○場面 前回からの続き。城弥の書斎

 いきなり動き出した傀儡と、襲いかかってきた忠房に戸惑う織美。

 そんな織美を無視して、傀儡は彼女の前に出て、忠房と対峙する。
 忠房は口元から涎を垂らしながら、傀儡に告げる。
忠房「傀儡風情が、邪魔スルナ」
 傀儡は、その言葉を無視して、まるで汚いものを触れたように、忠房をつかんだ右手を柱にのじりつける。 *傀儡、潔癖症
 そのマイペースな行動に、忠房はカチンときて、傀儡に向かって飛びかかる。
忠房「馬鹿ニシタッ!」
 次の瞬間、傀儡は先ほど織美が手にした日本刀を掴むと、一太刀で忠房の首を刎ねる。
 傀儡が手にした刀は、魔狩刀のような独特の波紋はない普通の日本刀。だが傀儡が持つ妖力が、ただの日本刀でも妖魔を斬ることを可能にした。
 華麗ではなく質実で無駄のない傀儡の動きの美しさに、織美は見惚れる。*ここが決めのシーン
織美(私の危機に現れたその傀儡は……)(強く……そして美しかった)

忠房「なぜ……ただの刀で、麻呂の体を……」
 首を斬られて忠房は、死ぬ直前、ちょっとだけ人間に戻る。斬られた断面からの出血は無しで煙が出るだけ。*必要以上にグロならないように。
 一方の日本刀は、妖魔を斬ったせいか、大きく刃こぼれをしている。
 傀儡はそれを無表情で見ると、体がそれを覚えているように、城弥と同じ回転納刀の動作を行う。
 それを見た織美は、目の前の傀儡が、義兄と同じ動作をしたことにびっくりする。

 戦いが終わったタイミングで、誠之助が駆けつける。魔狩刀を持っているが、抜いてはいない。
誠「忠房様っ! ここにおられるか」
 と、言った誠之助の目の前で、忠房の体は塵となって消えてゆく。
 その光景に、誠之助は刀を構える。
誠「新手の妖魔か?」
 しかし傀儡は誠之助を無視。
傀儡「貴様こそ何者? 我妻に手を出すのなら、貴様も地獄へと落ちるぞ」
誠「妻?」
 この場にふさわしくない言葉に、誠之助は固まる。
織美「あの〜」
 そこで控えめに、手をあげる織美。
織美「多分、妻というのは、私のことかと」
 傀儡、尊大な感じで織美にいう。
傀儡「俺様の妻にふさわしい存在は、そなた以外におるまい」

傀儡「で、貴様も俺様とやり合うのか?」
誠「いえ、そのつもりは」
 誠之助は刀を納める。
誠「それよりも……教えてほしい、あなたが何者なのか」
 表面上は礼儀正しいが、いつでも戦える状態で、誠之助が傀儡にたずねる。
 傀儡、少し迷うが、誠之助の質問に答える。
傀儡「何者というか。俺様は俺様だ。それ以外の何者でもない」
 微妙に会話が噛み合わない。
誠(この傀儡には……妖魔が取り憑いているのか?)
 目の前には、悠然と全裸で佇む傀儡。そこに誠之助のモノローグが被る。
誠(だが、こいつ、拙者より遥かに強い。なぜこのような、強力な妖魔がここに)

 誠之助の回想。帝が、誠之助に告げる。
帝「誠之助よ。近年、妖魔の勢力が増してきておる。そこで余は、妖魔からこの国を守るための、傀儡を作らせた」
誠之助「傀儡、ですか?」
帝「そう、人にあらざるものの相手は、人にあらざるものに任せれば良い」
 ニヤリと笑う帝。

 そのことを思い出した誠之助。
誠(この傀儡が、帝様が言っていた、それだというのか)
 そんな誠之助の緊張を無視し、傀儡は織美の元へと歩む。
誠「織美姫っ」
 織美がピンチだと勘違いした、誠之助が再び刀に手をかけようとする。
 しかし傀儡は、そのまま織美の前に跪き、スッと織美の手をとる。美しい傀儡の横顔。
傀儡「強いていうなら、俺様は我が妻の守護者」
 誠之助が織美を見ると、彼女は少し引き攣った笑顔で、傀儡が自分たちに危害を加えるつもりはない、という表情をする。
 それを見て、誠之助は刀から手を離す。


○場面は変わり、結婚式が行われていた広間。

 広間にいるのは、織美、誠之助、綾華の三人。
 織美は花嫁衣装のまま。角隠しは外している。 *傀儡は城弥の部屋で、寂しそうに待機(体育座り)
 誠之助の横には、忠房の首が入っているという名目の首桶がある。誠之助の魔狩刀は袋に包まれている。

 織美は傀儡のことを思い出す。*回想シーン
傀儡「俺様が今外に出れば、余計な混乱を招くというのなら、ここでそなたを待っておる」
 そして、少し躊躇していう。
傀儡「なるだけ早く、戻ってきてほしい」
 だが織美には戸惑いしかない。
織美(そうは言っても)

 綾華は、酷い目にあった織美を無視して、誠之助との距離を縮めようとする。
綾華「けど、びっくりしましたわ。いきなり花婿様が、乱心されるなんて」
 嘘の報告で、今回の件を取り繕う誠之助。
誠「忠房様は、以前より心の病を抱えておられました。それが儀礼婚の重圧に耐えられず、このようなことに。早乙女家のお二方には、ご迷惑をおかけいたした」
 綾華、沈痛な面持ちの誠之助に付き合うように、悲しげな目をし、口元を袖で隠す。一方で隠れた口元は、笑いを堪えるので精一杯。
綾華「そのような。義妹も帝様の縁談を楽しみにしておりましたのに」(だから織美のような女に、帝の一族との縁談が来たのね。厄介者って、どの家系にも存在するものね)
綾華「ほんと。義妹とは、お似合いの方だったのに」

