俺たちが叫び声の元に駆けつけると、シスターが食堂でうずくまっていた。

 「シスターノエナ。なにがあったのですか?」

 「リズ~~~またでたよぉおお!!」

 シスターノエナが涙目でリズにしがみつく。

 「ええぇ~~また~~!?」

 あとから駆けつけたシスターマリルがガックリと肩を落とす。

 「またでた? どういうことですか?」

 シスターたちの話によると。
 どうも、数カ月前からこの教会では異変が起こっているらしい。

 「昼食が盗み食いされているの……でも誰かが忍び込んだ形跡はなくて」

 「シスターノエナは犯人を見なかったのですか?」
 「うん、リズ。ちょっとキッチンに行って戻ってきたらこのありさまで」

 ノエナの言うとおり、テーブルの上にのった皿から野菜がこぼれて散乱している。
 犯人が荒らしたのだろう。

 「なるほど、窓も閉まっていますし。廊下に出れば誰かが目撃するはず……」

 「ここ数日は無かったんだけどねぇ」

 「……人の仕業ではないのかもしれませんね」
 「ええぇ……リズ、それって……」

 「ゴーストとかいたりして……」

 シスターノエナがポツリと呟いた。
 ゴーストか、俺は見たことがないが実体を持たない魔物だったかな。

 「調べてみないとなんとも言えないですが、私達で出来ることをやってみますね」


 ということで―――


 俺たちはさっそく現場調査にのりだした。

 「これが被害にあった料理たちだな」
 「ええ、バートス。なにか手掛かりがないか探しましょう」

 俺はマジマジと食卓に並んだお昼ご飯を見る。

 「むう……大皿のメイン料理だけが消えている」

 シスターノエナによると今日のお昼は「鶏のからあげ」だったらしい。


 うわぁ、からあげかよ。食べたかったよう。


 「たしかにメインが消えてますねバートス。ですがグリーンピースとピーマンには一切手をつけていません」

 「てことは~~犯人はお肉好き? あたしはグリーンピース好きだけどな~」

 カルラがグリーンピースをひとつ、つまみ食いする。
 こら、行儀が悪いぞ。

 「う~む、犯人は好き嫌いの多いやつなのかもしれん」
 「シスターノエナがいないわずかな時間で、これだけの量を盗み食いできるものでしょうか?」

 リズの言うとおりすべての大皿からからあげが消えている。10人前以上だぞ。
 なんで全部食べちゃったんだよぉ……

 「犯人は複数なのでしょうか」
 「でもリズ~~犯人がいっぱいいるなら、それこそ誰かが気づくんじゃない?」

 「とすれば犯人はよほどの食いしん坊でしょうか? そういえばカルラは鼻が効きますよね、なにか感じますか?」

 「んん~~魔族の匂いはしないなぁ~~でもかすかに……これどこかで……うん、やっぱ分かんないやリズ」

 「そうですか、なにか収納魔法や魔道具を使う可能性もありますが、それだと食堂に入る必要があるし……」


 俺たちが頭を抱えていると―――


 「わぁ~~ん!!」


 今度はなんだ!? 

 「キッチンの方です!」

 俺たちがキッチンに行くと、子供たちが泣いていた。


 「「「ドーナツが無くなっているよぉ~~しくしく」」」

 「どーなつ??」

 「「「今日はおやつの日だから楽しみにしてたのにぃ~~しくしく」」」


 「リズ!! どーなつってなんだ!?」


 「ええぇ……ドーナツと言うのは、パンを揚げた甘い菓子です」

 「すっごくおいしいんだよぉ~」
 「輪っかなんだよぉ~」
 「サクサクフワフワ甘いんだよぉ~~」

 子供たちが口々にどーなつの凄さを語る。

 マジか……めっちゃ美味そうじゃないか。
 いかん、よだれ出そう。

 「楽しみにしてたのに~~しくしく」

 「くっ……子供たちの楽しみを奪うとは」
 「そうですねバートス。犯人にはきつくお灸を据えなないといけませんね」

 「「「おじちゃんの分もあったのに~~無くなっちゃった~~しくしく」」


 ―――なんだって!?


 俺の分もあったのか!?


 「うぉおお、俺もどーなつ食べたかったのにぃいいい!!」


 「バートス! 捜査に集中してください!」

 「……はい」

 ちょっとどーなつにテンションが上がりすぎた。
 でもどーなつ気になるんだよぉ。どんな味なんだろうか。

 俺がシュンとなっていると、シスターノエナがとんでもないことを言う。

 「あ、ドーナツなら多めに揚げたので、まだありますよ」

 えぇええ! 


 ―――マジで!?


 「えええぇ~~本当? ノエルおねえちゃん!」
 「やった~~ドーナツまだあるんだ!」
 「いつもの棚だよねぇ~~! やった~!」
 『なんじゃと! 見逃しておったのじゃ!』

 うぉおおお! どーなつ、どーなつ、どーなつ!

 シスターノエナは天使なのか!

 ―――あれ?

 ちょっと待てよ。

 なんか今、変な声が混ざっていたような。

 でも声質は子供っぽかったけど。

 「はい、たしかその棚に入っていま……」

 そこでシスターノエナの声が止まった。


 「わあぁあ、せいじょさま~~おじちゃん~~あれ!!」

 天井から灰色のシミが広がり、ニョロっと出た手がどーなつを掴んでいるではないか。


 「な! なんですか! ご、ゴースト?」


 『し、しまったのじゃ……つい手がでてしもうた』


 「ご、ゴーストがしゃべりましたよ! バートス!」


 「ああ……わかっているリズ」


 ゴースとだろうが、魔物だろうが関係ない。
 おまえはやっちゃいけないことをやってしまった。


 どーなつ泥棒――――――覚悟は出来ているんだろうな!