「先輩、好きです」

 目の前に立つ彼はそう言った。
 この言葉は今まさに俺に向けられている、その事実がどうにも信じられない。
 放課後の夕日の差す校舎裏で名前も知らない彼に呼び出されて、こんな言葉を投げかけられたら、混乱して夢でも見ているのかという錯覚に陥ってしまうのはおかしなことではないだろう。
 だってこんなこと恋愛漫画じゃあるまいし。
 俺がヒロイン側になるなんてあり得ないし。
 彼の猫っ毛の茶色の髪は、自然が生み出したスポットライトにあてられキラキラ光っていて、そこからも現実味の帯びない気分になる。
 俺が見下ろしてやっと顔が見えるくらい、小柄な体型、小さな身長。プライベートで彼にあっても、失礼ながら高校生だとは思えないだろう。童顔な顔についた焦茶色の2つの瞳は、その顔と反して頼りがいのある鋭い力を感じた。
 そんな彼の様子を見ても、会ったことがある気がしなかった。もし会っていたら、あまりの小ささで記憶に残ると思うからだ。
 彼からの告白はもちろん断った。嬉しさよりも不気味さや不信感が勝ったのと、彼を何も知らない状態で付き合うことは彼にとって失礼だと思ったから。
 それでも諦めずに追いかけてきてくれる彼には鬱陶しさを感じたこともあったけれど、それでも、明らかに俺の生活に光を灯してくれたのは彼自身だった。
 まさかこんな不思議な出会いが、俺の日常に新たな彩りを与えてくれるなんて思わなかった。
 彼を知っていくたびに、俺にはもったいなさを感じる。
 この人はどうして俺を好きになったのだろう。
 どうして俺に告白してくれるのだろうと。