳走」「だが……」
輝永は自分の顔を指差す。そこには美しいが、動かない顎関節。
輝永「傀儡のこの体は、食事を必要としておらぬし、食うこともできぬ」
それを聞いて、織美は顔を真っ赤にする。
織美(私ったら……輝永さまの体のことを、何ひとつ考えもしないで)
そして慌てて言い訳をする。
織美「ご、ごめんなさい、そんなことも理解しないで。ひ、久しぶりに人と食事をができると思って、嬉しくてつい、輝永さまの分も」
輝永はそんな織美を愛おしげに見つめる。
輝永「我が妻が俺様との食事を楽しみにしてくれていた。それだけで心の飢えは満たされた」「良ければ、俺様の分も食って欲しい」
織美「えっ」
スッと御膳を織美に差し出す、輝永の配慮。織美は一瞬、躊躇するが、朝から何も食べていなかった彼女のお腹が、グーッとなる。
○織美の食事シーン
結局、織美は輝永の分も食べる。
山盛りのご飯を食べて、幸せそうな織美。貧乏なので、腹一杯食えるだけで十分幸せ。
その様子を見つめる輝永。
そして輝永は、箸を持ってみせるが、それは幼児のような、握り箸状態。
だが織美の箸使いのアップが写り、輝永が箸の使い方を見て学習していることを示唆。
織美があらかた食べ終わることには、輝永は器用に箸をカチカチさせ、箸使いをマスターしたことを示唆する。 *やや所在なさげ。箸が使えるようになったので、織美のために何かしたい。
そして輝永は、御膳に鯛の昆布巻きが残っていることに、気がつく。
輝永「それは先ほど言った結納の頂き物……縁起物のはずだが、食わぬのか?」
その指摘に、織美は恥ずかしそうに答える。
織美「このような贅沢なもの、次はいつ食べられるかわからないので……最後の楽しみにと。はしたないでしょうか?」
輝永「いや……そのようなことはない」
そして、堂々とした様子で、輝永は織美に提案する。
輝永「ところで、我が妻よ。そなたの幸せそうな表情を見ていて、俺様も気になることがあってな」
織美(私ってば、自分だけ美味しそうに食べて)
輝永「その縁起物を、俺様の手で、そなたに食べさせたいのだが」
唐突な提案に、織美はキョトンとする。
輝永「俺様には、ものを食す喜びはわからぬ。だが、我が妻がものを食すのを見ていると、喜びが込み上げてくる」「だから俺様にも手伝わせてほしい。そなたの幸せを」
そして、いきなりのアーンのコマ。
輝永は見て学んだ器用な箸使いで、織美の前に昆布巻きを差し出す。
自分にご飯を食べさせようとする美しい傀儡、というシュチュエーションに顔を赤らめる織美。
織美は目を閉じ、口を開くと、輝永に昆布巻きを食べさせてもらう。
餌をもらった小動物のように、もぐもぐする織美。
輝永「うまいか、我が妻よ」
食べ終わった織美は、嬉しそうに輝永にいう。
織美「美味しくて、そして幸せな味でした」
輝永「なればよし」
織美を見て、輝永はしみじみという。
輝永「俺様が眠りから覚めた瞬間、頭の中にあったのは、妖魔と戦うことしかなかった。だが目を開けた時、最初に見たのはそなたの美しい花嫁姿。以来、俺様の中では、そなたへの想いが募るばかり」「なぜこうも愛しく感じるのか」
そして輝永は、織美を見つめると席を立ち、織美との距離を詰める。
織美(えっ)
戸惑う織美。
そして輝永は、後ろに周り、優しく織美を抱きしめる。
輝永「そなたを見ていると、不思議な気持ちになる」
抱きしめられた織美は、初めての経験に顔を真っ赤に。
輝永「こうやって包み込むと、我が妻への愛おしさが、ますます深みを増してくる」
輝永に抱きしめられた織美は、人間と傀儡の体の違いに戸惑いながらも彼の好意を受け入れ、頬を染める。
モノローグ「背中に触れる、ひやりとした感触。」「人間のものとは違う、石のように硬く、氷のように冷たい腕。
ああ、この人はやっぱり『傀儡」なのだと、肌が教えてくれる」「 血の通わないその身体には、鼓動さえ聞こえない。
けれど、どうしてだろう……」「 凍えるほど冷たいはずのその腕が、 どんな熱よりも優しく、私の心を溶かしていく」
愛おしさを感じた織美は、抱きしめてくる輝永の手に、そっと自分のを重ねる。
モノローグ「体温のない貴方の腕の中が、 今、世界で一番、私にとって暖かい場所」
盛り上がりのオチとして、輝永は真顔で少しズレた例えを持ち出す。
輝永「そう、我々はまるで、昆布巻きのようだ」
それを聞いて織美は、プッ吹き出す。
輝永「何かおかしなことを言ったか?」
織美「いえ、そういうところが、輝永さまの愛おしいところです」
織美を優しく抱きしめる輝永は、ふと何かに気づく。
輝永「そういえば、我が妻よ。この昆布巻きは『皆で』で食べようと言ったな」
織美「……」
輝永「離れに追いやった奴らにも、食わせたのか」
織美「せ、せっかくですから、あのお二人にも」
輝永「あやつらなど、馬小屋で飼葉を食らって居れば良いのに……」
そう言って、輝永は織美を少し強く抱きしめ、自分の頬を織美の頬につける。
輝永「我が妻はどこまで寛容で優しいのか」
○場面は、誠之助と柊にあてがわれた小屋。
八畳一間ほどの大きさで、簡素ではあるが決してボロ小屋ではない。その小屋で、誠之助と柊の二人は、夕飯をとる。
用意された食事は、織美たちが食べたものと同じ。
誠之助は、食事内容に文句を言うこともなく、合掌して食べ始める。
そしてふと、お膳につけられた昆布巻きを箸でつまみ、躊躇なく口に入れる。 *ボンボンなので、織美のもてなしに気づかない
一方の柊は、部屋の隅で食事を取ろうとしている。
御前の上の飯は、焼き魚を飯に乗っけて、汁をかけてある。柊はマスクを外し、流し込むように貪り食う。*俗にいう「紋次郎食い」
だが柊は、鯛の昆布巻が高級品であることを知っているので、それだけはちゃんと味わって食べ、最後に合掌をする。
*柊は高級品を分けてくれた織美の優しさに感謝する。そしてそれを察するだけの人間性も、柊にはちゃんとある。
そして食べ終わった柊は、マクスで口元を覆うと、魔狩刀に手を伸ばす。
柊「妖魔……。数は四、いや三か」
誠「思ったより、早いな」
誠之助も魔狩刀を袋から出す。
輝永にハグされ幸せそうな織美。
それとは対照的に、妖魔の気配に気づき、臨戦態勢になる柊と誠之助。
対照的な二組を描き、次回へと続く。