 一方の誠之助は、綾華には興味なさそうに、淡々と告げる。
誠「織美姫を守るため、やむなく忠房様に手をかけてしまいました。たが、この事が公になれば、帝様の名に傷がつきます。御二方、本日のことは、くれぐれもご内密に」
 織美は、嘘をつくのが苦手なので、少し戸惑いながら、相槌だけ打つ。
織美「はい、今日のことは誰にも」
 そこに綾華は、誠之助にアピールするように、ぐいっと前に出る。
綾華「わたしも、誠之助様の言葉だけを、母に報告いたします。帝様への謁見も許された名門、磯城嶋家のものとして、帝様のご威光を傷つけるような真似は決していたしませんわ」
 そう言って、綾華は自分の身分の高さと容姿をアピールする。
誠「ありがとうございます」
 と、誠之助はニッコリ微笑む。そのイケメンぶりに、綾華は顔を赤くする。
 そして、誠之助はそんな綾華を無視して、織美に頭を下げる。
織美「今回の件は、こちらで全て事後処理いたします。織美姫には、今までと変わりなき生活を、今後も送られますよう」
 そして誠之助は、心配したような表情を織美に向ける。
誠「本当によろしいので?」 *傀儡と二人でこの城に残ることを聞く
織美「大丈夫です。少なくとも、アレは私には危害を加えないと思います」 *この時はアレ呼ばわり
 織美は何かを諦めたような表情で、表面だけは笑って見せる。
織美「それに私にはここしか、居場所がありませんから」

 首桶を包んだ風呂敷を手に、誠之助が早乙女城を去る。

 そして残されたのは織美と綾華。
 綾華は一刻も早く家に帰りたい様子で、最後に織美に嫌味をいう。
綾華「全く、こんな山奥まで来て、しょうもないことに巻き込まれて」(けど、誠之助様のような素敵な方に出会えたのは幸運だったわ)
 そして綾華も早乙女城を去る。その際に、そして勝ち誇ったように言う。
綾華「あなたはこのボロ城で、一生、一人きりでいるのがお似合いなのよ」

 豪華な馬車に揺られて帰路に着く綾華。
 それを城から見ながら、織美は小さな声で呟く。
織美「私はこれからも、この城で……」
傀儡「邪魔者は去ったか、我が妻よ」*織美のつぶやきを邪魔するように、セリフだけ。
 そして傀儡が姿を見せる *全裸だが、この時点では織美は傀儡を得体の知れない存在としか思っていないので、全裸も平気。
 敵ではないとはいえ、得体の知れない傀儡への警戒心を解くことができない織美。
 堂々とした傀儡に、織美は恐る恐る聞いてみる。
織美「あなたは何者なのです。そしてなぜ、私のことを妻と呼ぶのです?」
 その質問に、傀儡は一瞬思考停止。
傀儡「俺様が何者かは、自分でもわからぬ。何せ、過去の記憶がほとんどない」
 自分の過去がないことには、全く不安がない傀儡。
傀儡「そんな俺様が、眠りから覚めた時、目の前にそなたがいた。そして俺様はひと目見てわかった」「そなたは我が花嫁だと」
 いきなり花嫁呼ばわりして、ドキッとする織美(戸惑いのみで、トキメキはない)
 ある意味、全く理由になっていないのだが、傀儡は説明を終えると、一人で納得して見せる。
傀儡「そなたの存在が、俺様がこのように生を受けた意味。天命であろう」
 その傀儡の言葉を聞いて、顔を引き攣らせる織美。当然、傀儡の妻という立場も、受け入れられていない。
傀儡「その証拠に、そなたと共にいると、我が魂は昂り、そなたの危機を感じた瞬間、この手が不浄を滅ぼさんと動き、そなたを守ることで我が魂も安堵した」
織美(魂……)
 傀儡の愛が重い織美。
傀儡「そして、そなたが去った後、あの部屋で一人、かつてない孤独を感じた。そして邪魔者が失せた今、我が妻に合いたくてたまらなくなり、ここに参った」
 あれだけ強い妖魔の傀儡が、ちょっと織美がいなくなっただけで寂しくなる事実に、傀儡の中に人間味を感じる。
織美(この人も、一人が寂しかったんだ……) 
 シンパシーを感じる表情をする織美。

 そしてふと傀儡を見る。
 長身で、均整の取れた筋肉質な体は、人形ゆえに人を凌駕した美しさを持つ。
 そして、その美しさに、人間味が加わった瞬間。織美は傀儡を異性として意識して、顔が真っ赤になる。
傀儡「そのようなわけで、我が妻よ。夫として、そなたのために何かすることはあるか?」
 まるで、起動したばかりの機械のように命令を待つ傀儡。
 それに対して、織美は顔を真っ赤にし、傀儡から視線を逸らしていう。
織美「ま、まずは何か着てください」
傀儡「服? そのようなもの、この体には必要ないが?」
織美「わ、私には必要なんです」 *ギャグっぽくやりとりする

*この段階では、まだ傀儡の一方通行。けど、傀儡が敵ではない安心感と、最後に見せた人間味の影響で、織美は傀儡のことを「物」ではなく「人」と意識し始める。だから全裸を見て赤くなる。
 一方、性的な感情のない傀儡にとって、何か着る必要がないのでピンとこない。

 傀儡が得体の知れない存在ではあるが、織美への盲目的な愛情を持つ存在であることを示唆して、次回に続く。