◇ザーイ王子視点◇

 ラスガルト王国王都の王城にて。


 「が―――! クソ!」

 何だこの髪は! 抑えても抑えても爆発しやがる!

 「少し経てば元通りですわ~。なんといってもザーイさまはいずれ王になられる方なのですから~」
 「そ、そうだな。さすが俺の聖女ミサディだ!」

 たしかにミサディの言う通りだ。イケメンの俺がいつまでもこんな爆発した頭なわけがない。
 やはり俺の聖女は俺様の事を良く分かってるぜぇ。

 「それにザーイさまの放った刺客が、そろそろ朗報をもたらせてくれますわ~」
 「おお、そうだった。この俺様の暗殺者が、リズの仲間を皆殺しにしている頃だな~~」
 「さすがは次期国王様ですわ~~冴えてる上にイケメン~~」

 そうだ、俺は王国一の暗殺毒使いにリズの従者を皆殺しにするよう指令を出したのだ。

 リズのやつ、生意気にも従者なんか連れやがって! 
 あの出来損ない女はひとりぼっちがお似合いなんだ!

 それにあのおっさん……この俺様をこんなアフロにしやがって。

 その報いは受けさせてやるぜぇ。俺様の放った優秀な暗殺者によってなぁ。


 グフフ~~楽しみだぜぇ。


 そこへ1人の兵士から報告が入る。

 「―――ザーイ殿下! 殿下宛に伝書鳥が届きました!」

 「おお! 来たか!」
 「あ、殿下。差出人の名が書いてありませんが……」
 「やかましい! さっさと寄こせ!」

 俺はのろまな兵士から手紙をひったくると、バリバリと封を破く。

 グフフフ~~おっさんは始末されたって報告に違いないぜぇええ。


 ―――――――――――
 アフロ王子へ

 なんだあのおっさんは! 話が違うぞ! 
 とんでもない毒耐性があるじゃないか!
 危うく死にかけたぞ! 前金は慰謝料として貰っておくからな!
 二度とこんな王国に近づくか!

 バーカ!
 ―――――――――――


 ああ?

 「ふ、ふ、ふ……」

 「で、殿下。どうなされたのありますか?」


 「――――――ふざけるなぁあああああ!!」


 なんだこれは?

 あのおっさんに毒耐性だとぉ? そんなもんあるわけないだろ、こいつアホか?
 チッ、初めから前金をネコババする気だったな……クソっクソっクソっ!!

 「ひぃ……爆発ヘアーがさらに爆発してる……わ、わたしはこれで失礼するであります」

 「おい、ちょっとまて!」

 「ひぃ、八つ当たりはご勘弁を、私には家でお腹を空かせている妻子がいるんですぅ。ただの一兵卒なんですぅ」

 「ああ! 意味わかねぇこと言ってんじゃねぇよ。その手に持っている手紙を寄こせ!」

 「い、いえ。これは国王陛下宛のものでして……」
 「ああ? 俺様が次期国王なんだから、問題ないだろうが!」

 「ええっと……その殿下は第2王子でして……その次期国王では……」

 「ああぁ? ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!」

 俺はぼんくら兵士から手紙をむしり取る。


 ―――んん? 差出人……リズロッテだとぉお?


 「よし、クソ兵士。おまえは下がって良いぞ」
 「いや、しかし。アフロ殿下……じゃないザーイ王子殿下、それは国王陛下宛の……」

 「―――やかましいぃ! だれがアフロ王子だ! さっさといけ!」


 ぼんくら兵士の背中を蹴り倒して退出させると、俺は手紙の封をあける。

 なになに……

 「……キングポイズントードを討伐しただとぉ?」

 バカな? あの出来損ない聖女のリズロッテだぞ?


 一体どうなってやがる……


 「ザーイさま、たかが一体討伐しただけです。恐れることなどありませんわ」

 「おお、そうだなミサディ。そうそうまぐれが続くわけがない」

 そうだ、これはまぐれだ。
 出来損ない聖女とおっさんだぞ。

 「そうですわ~~さすが賢明なザーイ様。どうせ次で全滅しますわ。その時はこの討伐報告も全てザーイ様の行いにしましょう」

 「おお! な、なるほど」

 「当然のことですわ。全てはザーイ様のご指示による討伐。であれば、ザーイ様が討伐したも同然ですもの~~ンフフ」

 「うむうむ! そうだ、そうだよな!」

 さすが俺の聖女ミサディだ。俺の事は全て理解している最高の女だ。

 「ところで、聖女リズロッテが次に向かうのはどこでしょうか?」
 「うむ、ストーンシティに行くとあるな」

 「ンフフ~~ストーンシティですか。とうことはあそこにいるのは~~
 ザーイさま、リズロッテの悪運もここで尽きますわ~~しばらくしたら出来損ない聖女ご一行の石像を見に行きましょう~ンフフフフ」


 聖女ミサディの笑い声が、王城の一室に響くのであった。



 ◇◇◇



 ◇バートス視点◇

 「リズ、あと少しで目的の町だな?」
 「ええ、バートス。もうすぐストーンシティに着きますよ」

 キングポイズントードを討伐した俺たちは、次の討伐対象が出没する場所へ向かっていた。

 「なんだかやけに石像が多いな」

 先程から道の周辺にポツポツと石像が置かれていた。
 走るポーズや驚いた顔など、やけにリアルな感じがする。

 「いえ……バートス。これは石像ではありません。元は人間です……」

 「え……そうなのか!」

 「はい、石化させられてしまった人たちです……今回の討伐対象キングコカトリスの仕業です」


 マジかよ……今度こそヤバそうだ。そりゃそうか、トカゲやカエルみたいな楽なのばかりじゃないよな。

 しかし……石になるのは嫌だ……


 「今回もとても危険な任務になりますよ。気を引き締めていきましょう。バートス、頼りにしていますね」

 「ああ、出来る限りの事はするさ」


 こんなおっさんでも頼りにしてくれるリズ。


 この小さな頑張り屋さんの少女の頼みだ。ビビってばかりもいられん。

 おっさんも気合入れんとな。